1−8 東行き
食事も終わり、上り電車に乗る。
緑の中を線路は伸びる。
初め、人は川沿いに集落を作る
やがて道ができれば道沿いに
やがて線路ができれば線路の駅を核に集落を作る
車が普及するとまた道沿いに集落を作る
そうすると駅前が廃れる
でも駅前が廃れると人が駅に流れなくなり
鉄道の便が減ると
その周囲の道路にも人が流れなくなる
私のとなりの市は道沿いに核を作ろうとして頓挫した
工業団地に高校を併設したけれど
10年前にもっと駅に近い高校に統合された
つまりこの国の産業の拡大が止まり
その衰退が人を減らしている
産業の衰退が税収の伸び悩みを産んでいるなら
産業振興をしなければいけないのに
税収を増やすために増税をすれば
ますますこの国は衰退するだろう
権力者は何故、そんな近い先の事すら気づかないのだろう
日が西よりになった気がする
星に命はあるのか
星は回り
星は巡る
それを人は日が登り日が沈む事で知る
それを人は季節が巡る事で知る
人の営みで星の温度が僅か数度変わる
それが人の暮らしに大きく影響する
それを星はどう思うだろう
きっと星にとってはどうでもいい事だろう
環境が変わって病気が悪くなったりよくなったりする様なものだろう
何度も言うが、那賀建と薊の間には心話が可能である。
『なぁ、やっぱり田舎行きは若い子にとってつまんなかったんじゃないか?』
『でも、この子の場合、人混みに連れてっても嫌だと思うのね。』
『でも、一度町中に連れてってみれば違うんじゃないか?』
『次は都心に行ってみましょうか。』
私達の町に帰ってきた。
せっかく叔母さんの車があるので、スーパーでダンボール箱をもらってくる。
建くんのダンボールハウスを大きくする為だ。
ポテチの箱を上半分切る。
本当はバスマットを下に敷きたいけど、
ちょっと狭い。
しょうがなく、古タオルを敷く。
玄関の上の床に置き、
玄関の段差にダンボールでスロープを渡す。
「スロープを登る時、滑らない?」
「爪があるから大丈夫。」
「うん、いい感じだ。ありがとう、愛未ちゃん。」
誰かのために何かをやり、
それを認められるのは嬉しいことだ。
でも、お母さんは私に何かやってもらいたくなさそうなんだ…
晩ごはんのおかずを私の分を作るから、
お母さんの分も作っておこうか?
と訊くと
「いらない」
と言われた。
水曜にカレーを作ることが多いけど、
気が向いたら食べて良いよ、と言ったけど、
一度も手を付けてくれた事がなかった。
お母さんはいつも、
外食して帰ってくるか、
コンビニ弁当を買ってきて食べるかしていた。
那賀建も薊も、
建のお礼に顔を綻ばす愛未にほっとしていた。
この子はあまり笑顔を見せないからだ。
そして、すぐ視線を落とした理由も察した。
きっと、この家で同居人とのこういうやり取りは殆ど無いんだ、と。
一生責任が取れない以上、この家に干渉するのは最小限にしようと薊は思っていたが、
思っていたより状況は悪い気がした。