表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/70

第60話 事件の犯人

事件の犯人が判明します。

いきなりこのページを開いた方は、ネタバレに注意してください。



 アイシャは走って、キールの家へと向かった。

 ふたりはキールの家で昼食をとっているはずだ。


「ど、どうしたんですかぁ~? アイシャ~!」

「キールの家へ!」


 のろのろと追いかけるマリィを待たず、アイシャは走った。

 すぐに橋の向こうからキールとトリスがこっちに向かっているのが見えた。


「おーい! アイシャ―!」

「キールッ! トリスッ!」


 アイシャは二人のもとへ到着すると、膝に手をつき、肩で息をした。

「はぁ……はぁ……っ」

「お、おい……。そんなに走って、どうしたんだよ」

「なにかあったの?」

「はぁ……っ、はぁ……っ、ノアが……!」

「ん?」


 アイシャは、ふたりの顔を見上げた。

 

「ノアが、怪我してた……!」


「えっ……!」

「ノアって……」

 キールとトリスは、顔を見合わせた。

「長老の孫の、ノアだ! 本来の――花祭りの巫女だよ!」


三人は、ノアの家に向かって走った。ノアの家は、村の北側――長老の家のそばにある。


 走りながら、トリスが言った。 

「――そういえば。村の北側の家へはまだ行ってなかったね」

()()()()()()()()()()()()()んだ! 後回しにしちまうだろ!」

「ご、ごめん! 私、……ノアの怪我のこと、すっかり忘れてて……!」

「いいんだよ! 思い出してくれてありがとうな!」

 キールがニッと笑って、アイシャは表情を少し和らげた。

  

その後を

「え~ん! なんなんですぅ? まってぇ~」

 マリィがのろのろと追いかけていた。

 

 アイシャは、ノアの家の扉を叩いた。

「すみません! ノアいますかッ!?」


ドンドンドン――


 もう一度叩くと、扉の奥から返事があった。

 やがて、パタパタと足音がして、ノアの母が出てきた。


「あら、アイシャちゃん。ノアは今出かけてるのよ」

「えぇっ!? ど、どこにいるか分かりますかッ!?」

 アイシャの食い入るような勢いに、ノアの母は気圧される。

「え、えぇ……。()()()()()()()()()()()()()()。……誰かと()()()()()みたい」

「精霊の木! 待ち合わせ……!」


 アイシャは、振り返ってキールとトリスを見た。

 ふたりは、頷く。


「ありがとうございました!」

「え、ええ……」


 アイシャがドアを閉まると、マリィがようやく追いついた。


「ちょっとアイシャ~! どういうことなんですかぁ?」

「マリィ! 長老に知らせてっ! 犯人が分かったかもしれないっ! 精霊の木に人を寄越すようにお願いしてっ!」

「えっ……えっ……!」

「キールは行くよっ!」

「おう!」


 ふたりは走り出し――

「僕も行くよ!」

「トリス……!」

「僕も、最後までちゃんと見届けるよ」

「よっしゃ! いくぞ!」

「うん……! 行こう!」


 アイシャらは3人で頷きあった。


「じゃあマリィ!頼んだよ!」

「は、はいぃ~」


 目を白黒させているマリィを残し、

 アイシャは、ノアの家から離れ――南東へ向かった。

「あれ!? あっちじゃねぇの!?」

 キールは、北側の森を指さして言った。


 位置関係を確認すると、アイシャとキールの家は、南東にある。

 ノアの家は、村の北側で、祭りの広場に近い。

 そして精霊の木は、祭りの広場のさらに奥――村の北側の森にある。


「いいの! こっち!」

 アイシャは、先頭を走る。

 キールとトリスがそれに続いた。


 トリスは後ろから声をかけた。

「こっちへきて、どうするんだいっ?! 森を抜けるのに……僕らだけだとまた三時間かかるんじゃあ……っ?!」

 

