私は生きている
目が覚めたエリーザベトはベッドの上だった。
何が何だか分からずに首に手をやった。
首は身体と繋がっていた。
⦅繋がっている……。 あれは、夢?⦆
手が温かかった。
見ると、エリーザベトの手を優しく包み込んでいる母・ルイーゼの姿が目に入った。
⦅嘘っ!……お母様! 生きておいでなのね。
……………いえ、やはり夢?
死ぬ前に見る幸せだった頃の……これは、夢?⦆
「お母様?」
「エリーザベト! あぁ……神よ。感謝申し上げます。」
「……お母様。」⦅夢でお母様に会えたのね。もうお会いできないと……。⦆
「エリーザベト………。目を……目を覚まして……。」
「お母様……。」⦅どんな理由でもいい。お母様が生きてくださっている。⦆
「シモーネ!」
「はい。」
「エリーザベトが目を覚ましたこと、大公にお伝えして!
それから、お医者様をお呼びして!」
「はい。承知いたしました。」
見慣れた部屋だった。
何度見渡しても、この部屋はエリーザベトの幼い頃からの部屋だった。
⦅変だわ。私はフリーラン王国に嫁いで……そして、アンリとフィリップを産
み……そして、処刑された……はずなのに……。
夢だったの?
あんなに鮮明で怖い夢……。
いいえ、夢じゃないわ。あれは、私の身に起きたことなのよ。
……でも……私の身体……幼いわ。手も…こんなに小さくて……。
…………お母様が生きていて下さった………。
お父様、……デートリヒ……シャルロッテ……。
無事なのよね。無事に……居てくれるのよね。⦆
部屋に最初に入って来たのは医師だった。
診察を受けた。
「驚きました。
こんなにも回復なさるとは思いも寄りませんでした。」
「あの……私はどうなっていたのですか?」
「階段から落ちられたのでございます。
そのまま気を失われて……もう一月でございます。」
「そうなんですね。」
「もうお身体は大丈夫でございましょう。」
「そうなのですね。」
医師が下がった後、公務を終えた父・フラン大公が部屋に入って来た。
「お父様―――っ!」
「エリーザベト! よく目を覚ましてくれた。」
フラン大公はエリーザベトを抱きしめて涙していた。
「もう、二度と会えないのではないかと……。
私は……もう子を失いたくない!
エリーザベト、もう一度顔を見せておくれ。」
「はい。お父様。」⦅お父様にもお会いできた……嬉しい……。⦆
「良かった。本当に……良かった。」
⦅お母様も泣いていらっしゃる……。
死ぬ前の夢でいいわ。
もう一度、お会いできたんですもの。お父様、お母様に……。⦆
「お母様……。」⦅温かい……お母様の手……。⦆
「エリーザベト……。」
傍に居た母・ルイーゼがエリーザベトの手を優しく包んで、その手を額に当て「神よ。感謝申し上げます。我が娘エリーザベトを私の元に戻してくださったこと……感謝申し上げます。」と目に涙をいっぱい貯めて言った。
それから、エリーザベトが「死ぬ前に神が見せてくれる夢」だと思っている今が現実だと分かるのに時間が掛かった。
侍女に聞いて年齢をエリーザベトは知った。
この世界でのエリーザベトは9歳だった。
嫁いだのは15歳。
「9歳なら、まだ時間がある。」と思ったエリーザベトは、記憶している限りのことを時系列に並べて書いた。
⦅フリーラン王国に侵攻された過去を変えなければ……!
侵攻できなくするか……。
それとも、侵攻されても敗戦国にならなければ……いいのだわ。
それには……。⦆
対策を考える時間は短ければ短いほど良い。
そして、それを直ぐに講じなければならない。
⦅もう二度と……二度と、お父様、お母様を殺させないわ!
デートリヒも、シャルロッテも殺させないわ!
もう二度と………レオポルト、あなたを愛さないわ。
あなたに絶対に嫁がないわ。⦆




