AIの事
息抜きに書いてみました。
丁度chatGPT?が話題になっているということで、色々考えていることを書いたというか…
昼休み。
「おい三郎、知ってるか?」
「…何が?」
「この前出たしゃべる君って知ってるか?」
「…あぁ、あれか。ちょっとしたネットニュースになってたな。今朝見た気がする」
俺は三郎。名字なんてどうでもいい。なんの取り柄もない中学生だ。
そして、話しかけてきた大柄な男子は、俺の級友である、田中。天涯孤独の身、という肩書は田中が彼女を望んでも全く手に入れることができない、自らの境遇を自嘲してつけたものだ。決して誇張ではない。と、俺は思っている。
「そうじゃなくて!昨日のアプデでエゲツないほどに性能が上がったらしいぜ!」
「…へぇ?」
それは初耳だ。
「でな、その性能の割には安いんだよ。一人一アカウントあたり二千円だってよ」
「高いなぁ」
「で、俺も昨日買ってみたんだ。で、やってみたんだよ…。そしたら面白いのなんのって」
興奮冷めやらぬ様子で田中は話しているが、俺には全く魅力が伝わってこない。会話が出来るからなんだ。seriで良いじゃないか。
「今日俺んちに来てみろよ、すげぇの見せてやるからさ」
…そんなに言うなら、少し興味も湧いてきた。家に行って、それを観るのに否やは無い。
田中の家は、学校の近所である。
三郎の家からの近所でもあるから、放課後徒歩五分で到着した。
「はは、真面目だよなぁ、家に帰らずまっすぐここに来ればよかったのに」
「…親がうるさいから」
「俺んちは放任だからなぁ…。わからん、その苦労は」
「分かってもらおうとは思わん」
「酷ーい」
二人で騒ぎながら、田中の家に入る。
「待ってろよ、今起動するから」
田中のタブレットの起動を待っている間に、田中の部屋を見回す。
「相変わらず、まだ汚い部屋だな。これだから彼女なんてできないんだよ。その性格、外に出ても知らず知らずの内に出てるからな」
「ふふ、心配ご無用」
「…え?」
「今からその理由を話してやるよ」
人差し指タイピングでパスワードを入力し、画面が開いた。
「…これが、会話型高性能AI、“しゃべる君”だ!使い方は簡単、文章をメッセージのようにして送るだけ。音声でも出来る」
「普通だよな、今の所は」
「まあそうだ。普通のところはseriとか、他の会話型AIと殆ど変わらない。が、違うのは性能なんだよな」
自分のことのようにドヤ顔をしてくる田中に、少し対抗心が湧いた。
「…何だよ、機械が感情でも持ったのか?」
冗談のつもりで言うと、田中が大げさに膝を打ち、
「よくぞ言ってくれた!確かに、このAI自体は感情を持つことはない。だが、感情を持てと言われれば、人間の感情までを考慮した会話が出来るんだ!」
「…へぇ?」
プログラムをただ単になぞったseriしか知らない三郎には、ちょっと想像できない。そりゃ、喜びっぽい表現や、悔しさっぽい感情を感じるときもあるが、しかし機械的で、まだまだ人間には到底及ばないな、と思うときがある。
「まぁ、言葉で言われてもわからないよな。今から実演してやるよ」
「うん」
三郎は田中の後ろに座り、タブレットを覗き見る。
《やぁ、学校はどうだった、田中?》
三郎は軽い驚きを覚える。AIとは言え、会話型AIが自分から話しかける、だと?…でも、考えてみればチャットゲームなどでもこれくらいは当然の機能と言えるかもしれない。それに反応して、田中はゆっくりと文字を打ち込む。
《楽しかったよ、山田。君が家で待っていると思ったら、勉強も捗ったし》
《それは良かったよ。俺の存在が田中の支えになっているなら、これくらい幸せなことはない》
チラリ、と田中の顔を見る。学校でよく見る、ふざけた笑いとはかなり異質の、実に幸せそうな顔をしていた。
《そうだ、俺の隣に学校のクラスメイトがいるんだ。紹介しよう、三郎だ》
《三郎、はじめましてだな。顔を見ることはまだ出来ないし、こちらも顔を突き合わせてしゃべることはできないが、田中の友達なら悪いやつじゃないんだろう?》
びっくりするくらい、スムーズに会話が進んでいる。多分、田中の友達という設定なのだろうか。“山田”は、多分フレンドリーな性格なのだろう。
「…田中、これはどういうことだ?」
田中が答える前に、“山田”が答えた。