 みゅん太郎に会った後、アイシャたちは三時間かけて村まで戻ったのだ。


 アイシャは振り返って言った。

「キールの家まで走るよ!」

「へっ?!」

 キールは思わず転びそうになる。

「アイシャの家に向かっているのかと思ったら、俺ん家なのかよ! ……あ!」

 そこでキールは、はっとした表情になる。

 アイシャは、ニッと笑って言った。

「ホワイトドラゴンだよ! 先に出発しているノアに追いつくには、歩いてちゃ間に合わないよ! ……操縦頼んだよ!」

「なるほどね。“待ち合わせ現場”に行くってことだね……!」

 トリスが頷いた。


「待ち合わせって、やっぱ外部の人となのか!?」

「売買の現場……になるのかな?」

「…………っ。そうだと、思う……けど」

 

(でも……)


 アイシャは思う。


(本当に、『街の外へ売るつもりの、待ち合わせ』……なのかな……)


 アイシャは首を振ると――前を見据えて走る速度をあげた。



 ***


 

 キールがホワイトドラゴンに鞍と手綱を付け、三人は急いでホワイトドラゴンにまたがる。


 キールは、ホワイトドラゴンの顔に近づき、遠くにそびえる精霊の木を指さした。

「あの山の頂上の、精霊の木まで――頼むぞ!」

「グルルルゥゥウウゥ……」

 

 返事をするかのように――いや、実際返事なのだろう。一声鳴いて、ホワイトドラゴンは飛び立った。


 青い空の中、白い弾丸のように空高く上昇する。

 その風圧に、アイシャは体が持って行かれそうになるが、またがる足に力を入れ踏ん張ることが出来た。

 

 前回の遊覧飛行と違い、今回は景色を楽しむ余裕はない。

 空からなら――すぐにたどり着けるだろう。


「ふーっ……」

 アイシャは、息を吐く。

 飛行の速度にも慣れてきた。

 遠かった精霊の木も、どんどん近づいていく。


 そんな時だった。

 

「う……っ!」

背後でうめき声が聞こえ、アイシャはハッとして振り返る。

「トリス……!」


 トリスは目をつぶり、唇を噛んでいた。


(あ……! どうしよう……! トリスって高所恐怖症なんだっけ?!)


 何も考えずに――いや、ノアに追いつくためにと考えた末だが――ホワイトドラゴンに乗ることを提案してしまった。


「トリス! トリス! しっかり! もうすぐ地上に降りるからね……!」

「うぅぅうぅ……っ!」

 アイシャは声をかけるが、トリスはうめくばかりだ。ようやく薄目を開けると、

「……あ……頭が、痛…………!」

 

 それだけ言って、トリスは再び目を瞑り、はぁはぁと荒い呼吸をした。頭を垂れ、アイシャの肩に乗せる。

 トリスの髪の毛の先から、汗がぽたりぽたりと落ちて、アイシャの肩を濡らした。


「降りるぞ!」

 キールが、風に負けないように大きな声で言った。


 精霊の木は、もう目の前だ。


 キールが手綱を動かすと、ホワイトドラゴンは速度を緩め、緩やかな角度で着陸した。


 

「トリス! トリス!」

 アイシャは、トリスの肩を支えながら、ゆっくりと一緒に降りた。

「うぅ……頭が……割れそうだ……」


 キールは、ホワイトドラゴンを落ち着かせると、急いでトリスのもう片方の肩を支えた。

 二人はトリスをゆっくりと木陰に座らせる。

 アイシャとキールは、トリスの背をさすったり、声をかけたりした。

 顔を覗きこんでも、顔色は悪く、眉間のしわは刻まれたままだった。

 

 ハアハアと荒い呼吸が心配で、アイシャはたまらない気持ちになった。


そこへ――みゅん太郎が現れた。

 

「こんにちはみゅん! 元気みゅん?」


「バカ言え! 見りゃ分かんだろ!」

「トリスがね、しんどいみたいで……!」

 

「大変みゅん……!」

 みゅん太郎は、その場をうろうろとした。

「うーんうーん、もう()()はないし……どうしようみゅん……?」


 二人と一匹が見守る中、次第にトリスの呼吸は落ち着いていった。

「はぁ……はぁ……すぅ……はぁ……」

 トリスの目が薄く開き、口はかろうじて笑って見えた。

「ご、ごめん。ありがとう……」

「私の方こそ、高所恐怖症なのを忘れててごめんね!」

 アイシャが言うと、みゅん太郎は首をかしげた。

「こうしょきょうふしょうってなにみゅん?」

「えっとね、高いところにいくとパニックになっちゃうことで――」

「みゅん……?」

「あはは……」


(みゅん太郎には難しい、か……)


