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第24話 花祭り④


お祈りの後、アイシャとトリスは祭壇の前にいると、長老がやってきた。

 

「アイシャ、トリス様。夕方にはこの花かんむりを納めに、精霊の木のところへ行くのでな。それまでは自由に祭りを回っておくれ」

「わかりました」

「はーい」


 アイシャは返事をして、思った。


(精霊の木かぁ……。行ったことないんだよね。なんか……そういうのがあって大人たちが管理してるんだなって感じで。でも、いざ行くってなると、楽しみだな! どんなところだろう?)


 ……村に住むドリアードは勝手に行っても良いことになっているのだが、行く用事もないし、行くには少しばかり遠かったのだ。

 

 長老が去って行き、アイシャは再びトリスに話しかけることにする。


(なにか話題を……! えっと……)


「トリス様はぁ……えーっとぉ……」


 アイシャは、なにも考えずに話し出したため、なにを聞くまでもなく詰まってしまった。

 しかし、そんな不審なアイシャを見ても、トリスは朗らかに笑うだけだった。

 

「……ふふ。『トリス』で良いよ。なんだか、慣れないんだ。……敬語も」

「そ、そんなわけには……!」


(司祭様って、すっごく偉いんでしょ!?)

 

 突然の呼び捨ての許可に、アイシャはたじろいだ。

 しかし、トリスはにこにこと笑っている。

  

「僕とアイシャは、同じくらいの年だよね。だから……ね?」

「う……。でも街ではみんなから敬われてるんですよね?」

「それは……まだ思い出せなくって。だからかな。みんな僕に敬語で、なんだか他人行儀って言うか……寂しくって」

「そう、ですか……」

 

(そっか、そうだよね。敬語っていうか、私たちがトリス様を敬えば敬うほど、ちょっと壁があるっていうか……。寂しいかもだよね……!)


 アイシャは、トリスを見上げた。

 

「……分かったよ! と、トリス……っ!」

「もう少しの間よろしくね、アイシャ」

「うんっ!」


そんなやりとりも(つか)()、ドドドドドと村人たちがやってきて、あっという間にトリスは囲まれた。

 

「司祭様! お話聞かせてください!」

「司祭様! かっこいいです!」

「司祭様! お声もかっこいいです! なにかしゃべってください!」


「わわっ」

 

(さ、さすがトリス……。私がかっこいいなって思ったら、みんなもかっこいいなって思ってるんだ……!)


 アイシャは目を丸くした。

 トリスの姿は、人の輪であっという間に見えなくなった。


「あ、トリスが見えなくなっちゃった。……まあ、またお話できるよね」


(精霊の木にも行くし!)

 

 アイシャは、みんなの勢いに気圧されながら、その場を離れた。

 


 

「おーい! アイシャー!」

「終わりましたねぇ、アイシャ! お疲れさまでしたぁ!」

 

 キールとマリィが近づいてきたのが見えて、アイシャはそちらへ駆け寄った。

 

「ありがとう! 緊張したぁ~っ」

「よくやったな!」

「なんか今年の花かんむりは大きかったですねぇ」

「結構重かったよ! ずしーんって感じだった!」


 アイシャは、手を広げて幅をとる。花かんむりの大きさを表してみせた。


「てことは、司祭様、記憶がない割には優秀だったんだなー」

「ですねぇ」

「いや、あれ半分は私の力だから! 私が魔力を込めたときも大きくなったんだから!」

「はいはい」

「あーっ。適当だーっ。本当なのに!」


 アイシャがむくれると、マリィがまあまあ、とたしなめる。

 そしていたずらな笑みを浮かべると、くすくすと笑いながら言った。


「キールってば、こんな涼しい顔してますけどぉ、ハラハラしっぱなしだったんですよねぇ~? アイシャが歩いて行くのに合わせて、キールもずっと歩いてついて行ってましたよねぇ~?」

「な! ななな、なんで知ってるんだよ!」

「なにそれ?」


 アイシャが聞くと、キールは顔を赤くして、ぷいと顔をそらした。

 マリィが、またくすくすと笑う。


「みんなその場に止まって見てたのに、一人だけうろちょろ動いてたら目立ちますってぇ~」

「いいだろ、別に! ……心配だったんだよ!」

 

(そっか。ずっと見ててくれてたんだ……)

 

 アイシャは、キールの手を取った。

 

「ごめん気付かなかったよ。ちょっといっぱいいっぱいで。応援してくれてありがと!」

「……あたりまえだろ」

「うふふ~。マリィも見てましたよぉ~」 


 アイシャは、()()()()の気持ちにじんわりと胸が温かくなった。

 


