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第70話 王都

 王都パルテン。

この国で一番大きな街だ。

 平野を高い壁で囲んだ、石造りの家が並ぶ街。

 真っ白な王宮が有名で、そこには王家と――教団の女神様が暮らしている。

 

「わぁぁああっ! す……っごぉ~い!! これ全部が……街っ!?」

「こんなデカかったか?」

「ふふ。こんなもんだよ」


森の端――高台から、アイシャは王都を見下ろした。

キールとトリスが隣に並ぶ。


「ちょっと! ふたりともなんでそんなに落ち着いてるのぉっ!? あれ! 王都だよっ!!」

「「出身だから」」

「……つまんないなー」

 


 少し前。

 王都近くの森に着地したトリスは、人の姿に戻った。

教団でも皆が知っているわけではないらしい。ましてや、町の人に見られるのは避けたいらしい。

 

 それから3人で少し森を歩く。森……と言っても大森林・精霊の森ではない。

 普通の……街と街の間に存在している小さな森だ。

 アイシャはその簡単な道に驚きながら、光が差し込んでくる方へと進んだ。

 そして、目の前が開けたかと思うと――眼下には王都・パルテンが広がっていたのだ。


「王都に入ったら、まずは教団へ行こう」

「トリスの職場だね」

「女神様ってのに会えるのかぁ?」

「女神様は……どうだろ。お忙しい方だから。もちろん僕は報告のために会うけど、アイシャたちは……わからないな」


 3人は王都へと入って行った。



  ***



 街を歩くと、音楽が鳴っている。街の一角で楽器を鳴らしている人たちがいるのだ。

 

「なにこれっ!? 今日はたまたまお祭りの日っ!?」

「いや、普通の日だよ」

「えぇーっ!」


 アイシャは街をキョロキョロしながら歩く。

 商店街というところにはいったらしい。

 お店がずらりと並んでいる。


「なんかわかんないけどっ! すごい!」

 

 こんなに人がたくさん居るのは初めてみたし、お祭りくらいお店がある。

 街は活気があふれ、通りには人があふれていた。


「こっこれ……っ」

「アイシャ?」


 アイシャは、その人の多さに……いや、()()()()()()()()()に、目を回す。


「あっ、男の子っ! あっあそこにもっ! そこにもっ! どこにもかしこにもっ!」

「お、おいアイシャ――」

「男の子がいすぎて……………………酔う」

「アイシャ!」

「「…………」」

 がくっと気を失うアイシャを、キールとトリスは教団へと運んだ。



  ***



「ん……」


 アイシャが目を覚ますと、……ベッドの上だった。

 むくり、と起き上がる。白い……四角い部屋だった。

 部屋にはベッドと机がひとつだけ。


(…………どこだろ、ここ)


 キールとトリスはいない。


 手足を動かしてみる。……どこも異常はなさそうだ。怪我などはしていないことが分かると、アイシャはほっとした。


 そこへ。

 ドア……ではなく壁をくりぬいただけの部屋の入り口から、小さな頭がひょこひょこと覗く。――子どもだ。

 

「こんにちは―!!」

「お姉ちゃんだれー?」

「こんにちはー」

「髪にお花ついてる。かわいー」


 子どもたちはアイシャのまわりにわらわらと集まった。

 少年少女ともに10歳前後か――皆、汚くはない……が、良い服とも言えない格好をしていた。全体的に痩せ気味だ。

 5人ほどが部屋に入ってきて、アイシャのベッドを囲んだ。


「わっ、わっ、あなたたちはだれっ?」

 

 子ども達は口々に言った。


「ここでお勉強してるのー」

「髪が緑だー」

「お顔かわいー」

「やい! 何者だー」

 

「……」


(あんまり情報が得られないな)


 アイシャはその勢いに気圧されながら、座り直す。

 

