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第31話 マーケット


「この下が、マーケットなんだ!」


 三人は、吊り橋から地面を見下ろした。

 

 村の中心部には、ぽっかり空いた地面があり、そこには出店が並んでいた。

 地面は円形の広場で、その中心には大木があった。

 その大木から、(はし)()で地面に降りる。


「へぇ、すごいね……」


トリスがきょろきょろしていると、トリスに気がついた村人たちに囲まれた。


「司祭様だ!」

「司祭様! ようこそ!」

「司祭様! 昨日はお疲れさまでした!」

「今日もかっこいい!」

「今日も素敵!」


「わわっ……? は、はい。こちらこそ、ありがとうございました」


 ()()(あい)(あい)と老若男女に囲まれているトリスを、キールとアイシャは少し後ろで見ていた。

 

「けっ。もー服なんてどれでもいんじゃね? ほら、イケメンは何を着てもイケメンって言うじゃん。あいつならパンツ一丁でもモテるだろうよ」

「たしかに。セクシーでモテちゃうかも……」

「今のナシ!」


 一方、トリスはいろいろなものを押しつけられていた。

「そうだ、司祭様。これ持っていってください!」

「うちのも持ってってください!」

「えっ、わっ……?!」

村人たちは、それぞれの商品をトリスに渡した。野菜や花、工芸品に布――それはどんどん積み重ねられてたくさんになり、すぐに抱えきれないほどになった。

「お、お金……」

「お代はいらねぇ! 村のためにいらしてくれたんだ。これくらいは安いもんだ!」

「そんな……っ」

「ほら、これも持って行ってくれ!」

「こんなに野菜がたくさん……。はっ!」

 トリスは閃いた。

 

(これで草のサラダから抜け出せるかも……っ?!)


――長老の料理のレパートリーが、野菜が買えないとかの問題ではないことに、トリスはまだ気付かない。……面倒くさいだけなのだ。

 

「司祭様は、どうしてここへ?」

「えっと……」


 トリスは、アイシャたちをちらりと見た。

 視線に気付いた二人が、そばへやってくる。


「トリスの服を探しに来たんだよ。なんか街っぽい服ある?」

「ハイカラなやつ頼んまーす」

「ああ、それならこっちだ」


 アイシャたちは、服を売っているテントへと案内された。


 木製のハンガーラックに、服がいくつか掛かっている。村人が着ている服とはたしかに少しデザインが違う。

 

「これとか、どうかな?」

 そんな中、トリスが手に取ったのは、――奇抜なデザインの服だった。

 

「そ、それは……」

 アイシャが言いよどんでいると、店主のおじさんがでてきた。

「やあ司祭様、今度はサーカスにでも出向かれるんですか?」

「え? サーカス……ですか?」

「ええ。それはなんかそういう衣装だそうで」

「はあ」


 トリスは、服を戻して、アイシャらに言った。

「……普段着じゃなかったみたいだ……!」

「あはは……」

 

代わりに、アイシャが選ぶことにする。

 

「むむむ……これも似合うし……これも似合う……」

「僕はどれでもいいんだけど」

「だめだめ! 司祭様のイメージを落とさないようにしなくちゃ」


 アイシャは、複数の服を手に取り、あれでもないこれでもないとうなっていた。

キールが適当な服を手に取る。

「どれも似たようなデザインだろ」

「違うよ! 全っ然っ! 違うよ!」

「まあ、さっきのは全然違ったけどさ……。これはわっかんねーよ」


 アイシャは、似たような白い服を見比べている。

 その違いは、男子二人にはよく分からないようだった。

 

「あはは……。本当に、僕はどれでも嬉しいよ」

「そんなんで、普段はどうしてたの?」

「普段は…………。…………。」

「あ……」


 トリスが言葉に詰まったので、アイシャも気がついた。


(記憶喪失の人に何言ってるんだろう、私……!)


 アイシャは、慌てて言った。

「えっと、でも村に来た時はかっこいい服着てたってことは、きっと誰かが服の面倒を見てくれていたんだよ!」

「誰かが……。うん」

「どうせファンクラブとかが用意してるぜ」

「そんなものない……かどうか分からないな」

「ある可能性があることが憎い!」 


 アイシャはしばらく悩んだ末、トリスの服を三着選んだ。


 会計をしようとすると――


「いいよ、いいよ! 司祭様が着てくれるんだろう? 持って行ってくれ!」

と、店主のおじさんに言われた。

押し問答の後、ありがたくいただくことにする。

 三人はテントから出た。

 


 昨日は花祭りで、そこでも出店がでていたというのに、今日のマーケットもなかなかの人出だった。

 売っているものが違うというのもある。昨日は飲食物が多かったが、こっちでは日用品などが多い。

 そもそもマーケットは週に一度しか開かれないので、毎週そこそこの人数が集まるのだ。


 三人は、売り場のテントから離れて、マーケット中央にある木の前で休んだ。


 トリスが、プレゼントを一度地面に置く。

 

「こんなに、なにからなにまで、ただでもらっちゃって良いのかな……」

「まあ、みんなが良いって言ってるなら、いいんじゃね?」

「……せっかく長老からアレをもらったのに……」


 アイシャは、長老からもらった袋――中にはサイカチムシの(つの)が入っている――を取り出した。

 珍しいものなので、一応中身の名称は口に出さない。

 

「まあ、いいじゃん。返しに行こーぜ。これ、レアだしさ」

「そうだね。長老が本当に必要な時に、また使ってもらおう」

「うん、そうだね」


 アイシャは、袋をしまった。 


「じゃあ、帰ろうか!」

「うん。二人とも、服を選んでくれてありがとう」

「いや、もはや服っつーか、なにを買いに来たんだかわかんねーよ」


 キールは、山盛りのプレゼントを見ながら言った。

 もはや、服は埋まっていた。


「あははっ! よかったね。私、持つの手伝うよ」

「仕方ねーなぁ」

「ありがとう」


 こうして三人は、長老の家へと戻った。


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ドリアード姫と護衛の幼なじみ

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