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捜索

 私は隣室から聞こえる音をチェックし続けた。彼は朝早く起きて、音楽をかけながら仕事をしているようだった。他に聞こえるのは食事の音か、シャワーの音ぐらい、外に出るのは近くのコインランドリーの洗濯か、ゴミ出しぐらいだった。規則正しい生活を送っていた。


(動きがないとすると、もしかして林田はシロか・・・)


 私はそう思い始めていた。


 そんな時、林田に動きが見えた。引き出しやクローゼットを何度も開ける音がする。そしていつもの音楽が止まった。私は玄関ドアのわきの窓をそっと開けて外を見た。すると林田は背広に着替えて外に出ていた。その右手には紙袋を下げている。大きさからいって犯行に使われた爆弾が十分入る。

 私はすぐに倉田班長に無線連絡した。


「林田が外出しました。背広に着替え、手に大きめの紙袋を下げています。」

「わかった。林田には尾行をつける。日比野はそのまま部屋で待機。」


 いよいよこの事件に決着をつける時が来た。林田を尾行し、爆弾の入った紙袋を放置したところを逮捕、そして自宅の部屋を捜索・・・私はそういうシナリオを思い浮かべていた。だが心の中で一抹の不安を感じていた。


(もし林田が犯人でないとしたら・・)


 しかしここまで来て迷ってはいけない・・・私は自分にそう言い聞かせた。



 1時間もあればすべて終わるだろうと思っていたが、待っている間はかなり長い時間に感じられた。それに辺りは不気味に静まり返っているように思えて仕方がなかった。やがて1時間が過ぎたころ、無線連絡が入った。


「日比野か?」

「はい、班長。林田を逮捕したのですか?」

「するにはしたが空振りだった。しかもまた近くで爆弾事件が起きた!」

「えっ!」


 思いがけない展開だった。倉田班長の話だと、林田は紙袋を残したまま電車を降りた。そこで捜査員が紙袋を回収して、待機していた爆弾処理班に渡した。そして林田を駅で捕まえて署に任意同行した・・・ここまでは思い描いている通りだった。だが・・・。


「その紙袋には爆弾は入っていなかった。修理した機器を届けに行こうとしたのだが、電車の中に忘れたというのだ。そしてそれからすぐに近くのビルで爆弾が爆発した。」

「それでは林田は?」

「シロだろう。調べてみなければわからないが、今までの爆弾は大体72時間の時限式だ。ここ3日間、彼がここまで外出したことも、荷物を託した様子はない。もちろんどこかに連絡を取った形跡もないから共犯者もいないだろう。」


 倉田班長はそう言った。だが私は何か引っかかる気がしていた。


(何か、出来すぎている。爆弾事件が起こる時にわざわざ紙袋をもって外出した。まるで自分が犯人ではないことを証明するかのように・・・)


 林田への疑念は私の中で大きくなっていた。


「林田はどうなりましたか?」

「釈放だ。あと30分でそっちに戻るだろう。」

「彼の部屋を調べさせてください。」

「いや、令状は取れない。無理だ。」

「いえ、方法があります。」


 そこで無線を切った。早く行動に移さねばならない。


(あと30分ほどしかない。爆弾を作っていたとしたら部屋にその材料などがあるはず。手がかりさえ見つければあとは何とかなる・・・)


 私はそう思って押し入れを開いた。そして盗聴機器を外してべニア板の壁を調べてみた。一部は四方がねじ付けされているだけで、それを外せば何とかそこを通って隣の部屋の侵入できるようだ。

 違法であるのは十分わかっていたが、犯人を捕まえるのに私は焦っていたのだ。壁のねじを外すとやはりぽっかり穴が開いた。私はすぐに林田の部屋に侵入した。

 男の一人暮らしのわりには、中は片付いていた。私は引き出しやクローゼットや押し入れの中、そしてキッチンやユニットバス、天井の板までチェックした。だがいくら探しても、修理に使う工具類はあるが、爆弾の材料となるようなものは見当たらない。


(こんなはずはない・・・)


 すると外で声が聞こえた。大家さんが帰ってきた林田を呼び止めて話をしているようだ。


(まずい! 帰って来た。もう30分過ぎたのか・・・)


 私は引き出しなどを元通りにして、自分の部屋に戻った。そして押し入れの壁を元に戻した。そのすぐ後に林田は部屋に帰って来た。大家さんが長話をしてくれていなかったら林田に見つかっていただろう。


(危ないところだった・・・)


 私はほっと息をついた。結局、林田の部屋からも何も出なかった。だがあれだけ調べたものの、私はなぜか釈然としなかった。


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