1−2 承
翌日は殆ど動かないままだったが、
三日目になると玄関を少し歩く様になった。
ペットフードだと少し高いので、
焼いた鶏肉を解して与えるとこれも食べてくれる。
これなら夕飯のおかず用に買った肉を分ければよいので経済的な負担が少ない。
愛未は今、一人で暮らしていた。
家は両親が離婚した時に慰謝料代わりにもらったものらしい。
母と二人暮らしだったが、
母は今、東北の会社に長期出張に出ている。
一人で暮らす為に与えられた限られた生活費で動物の餌を飼うのは少々困難だった。
暫くすると、玄関の外の庭も歩いてくれる様になった。
郊外型一戸建ての狭い庭には、金木犀と紫陽花のみ植えてある。
金木犀は両親が離婚したらしき10才の頃、植木屋が上半分を切り落としてしまっていた。
2年前にも再度枝打ちをされている。
切られた枝の断面はもう枝を生やす事がなく、
その傷跡が、ここは命を育む場所ではない、と家主が考えている事を示している様だった。
でも、小さな動物がとことこと歩いていると、
この人工の自然も命を育む場所になれる事を教えてくれている様で、
嬉しくなった。
それは単に庭の上を見るか下を見るかの違いにしても。
そして、時々、その子が私を見つめる様になった。
野生動物は見つめられる事を嫌うという。
見られているのが嫌なのだろうか、
とも思うが、態々、顔を上げてじっと見つめてくる。
私の事を母親だと思っているの?
ごめんね、私も無力な子供に過ぎないの。
濡れタオルで拭いても、汚れは殆ど取れなくなったが、
なんとなく体が汚く見える。
水浴びはかなり強硬に嫌がられた。
顔つきを見ると猫じゃない。
犬とも少し違う気がする。
体毛の色の模様が綺麗でないのだろうか。
ますます野生生物っぽい。
そうなると一度獣医さんに診てもらう方が良い。
でもお金がない…
叔母さんに相談してみた方がよいかもしれない。
野生生物の保護は危険です。
伝染病、寄生虫が人間に伝染る危険性がありますので、
直接触れずに獣医さんに連れて行くことを推奨します。