1−7 西行き
土曜の朝、薊叔母さんが車で家に来て、
家に車を置いていく。
駅まで徒歩10分位歩く。
電車は飛行場を横目に飯能駅へ下っていく。
11月以外に飛行機の飛ぶ音をあまり聞かないけど、
この飛行場は何をやっているのだろう…
飯能駅で三峰口行きに乗り換える。
ここから1時間かからない様だ。
少し走ると山中に入ってくる。
木々が色を変えつつある。
秋の魔法使いは春の魔法使いと夏の魔法使いが大嫌い。
命を育む春の魔法や
愛を育む夏の魔法を打ち消すように
秋の魔法がかかると
恋人達は飽きが来て
木々は葉への興味を無くし
葉は木への執着を無くす
葉は色褪せ
木から離れてしまう
でもそうすると葉は乾いて枯れていくしかなく
やがて北風小僧が鷲掴みにしてどこかへ連れて行ってしまう
川沿いに道が走っている
水が欲しい
水がないと人々は生きていけない
生きる為に水を飲まないといけない
生きる為に作物を作らないといけない
作物を作る為にも水がないといけない
だから人は水の周りに集まる
水があれば多くの人を養い大きな町が作れる
そうすると他の集団との争いに有利になる
だから大きな町の下には屍が埋まっている
大きな国の下にも当然多くの屍が埋まっている
生き残るのは権力者だけ
国の為に死ぬことは美徳だなんていうけど
そんな風にして生き残るのは勝った方の権力者だけ
勝った方も負けた方も
下っ端の人間からどんどん死んでいく
彼等はいつ終わらせるつもりだろう
何人下っ端を殺せば満足するんだろう
ところで、
神格のある那賀建は同族と心話で話せる。
一応霊力が使える薊とは口を開かずに意思の疎通ができる。
『なあ、この子すごくつまんなそうにしてないか?』
『いや、これで通常運転だから。』
『でも電車に集団で乗って、30分以上黙ったままって、
どうかと思うぞ。』
『私だって、嫌な上司と出張に行く時は2時間黙って乗ってたことあるよ。』
『お前はあの子にとって嫌な上司なのか!?』
『そうじゃないと思いたいけどね…』
と、黙ったままの愛未に大人二人?は戦線恐々だった。
秩父駅を降りて羊山公園に向かう。
「霊場に行くんだったら、
お寺とか神社に行くんじゃないの?」
「神武と釈迦って同時代で、
その後数百年後以降に日本に渡ってきた仏教のお寺がその頃の神にご利益あると思う?」
「え〜、じゃあ自然信仰的に山河を参る方が良いってこと?」
ここでケージの中から那賀建が呟く。
「なんかヤマタイの気配がする…」
「武甲山って確かヤマトタケルの鎧を供えたらしいから、気配はあるかも。
三峰神社あたりにもなんか由来の品があるとか。」
「くそう、ヤマタイ共め、我が道をここでも阻むのか!」
「2000年以上前のことを今文句いわれてもねぇ…」
5月なら芝桜の名所だけれど、
今は色褪せつつある緑の中を歩く。
「いい感じなんじゃない?」
「所沢も入間も、何気に色濃い緑って、そういう所にしかないもんね。」
「ヤマタイの気配がなけりゃあね…」
2000年前の気配が分かるって、さすが神様だね。
薊叔母さんがスマホでそば屋を見つけて食べる。
「秩父はそばが名物なの?」
「名物とまでは言わないけど、そば屋は多いみたい。」
そろそろ温かいうどんの方が美味しい季節なんだけどね。
毎日更新した方が読者が集まると聞き、書き溜めてから投稿しておりますが、
その間に季節が物語を追い越しています。
この物語はフィクションですが、
物語と関係ないリアルの話をすると、
毎年、入間基地の航空祭は11月3日です。なのでそのころ煩い。
ところが令和5年度航空祭は令和6年1月との事です。