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みかみさん
釣りを始めた頃、お義父さんから紹介された人の中に、みかみさんがいた。
名刺を交換する訳では無いので漢字はわからない。
当時50代くらいか。
スラットした長身の人だ。
以前は家族がいたが、一人暮らしと聞いている。
物静かで、釣り師が川にたくさん入っている時は、トラブルを避けて川に入らず他の人が出るまでじっと岸辺で座って待っていた。
昔のことなので、クーラーボックスにビール缶を入れており、そのビールを美味しそうに飲みながら一日中釣りを楽しんでいた。
上流の発電所の放流により、一斉に鮎が上がってくる事がある。
そのタイミングで大量に鮎を釣り、ブリキ製の鮎缶と呼ばれる、石の重しを乗せて水中に沈める入れ物に移していた。
日に何度かのそのチャンスをビールを飲みながらのんびりと待っていた。
時には、他の釣り人に鮎缶ごと鮎を盗まれたと聞く。
ある日、岸辺に10個ぐらいの鮎缶が並べられていた。
みかみさんが置いたものだ。
理由を聞くともうこんなに要らないから要る人に貰って欲しいと。
昔は会社を経営していたが、会社を潰してしまったと聞いた。