終戦交渉
晩秋の風が庭園を吹き抜けている。
冬に向かって行く前で肌寒さを感じる風。
弟と妹が追いかけっこをして遊んでいる姿を眺めていると、愛らしさに自ずと笑みが漏れる。
二年余りの戦争が終わり、やっと平和がやって来た。
フラン公国にとっては、巻き込まれた戦争と言える。
デュッセルドルク帝国の同盟国であるフラン公国。
かつて、デュッセルドルク帝国皇帝の弟・フラン公爵が皇帝から委ねられて作られたフラン公国。
フラン公爵が初代フラン公国の大公になったのである。
現在のフラン大公が、デュッセルドルク帝国とフリーラン王国との戦争に帝国から参戦を要求され、その要求に応じたのだ。
市井では子を失った親、夫を失った妻、そして、親を失った子どもが満ちていた。
戦争が終わっても愛する家族が帰って来なかったからである。
その状況でも城は変わっていなかった。
……そう思っていた公女・エリーザベト。
だが、終戦処理が始まったばかりだったのである。
まだ今は停戦しているだけだった。
そして、終戦交渉の最中だったのだ。
フリーラン王国とデュッセルドルク帝国・フラン公国との終戦交渉の際に、フリーラン王国からの最後の要求だった。
それは、「デュッセルドルク帝国の皇女をフリーラン王国に嫁がせる」ということだ。
実質の人質である。
デュッセルドルク帝国の皇女は産まれて間もなく……。
「我が娘は産まれて半年も経っておらぬ。
そのことは無理である。」
「分かっております。」
「娘を嫁がせること以外では為らぬのか?」
「……そのことのみを要求されております。」
「敗戦に近い我らには拒否できぬということであるか……。」
「御意。」
「……私には娘が二人おります。」
「フラン大公!」
「下の娘はまだ幼く……上の娘なら……。」
「フラン大公、朕は貴殿の公女をフリーランの国王に嫁がせたくない。」
「それしか手はありますまい。」
「大公……朕が無力であったために……。
もっと早くにフリーラン王国の動きを察知出来ていたならば……
侵攻を防げたかもしれぬ。」
「それは! 私も察知できませんでした。」
「否、朕と違って貴殿は……。」
「皇帝陛下……これから先のために考えましょう。
もう終戦をするために、民のために……。」
「…そうだな。終戦と戦後の復興が大切だ。」
「そうでございます。
皇帝陛下、私はすぐに帰国し、娘に伝えます。
フリーラン王国が飽く迄もデュッセルドルク帝国の皇女を求めているのなら、娘
を陛下の養女にして頂きとう存じます。」
「フラン大公……済まぬ。」
「これで停戦から終戦になってくれれば幸いでございます。」
「済まぬ……フラン大公。」
「では、フラン公国から公女様が嫁がれると……交渉の席に戻り、この決定を話し
て参ります。」
「うむ。頼んだぞ。」
「はい。承知いたしました。」
終戦交渉はこうして終わったのだ。
デュッセルドルク帝国とフラン公国からの賠償金だけではなく、表立っての名目は「平和のため」デュッセルドルク帝国からフラン公国の公女・エリーザベトがフリーラン王国に嫁ぐということで、この二年に渡る戦争が終結したのである。