2−5 埼玉の山口なのに八雲立つ
薊叔母さんが服を買いに行こうと言う。
「そろそろ寒くなるからさ、早めに服を買いに行きましょ。」
「あんまり体が大きくなってないから、
まだ去年のを着るから良いよ。」
「買ってあげるから行きましょ。」
建くんはお留守番で、二人で買い物に行く。
カーディガン、ニット、女らしいと言うか、
大人っぽい服装を叔母さんは勧めてくる。
エンジのスカートなんて着た事ないんだけど…
「うん、そろそろ女らしいのも良いじゃない。」
「大人っぽいというか、少し年上向けじゃないかなぁ…」
「男らしいより良いでしょ?」
…普段、ジーンズとトップで合わせている愛未としては、
刺さる発言だった。
「私、男らしくないよ。」
「中坊みたいな格好をいつもしてるじゃない。」
だって、ジーンズと上着ならフォルムは間違い様がないし、
色だってインディゴとなら青系か黒灰系で合わせれば問題ない。
スカートとトップだと色は微妙なものが多いし、
合わせ方を間違えるとフォルムが格好悪くなるから、
一緒に行って見てくれる人がいないと怖くて買えないんだよ…
薄い色のハーフコートも含めて買って貰った。
気を使わせてごめんなさい…
今度、中氷川神社で踊ってみよう、
という話になる。
「え、本当に神社で踊るの?」
「折角、練習してるんだからさ、やってみようよ。」
「練習の成果を神様にみてもらうんだよ。」
「建くんに見てもらってるからいいよ、もう。」
と言ってみるけど、
二人共目がマジな気がする。
土曜の朝、車で出かける。
この間に買った服を着て。
むぅ、この二人、本気で私を元旦に神社で踊らせるつもりなんじゃないかな…
山口の方は道路が混むらしいので早めに行く。
人気のない場所にしてもらう…
建くんの小太鼓だけでなく、
薊叔母さんまで横笛を用意してきていた。
榊の枝を渡される。
…榊を持つ代わりだったのだろうけど、
十手を持たせていたのは何故?
ゆっくり踊り始める。
ゆっくり回って、
腕を回して、
足、あ、間違えた。
上半身を回し、あ、また間違えた。
だんだん間違いが増える。
漸く終わり。
うん、私にこれは向かないよ。
「舞を奉納するのは良い心がけだが、
練習不足だぞ?」
バリトンの美声が背中から聞こえる。
誰?見てたなんて酷いよ!
せめて見ないフリしてよ!
その人が私の横まで進んでくる。
古代人コスプレ?
「えーと、コスプレタレントの方ですか?」
古代髪、古代髭、古代服の大柄の男性が目を見開く。
ぐるん、と首を回して肩越しに薊叔母さんと建くんを見る。
キツネーズは綺麗にシンクロして左右に2回首を振る。
仲良いなあ、この二人。
首を戻して男性が言う。
「うむ、私は八雲立つ出雲おもてなし神様隊のヌサノオと言う。
ところでそなたの従者と話をしても良いかな?」
「はい、ど〜ぞ。」
あちらの二人が私を連れて来たんだから、
何か文句言われるのは二人じゃないと割が合わないよ。
この物語はフィクションです。
神社で勝手にパフォーマンスをしてはいけません。