  ***


  

 アイシャたちは祭りを見て回ることにした。

 村人たちは料理や、手作りの編み物や、山で採ってきた木の実などを配っていた。


「蜂蜜だけ、配ってたらもらって帰りたいなぁ~」

「アイシャはそればっかりですねぇ~」

「俺ん家が配ってるよ」


 キールが得意げな顔をした。


 蜂蜜は、以前は自然の蜂の巣から採っていたのだが、『人間(ヒユーマン)』が村へやってきて、養蜂が普及した。

 キールは、アイシャが蜂蜜が好きだと分かると、両親に「うちも蜂を飼ってくれ!」と頼み込んだ。両親は聞き入れ、仕事の合間に蜂を巣箱で育て始めた。そしてキールはそれを、積極的に手伝った。

 今日の花祭りで配布しているのは、そんな経緯で育てている巣箱のものだ。

 

 ついには近年自分ひとりでアイシャのためだけの巣箱まで用意するようになっているのだが……、それとはまた別なのだ。今日の配布は、村人誰にでも配るものなのだから。

 

「今年はいい蜜が採れてさぁ。めっちゃ甘いんだよ! 巣箱の近くに、花畑を作ってみたら、大当たりでさ!」


人工の花畑。

 それはもちろん、アイシャのための努力なのだが、そんなことアイシャは全く知らない。

 ゆえに、


「じゃあ今日は(もら)わないことにするよ!」


などと言ってしまうのであった。


「へ?! な、なんでだよっ?!」 

「特に甘いなら、みんなに食べてもらいたいよ! これは蜂蜜を広めるチャンスだよね! こういうイベント事は、(いち)()(いち)()っていうか! 普段食べたことない子のチャンスを潰したくないって言うか!!」

「なんでだよ! お前が持って帰らなくてどうするんだよ!」

「いやいや、私はギリ大丈夫だよ! 昨日もらったのもあるし!」

「おっ……おっ……お前のためにっ! 頑張って用意したんだぜっ!?」

「えっ…………」


 アイシャは、両手を組んだ。

 

「嬉しい! ありがとうキールのお父さん! お母さん! そんなに私のこと考えてくれてたなんて……!」

「……………………」

「……………………」


 キールもマリィも、黙っていた。

 

「あれ? これキールのお父さんとお母さんがお世話してる蜂なんだよね?」

「…………そうだけど」


「えぇーっと、なんで黙ってるの? じゃあ、やっぱり一瓶だけ……?」

「………………」


 キールは、無言でアイシャを見た。

 それから、大量の蜂蜜瓶を押しつけたのだった。



 ***



 時刻は夕方。


「というわけで、そろそろ行ってくるね」


 アイシャは、キールとマリィに言った。

 

 祭りで手に入れたものは、一度自宅に運んである。

 今のアイシャは身軽だ。


 お祈りに使ったあの花かんむりは、これから精霊の木――この村のご神木だ――に納められるらしい。

 この行事は毎年、長老と司祭様と巫女、青年団の幹部とが行くことになっていた。

 

 

「いってらっしゃいですぅ~。マリィは弟たちの面倒みなきゃなので、帰りますぅ~」

「うん、またね」

「俺はいっしょに精霊の木まで行くぜ」

「うん、わかった――って、えぇっ!? なんで!?」

 

 てっきり、キールも帰るものだと思っていたので、アイシャは驚いた。


「なんだよ。別にいいだろ」

「えー? いいのかなぁ……?」

「二人とも気をつけてぇ~では~」


 マリィは、特に突っ込まずに帰って行った。


 長老が近くにやってきたので、キールはすかさず話しかけた。


「なぁ長老! 俺も一緒に行ってもいいだろ!」

「………………」


 長老は少し考えていたが、

「まぁ、その方がアイシャも隊列に遅れんかのぅ」

 と、許可をくれた。

 

「よっしゃ。遅れねーようにきびきび歩けよー。巫女様ー」

「長老が良いならいっか! うんうん、はぐれる可能性は……確かにあるね」

「…………」

 

 納得したアイシャを見て、長老は目を細めた。


「私の()(もり)を頼んだよ!」

 アイシャが、キールの肩をぽんと叩くと、

「不安じゃ……。頼んだぞ……」

 長老もキールの肩を叩いた。


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改稿して再度書き始めました!
ドリアード姫と護衛の幼なじみ

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