晩さん会
国内の貴族たちが集まる晩さん会にエリーザベトを国王は呼ぶことはなかった。
常に夫の傍に愛妾が居たのだ。
まるで、妻のように……そして、そのドレスは王妃のようだった。
宝石が鏤められた真っ赤なドレスの裾を翻して、愛妾・リヴィアは満面の笑みを湛えていた。
見事なブルネットの髪を左肩から流して、大きく開いた胸の谷間にまで達している。
その胸の谷間には、この国でリヴィアだけが持つ王家ゆかりの首飾りが煌めいていた。
そして、まるで王妃の謁見のように貴族からの挨拶を受けていた。
最初の国王のダンスはリヴィアと踊るのが常だった。
この日も変わらなかった。
リヴィアは安堵した。
⦅昨夜、陛下は王妃様のところで一夜を過ごされた。
でも、何の問題も無かったわ。
だって、今、この晩さん会で陛下の隣に居るのは私ですもの。
王妃様はお飾りにもなれない……ただの子を産む道具なんだわ。
陛下の愛は私一人だけに注がれているわ。⦆
その晩さん会の夜、エリーザベトは資料を読んでいた。
財務大臣から新しく貰った施設の候補地の資料だった。
そこにある古い屋敷を買い取って、必要な補修をし、必要な家具や物品を購入するための資料だった。
呼び出している財務大臣・ディディエに伝えた。
「ここしかないのですか?」
「はい。王都にある使われていない広い屋敷は、現在、この一つでございます。」
「仕方ありませんね。 この物件で始めましょう。」
「はい。」
「進めてください。そして、必ず民を救うのです。」
「はい。」
「財務大臣。」
「はい?」
「私は視察に行きます。」
「王后陛下が?」
「はい。進捗状況を見なければなりません。
施設に子らが入った後も視察に行きます。
それも、陛下のご英断を賜りたいと申していたこと、伝えてください。」
「承知いたしました。」
それから、エリーザベトの日中は財務状況を学ぶだけではなくなった。
施設への視察が加わったのだ。
施設が王妃によって運営されるようになると、国民の王妃への眼差しが変わっていった。
そして、夫であるレオポルトと過ごす時間がエリーザベトの心に今までにない感情を芽生えさせていた。
エリーザベトがフリーラン王国の王妃になって1年が経った頃、エリーザベトのお腹に命が育まれていた。
エリーザベトは1年の月日を経て、誠の王妃になったのだった。
晩さん会で国王・レオポルトの隣に居るのは、愛妾のリヴィアではなかった。
国王の隣には王妃・エリーザベトの姿があった。
国王の最初のダンスの相手は王妃・エリーザベトになっていたのだ。
それを見つめている目があった。
その目は嫉妬の炎を宿していた。
⦅陛下は私のところへ戻ってきてくださる。
子が生まれるまでだわ。
あの王妃は子を産ませるための道具ですもの。
今だけだわ。今だけ……。⦆