2−12 季節の変わり目
御庭番衆にとって幸いだったのは、夜目の効く者が東昭公の飛翔方向を見定めていた事だった。
それでも東昭公の捜索は難航した。
1km以内に狸の影も形もなかったのだ。
ムラマサはすぐ公園内で確保されたが、
結局、東昭公が保護されたのは日の出を過ぎてからだった。
へそ天状態でいびきを掻いていた。
発見箇所は大学病院の駐車場だった。
3kmは飛んだ事になる。
当に神業だった。
事が公にならなかったのは徳河家一にとって幸運でもあり、
不運でもあった。
家に捜査の手が及ばなかったのは幸運であり、
不穏分子を官憲の手で排除できなかったのは不運だった。
とは言え、不穏分子は家内で発言力を失った。
元々家内に特別な立場のなかった徳河双葉にとっては、
普通の女子高生の生活に戻っただけであった。
因みに東昭公は双葉がケージに入れて特急で栃木まで連れ帰った。
また三百年の神霊力チャージの時間が必要になり、
家一にとっては余計な神輿を排除できた格好である。
そうして、愛未には今まで通りの退屈な日々が戻って来た…筈だったが。
「ほれ、そこは足をもう少し出した方が良いぞ。」
…ヌサノオさんの踊り指導が続いていた。
「お年始に神社で踊ったら迷惑なんじゃないかな…」
「前もって社務所に申し出ておけばよい。まずい時間は教えてもらえるだろう。
話は通しておく。」
「えぇ〜〜」
神道系タレントのヌサノオさんに
神道系の踊りを嫌と言ったら悲しまれそうだし…
建くんはというと、
小太鼓を叩くのが楽しいらしく練習に積極的に参加している。
え〜!逃げられない!?
どうやらまだのんびりはできそうになかった。
そんな中、愛未は夢を見た。
小さな狸が身の丈の倍はある背負子に薪を満載して歩いている。
よたよたと歩く後をヌサノオさんが近づき、
火打ち石を楽しそうに打っていた。
狸にも生存権があって、
動物愛護法で罰を受けるよ?
と言いたかったけれど、
あまりに楽しそうだったので言えなかった。
了
この物語はフィクションです。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。