 アイシャは苦笑した。

 

 トリスの呼吸が落ち着き、キールも安堵したような表情だった。

 キールは、みゅん太郎の方を見て言った。

 

「なあ、みゅん太郎! ここに今日、誰か来たか?!」

「みゅん……? 今日は誰も来てないみゅん。君たちだけみゅん」


 キールはほっとした顔で、アイシャを見た。

「よかった……! ノアはまだ着いてないんだ。俺たち、先回りできたんだ……!」

「うん……!」

 アイシャは、こくりと頷いた。

 みゅん太郎は首をかしげる。

「ノア? ってなにみゅん?」

「こないだ言ってた、犯人が誰か分かったんだよ!」

「はんにんみゅん……?」

アイシャは、頷いた。


(祭りの前日、ノアはうちに来た。昼間に怪しいことはしないだろうから、ってことは、……)

 

「きっと、祭りの前々日の夜に、盗んだんだよ……」

「でも、夜はみゅん太郎たちが精霊の木にたくさん帰ってくるから、夜じゃないんじゃないかな?」


 トリスが言った。

 まだ顔色は悪そうで、時々眉をしかめては額を押さえている。――まだ頭痛がするのだろう。


 キールが言う。

「いつ盗られたかは分かんねーけどさ! とにかく人間の街に売るつもりだぜ! 大きさも20センチくらいあるんだろ? 高値で売れんじゃねーの……」

「でもあんな光ってるもの、持ってたら目立ちそうだけど……」

「んあー」



 二人は、なんでもないことのように会話している。でも、でも――。


 アイシャは、聖獣ラタトスク――みゅん太郎を見た。

みゅん太郎は、普段と変わらないようすで、後ろ足で耳を掻いた。


「…………」

 

 トリスの言葉が――引っかかる。

 

(…………『あんな光ってるもの』……?)


 アイシャは――精霊の花を見たことがない。だけど、『20センチの花』だというので、今までその特徴だけを思って探してきた。

 

(なんで知ってるんだろ。……長老か、ファルマコさんに聞いたのかな……?)


 アイシャの胸に、違和感が少し沸いて――それをすぐに自ら打ち消そうとした。


「精霊の花って、結構匂いも強いし……」

「は? 匂いぃ~?」

 

(いや……でも、そんなはずない……。)


 アイシャの鼓動はドクンドクンと大きく打つ。音のうるさいそれを、アイシャは服の上から握りしめた。


  

「どうしたみゅん?」

「みゅんちゃん……」


 アイシャは、足下に歩いてきたみゅん太郎を見る。


「ねぇ、あなた……本当は、知っているんじゃないの……?」

 アイシャの喉から出た声は、――アイシャが思うより震えていた。

 

 みゅん太郎は、首をかしげている。

「……みゅん?」



アイシャの思考に、ノイズが入る。ぐちゃぐちゃのそれを――、紐解けるのは、きっと。精霊の木をマザーと慕う、みゅん太郎だ。


 アイシャは、言った。

 

「精霊の花を、誰が持って行ってしまったのか……みゅんちゃんは見ていたんじゃないの……?」

 

(――あの日。私はみゅんちゃんに質問した。でもそれは「精霊の木に登ることは出来ると思う?」というもので、それに対してみゅんちゃんは真面目に答えてくれた。だけど、)


「あなたは、こないだも、今日も、()()にいる。じゃあ、精霊の花がなくなったときも、()()で見ていたんじゃないの……?」



「あぁ! そういうことみゅん? もちろんみゅん!」


 みゅん太郎は、ぴょんと飛び跳ねた。

アイシャたちの注目が集まる中、みゅん太郎は言った。


 「精霊の花は、トリスが持っていったのみゅん!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改稿して再度書き始めました!
ドリアード姫と護衛の幼なじみ

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