2−2 その術は誰の為に
石神井公園の駅から公園まで歩く。
ケージを持った薊一人(と一匹…一柱というべきなのかもしれないが)だ。
公園を歩くが、休日で人が多い。
『接触してこないね…』
『近くに神社がありそうだ。
あっちに行ってみよう。』
神社の近くでケージを開け、
建がぴょんぴょんと薊の肩に乗る。
神社に足を踏み入れると、
男達が現れる。
「宮城に近づくなと言った筈だが。」
「話があったんでね。
幕府の亡霊の事、把握してるんでしょ?」
「外野に話す事ではない。」
「健康で最低限の生活と財産は憲法で保証されてるから、
それが脅かされる可能性があるなら外野じゃないでしょ?」
「政府は妖怪変化や怪異現象を憲法上認めていない。」
「いや、それあんた達の存在意義認めてないでしょ!?」
男たちは悔しそうな顔をしている。
武家社会、軍事政権、民主主義政権でどんどん存在意義を
減らされてきた歴史が彼等にはあるのだ。
「まあ、そういうことなら、こちらで手を打たせてもらうぞ。」
「狐如きが勝手な事をするな!!」
「まあ、お前らの顔も立ててやるから安心しろ。」
「勝手なことは許さんぞ!!!」
那賀建が小さく何かを唱える。
薊の前に白い粒子の様なものが集まり、
古代の剣の様な形になる。
「貴様ら!」
薊が剣を掴んで振り下ろすと、
木の葉が舞い上がり、男たちの視界を塞ぐ。
木の葉が地面に落ちる頃には、
薊達の姿は消えていた。
薊は息を切らして駅の方に走っていた。
「はぁっ、はぁっ、もうちょっと火力の強いのはなかったの!?」
「街中で火力の強いのを出すと、愛未ちゃんが怒るんだ…」
「見てないんだから良いでしょ!?」
「火遊びするとおねしょをするって脅すんだ…」
「…そんな古い躾文句をどこで覚えてくんのよ、あの子は…」
「ネットだろ?」
斯くして、陰陽寮にとっても本命は徳河の亡霊だろうという事は判明した。
人員不足で対処できない事も。
23区内に標的が入れば特攻も辞さないかもしれないが、
そんな頼りないものには頼れなかった。
つまり、チーム・キツネーズが対処する必要がある。
下り電車の社内で薊と建は心話で相談する。
『まあ、こちらで対処しても良いが、標的の力量次第では相打ちになったり、
弱ったところを連中に討たれても嫌だしな。』
『対策があるんじゃないの?それっぽい事言ってたじゃない。』
『まあ、手立てはあるさ。』
『大丈夫なの?愛未ちゃんに迷惑かけないでよ?』
『一働きはしてもらった方がいいんじゃないかな?』
『危ない事はさせないでよ!?』
『でも、仲間外れは嫌そうだったからさ。』
『そうだけど…』
愛未は家で独りで過ごす週末には慣れている筈だった。
薊叔母さんが建を連れて外出すると、
以前と同じ用に家中が静かになった。
午前中は帽子を被って庭の草むしりをする。
二人が帰って来るのは午後と思われた。
ダイニングのテーブルに教科書と参考書を広げ、
すぐ眠くなるから居眠りをする…
筈だった。
胸の中で何かが渦巻く。
頭が重く、テーブルに頬を付ける。
世界中で自分だけ独りぼっちの気がした。
お母さん…
鼻がぐずぐずしてきた。
外国人は鼻をすするのを嫌うから、
鼻をかむ癖をつけないと…
外国人の知り合いなんていないけど。
チャイムを鳴らしても愛未が出てこないので、
買い物にでも出たのかな、と思って薊と建は借りていた合鍵を使って家に入った。
ダイニングのテーブルで居眠りをする愛未を見つけた。
テーブルに上った建も、薊も、
愛未の目元が濡れているのを見てしまった。
「愛未ちゃん、愛未ちゃん。」
建が前足で愛未の頬を何度か軽く押した。
寝ぼけ眼で愛未が言う。
「うーん、どうかした?お腹がすいたの?」
「愛未ちゃん、寝ぼけてる?
そんな寝方してると腰痛になるよ?」
「薊、ババ臭いぞ」
「ちょっ、まだ全然若いから!!!」
愛未はまだ寝ぼけていたが、
ぼ〜っとした頭で何となく居眠りしていた事を思い出した。
何か嫌な事を考えていた気がするけど、
もう思い出せなかった。
「ところで愛未ちゃん、頼みたいことがあるんだけど?」
建が言う。
即座に愛未が言う。
「うん、何か役に立てるなら、やるよ!」
「分かった。ちょっと薊に準備してもらうから、
来週からつきあってくれる?」
「うん、いいよ!」
次の週、薊が持ってきたのは、
二本の十手だった。
はあ?
私、捕物なんかできないよ!?
この物語はフィクションです。
昨日の晩だけアクセスが多かったんです。
いや、平均16くらいなのが30あったって程度ですが。
もしかして「幕末」が検索に引っかかったのでしょうか。
「徳河」幕府ですから!
ローファンタジーだしね。フィクションで申し訳ありません。




