2−7 跪く
ヌサノオさんは土曜以外に水曜にも遊びに来て、
踊りの指導をしていく。
本当に水曜は踊りの指導とお茶を飲みにくるだけ。
ローカルタレントだから以外と暇なんだろうか。
怖くて聞けないけど。
しかも髪も髭も変えられないらしく、
古代髭はそのまま、髪型はツインテールになった。
…男らしい顔してるのに。
この顔が「いい男」なのか、私には分からない。
今、いい男と言われるのは基本J顔だから。
でも、30過ぎのJって、微妙。
じゃあ、男っぽい顔が良いかと言うと…
アメリカに渡る野球選手とか、
なんかよっぽど良い女以外はDVしそうで怖い顔なんだよね。
そんな水曜に、
前に大塚で見た人と思われる二人がやってきた。
「こちらにいらっしゃるお方にお目通りをお願いしたい。」
「聞いてみますけど…」
「ああ、入れると良い。
挨拶ぐらいは聞こう。」
という事で、
客間に二人を入れる。
「粗茶しかありませんが…」
「よい。招いた客でもなし。」
…ヌサノオさんって招いたっけ?
愛未が下がると二人が跪く。
「御身にご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません。」
「よい。帝を守るのが仕事なら、それに専念するがよい。
縁あってここに居る。
武士の末裔如き、捻ってみせよう。」
「我々が不甲斐ないばかりに申し訳ありません。」
「よい。己の仕事に万全を期せ。」
「肝に命じます。」
「あと、彼女は我が巫女である。
失礼をせぬよう。」
「心得ております。」
客間での対談が終わって二人が出てくる。
「粗相をせぬように。」
と一言残して帰っていった。
粗相?
失禁を粗相と言う事もあるけど、
普通は高価なお皿を割っちゃうとか、
格上の令嬢にワインかけたりする事だよね…
お皿は家のだし、
小市民がダンパに行くわけないし。
「さあ、愛未、練習の続きだ。」
きゃあ〜〜〜
指導後にお茶を飲んだ後、
(仮)ヌサノオと建が二人で話す。
「建よ。」
「はい。」
「我が巫女は何故あの様に心を閉ざしておるのか?
中世までなら親に躾けられ口を開かぬ娘は美徳であろうが、
最近ではもう少し朗らかなものではないか?」
「彼女は薊の姪ですが、母親が女手一つで育てたため、
いじめなどがあった様です。」
はあ〜と(仮)ヌサノオが息を吐く。
「古来、己に自慢できる事が無き者は弱みのある者を蔑み、
下と見る事で自尊心を保つものだからな。
他に悪い所がある訳でもないのに、不憫な事よ。」
いや、自分で自分を自慢するのは駄目だろう…
…とは言え、とかく悪く言われる事も多いこの男、
言われる程に自分勝手な者でなく、
思いやりも寛容さもある。
所詮残っているのはヤマタイ政権が残した神話か。
歴史は勝者が書くというが、
古代においては神話は勝者が書く。
高天原政変もヤマタイ政権初代に有利な記述になっており、
何らかの改竄があると見たほうがよいか。
勝ってから八紘一宇などと言うが、
実際には神たる祖先の助けなくば大和平定ができなかったヤマタイだからな、
と負けの歴史を背負う那賀建には思えた。
この狐、その背負った歴史を知らんぷりしているのだが。
この物語はフィクションです。