「えと、私はアイシャ。アイシャ・クラネリアス。ここはどこ?」

「ルクス教団!」

「ルクス、教団……」


 王都に教団は一つしか無い。

 ここが、トリスの目指していた教団なのだろう。

 アイシャは言った。


「じゃあ、トリスって知ってる?」

「トリス様!」

「トリス様を知っているのか!」

「あのねートリス様はねー歩いてたよ」

「女神様に会いに行ったんじゃない?」


 子ども達は口々にトリスの名前を呼んだ。やはりここがトリスの職場なのだ。

 

「女神様……か」


(まあ、そっか。私たちと女神様は会えないかもしれないけど、トリスは女神様に言われて村に来たんだから、報告にいく……のか)


 アイシャは思ってから、


(てゆーかっ! トリスは仕事があるかもしれないけどっ! キールはなんでいないのぉ~っ!? 私の護衛じゃないのぉっ!?)


 なんだか腹が立って。ぷんすこしていると、


「お、起きたのか」

「あ、キール……」


 部屋の入り口からキールの声がして、アイシャはぱっと明るい顔をあげた――が。


「わっ、緑髪。なにその女」


 キールの腕には、見知らぬ女の子がくっついていたのだ。


「なっ……っ!」

「うわっなんだおまえっ! いつの間にっ! 離れろっ! お前こそなんなんだっ!!」

 キールが慌てて腕をぶんと振る。……が、女の子は離れない。

 黒髪をショートヘアにした女の子は、目の色も黒く、――キールとおそろいだった。


ズキン

 アイシャの胸が痛む。

 なぜだろうとかは、今は考えられない。

 ただ、目の前の光景から目を離せないでいた。


「なんなんだお前は急にっ」

「いいじゃん。アンタなかなかイケメンだしさ」

「知らん女に言われても嬉しくねぇーっ!」

「えー? じゃあ誰ならいーのぉ? …………あれ、アンタの彼女?」


 ショートヘアの女の子がアイシャを指差した。

 女の子の切れ長の目が飛び込んできて、アイシャはどきりとした。

 キールは女の子を振り払うと、アイシャのベッドの前までやってきた。


「……ちげーよ。でも……こいつのことは守るから」

「ふーん……」


 ショートヘアの女の子は、壁にもたれた。

 アイシャのまわりにいた子ども達が、彼女の傍へと近寄った。

「ラーニャなにしてるの―?」

「ラーニャお勉強はー?」

「アタシはこれから奉仕活動なの」


 ショートヘアの女の子――ラーニャは、子ども達に返事をした。


「ラーニャ奉仕活動なんだ」

「ラーニャ教会に行くんだ」

「行くよー。早く行かないとどやされるの嫌だしね」


 ラーニャはキールを見て言った。


「アンタ達、トリス様のお客なんだって? じゃ、また会えるだろーね。じゃーね」

「「お姉ちゃんばいばーい」」

「「ばいばーい」」

そう言ってラーニャと子ども達は、部屋を退出していった。


 

「…………」

「…………」


 あとには、アイシャとキールだけが残された。


「えっと……」

「いやさっきの女は全然知らねーから! 全っ然関係ねーから!」

「そ、そっか……」


 アイシャは、ほっと胸をなで下ろした。

 

(なぁんだ……びっくりしたぁ~……)

 

 なんだか、初めての……気分だった。

アイシャは、胸を押さえながら、しわになった布団を見る。

 


 そこへ、鈴をころがすような声が響いた。


「ようこそおいでくださいました。お客人方」

「……へっ?」

 

アイシャが顔をあげると、そこには金の髪を長く伸ばした、美少女――真っ白な服を着た天使、……いや、女神様がいた。

 一目見ただけで。彼女こそがこの教団の女神様なのだと分かった。

 後光が差しそうなほどの美貌と、長い睫毛の美少女が、部屋の入り口に立っていた。


 彼女の隣に、トリスがスッと並ぶ。


「あ……」


 その姿はなんだかお似合いのように見えて――……。


(ま、またぁっ!? 今日は美少女だらけだぁ~っ!?)


 アイシャは目を白黒させるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いします!

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ドリアード姫と護衛の幼なじみ

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