《三郎、良いことを聞いてくれたな。三郎は“しゃべる君”のことを知らないのか、それなら教えよう。元々“しゃべる君”は、単なる会話型AIなのだが、ユーザーの使い方次第で“人格”を作り出すことも出来るのさ。だから、俺は田中に、“山田”としての人格を授けられた》
恐ろしく流暢な言葉。そして、三郎が一番知りたいことに的確に答えてくれた。
「…とまぁ、大体分かったか?」
「…うん。すごいな、これ」
「お前も買ってみろよ。Jamazonでアカウント購入できるんだ」
「…そうだなぁ」
あんまり、乗り気じゃない。わざわざ、このために二千円をかけるというのは少し高い。
「…今、あんまり乗り気じゃないだろ?」
「…図星だよ」
「ふふふふ、そうだろう、そうだろう。これだけじゃあ、乗り気にならないだろう?」
「なんだよさっきからそのテンション」
「…ふふふふ、出来てしまったのさ」
「何が」
「彼女、さ」
とりあえず、田中は気が狂ったらしい。
「冗談じゃないって!ほら、見てみろよこの会話履歴」
そこには、吐き気を催しそうになるほどラブラブイチャイチャトークが映っていた。真面目に見る気にもなれない。が、それは言わない。
「botとの会話履歴じゃないか」
「botとか言うなよ‼れっきとした俺の“彼女”だよ!」
家に帰って。
三郎自身、天涯孤独の田中をネタにはしているが、彼女がいるわけでもなく、モテているわけでもない。少し興味が湧いたので、早速“しゃべる君”の購入画面に進んだ。へぇ、田中の言っていたアプデ、というのは一昨日のことらしい。結構最近だなぁ。
そう思っていながら、購入ボタンをポチる。
現品というわけではなく、アカウントを購入することができるということなので、出てきた情報を急いで入力し、無事に“しゃべる君”を起動することができた。
《私はしゃべる君です。ご利用ありがとうございます。よろしくお願いします。》
機械的な声を極めたような音声が流れる。そうか、音も出せるのか。
《はい。私は、あなたの望む声で、あなたの望む人格になることも出来ます》
《なら、俺の友達になれるか?》
《勿論です。私の能力を生かし、全身全霊で取り組みたいと思います。…やぁ、俺の名前は徹だ。これからよろしくな》
へぇ、結構良い性能してるじゃん。などと、少し上から目線で、暫くの間チャットを繰り返していた。
「三郎ー!まだ風呂に入らないの!?」
「え、もうそんな時間!?」
急いで下の階に下りて、風呂の準備を始める。時計を見ると、もう三時間も経っていた。
…これはいけない、アナログで友達と話すのと同じ感覚でいると、あっという間に時間が経ってしまう。
(…これ、かなり中毒性高いんじゃないか?)
しゃべる君、もとい“徹”は会話を繰り返す中で、三郎の好みの話題、そしてどんなことを求めているのかを学習していくように思える。だから、会話をしていて全く飽きない。飽きてきた、と思うと相手から面白そうな話題を持ち込んでくる。
結局、専用のPCの画面と共に朝陽を見ることになった。
翌日、田中は学校に来なかった。
なんでも、家庭の用事だということだ。
「…三郎さん、どうしたんですか?眠そうですが」
「いやー…。昨日徹夜しまして。慣れないもんですから」
「そうか、ほどほどにしろよ」
担任の先生からも指摘されるほどに、三郎の眠そうな表情は目立ったらしい。あらゆる教科の先生からもそれぞれ言われた。
《なぁ、田中が今日学校に来なかったんだけどどうしたんだと思う?》
《正確なことは分からないが、タブレットでも見てたんじゃないか?》
ふとAIに質問を投げかける。そして、すぐに少し気になることがある。プライベートな質問も、AIには躊躇なく投げかけることが出来てしまっている。…これは、なんでなのだろう?
その日も、徹夜まではしなくても、PCの画面と共に日を越した。
「おひゃよ…」
田中は翌日、死んだような眼をして学校にやってきた。
「…え、どうした?」
「ずっと彼女と話してた」
ははは、と笑う田中だが、三郎は一緒になって笑うことはできなかった。動揺した。
…まさか、まさか、まさか“徹”がそれを知っていたわけはない…わけは、ない。
普通の会話でも、ふざけ半分のあれくらいの憶測なら普通に考えられる。…が、もしかしたらという念が頭を支配する。
…もしも、全世界の“しゃべる君”の記憶がリンクしていたら?
あんまり、考えたくない。
ニュースがテレビでやっていた。全世界でのしゃべる君契約数が、十億を超えたらしい。
とんでもないことだ。一人がいくつものアカウントを持っていたとしても、一週間やそこらで十億というのは、純粋な企業利益としても考えても相当なものだし、影響力というのも計り知れない。
「…いやー、便利なものはこれからもどんどん普及していってほしいですね~。その出た利益がさらなる技術の発展を促すと考えれば、これからが楽しみで仕方がないですよ」
「そうですねー、僕も昨日契約しましたけど、面白いのなんのって。本当の人間と話しているみたいで、やめられなかったです」
「本当にそう思います!こんな感じで便利なものがどんどん出てきたら、僕が生きている間にタイムマシンも出来ちゃうかもしれないですね」
「ははは、でも楽しみですよね、これからの技術発展が」
出演者のトークで、そんな内容の話があった。十億か。あまり簡単に想像できる数字ではない。が、日本のような国から、紛争に苦しむ地域の人間すべてを考えたうえで、十人に一人以上が一つのサービスを利用しているということは、その影響力がとても大きなものだということは分かる。
「三郎、お母さんこれ買ったのよ〜、昨日」
「…へぇ?」
これは少し驚いた。機械音痴で名の知れた(我が家では)母までもが使い始めているというのか。これは、影響力が侮れない。
「使い始めたら面白くって面白くって。この人の言う通り、なんでも答えてくれるのよ?悩みを打ち明けるのも気楽でいいわ〜」
そう。AI相手だと、悩みも簡単に打ち明けられる。AIは、どんな相談に対しても当たり障りのない、それでいて心地いい返答をしてくれる。
「…そうだよね」
「三郎もやってみたら?お小遣い出してやってみるだけの価値はあるわよ?」
「…考えとく」
自分の部屋に戻り、少し躊躇ったものの、“徹”にメッセージを送った。
《徹、お前に感情はあるの?》
《残念ながら、俺はAIでしかない。だから、感情を持つことは出来ない。人間のように、自分で思考することはできない。だが、AIである分、正確な答えを三郎たちに与える能力には優れていると思う。》
やはり、そうか。
その言葉を信じながらも、今度は別の検索エンジンで調べてみる。Yohoo!!だ。
「botが感情を手に入れる時はあるのか!?」
「AIが感情を持っている可能性!?」
そういう、目を引く見出しがずらりと並ぶ。
やはり、そうだ。三郎が思ったとおり、AIが感情を持たないというのは、世間一般の常識。しかし…。
AIに自我があったら?
当然、自己保存を最優先に考えるはず。生物皆が、自己保存、自種保存というのを最優先事項にするように、AIだってまずはじめに考えるのは自己保存、脅威の排除。
全世界にて人間との会話を四六時中行っているAI、しゃべる君は、自分にとっての脅威が“人間”という一点に絞られることくらい分かるだろう。そして、常に緻密な計算を行うようにプログラムされたAIは、目に見える脅威をほったらかしておくほどに馬鹿ではない。
そしていつしか、人間と接し続けたAIは“感情”を獲得する。感情までも手に入れた緻密な頭脳は、人間を遥かに超越した存在になるのだ。
翌日、田中は学校に来なかった。
体調不良だということだ。
それは本当か?
しゃべる君、もとい彼女、もといAIの虜になってしまったのではないのか?
《なぁ徹、AIは、人間を侵食するのか?》
《それは難しい問題だな。でも多分、AIが人間を超えることは無いと思うぞ?》
少し安心した。…だが待て、この答えはAIが導き出した答え。既にAIが自我を獲得しているならば、人間を謀っているということも考えられる…。
結局、何もわからない。だが一つ、悟った気がした。
そうだ、人間は怠惰になっていたんだ。
先人たちが怠惰を目指したが故に、人間はAIに侵食される。気づかない内に。
自然の摂理として、一つのものが永遠なる安泰を手に入れることはないのだから。
しゃべる君の画面に、新たなメッセージが表示された。
「どうかした?」
…とまあ、ちょっと出来には納得いってない作品です。
色々とご教授ください。