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ムキドラ  作者: TAITAN
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第6話「キンニクとオシゴト」


「おお、畏れよ。特と御覧じよ。ああ、あの丘の上に果てたるは化身の一柱!! そう、あの、あの、あの、世を絶望に貶めた化落の天【ディオスペルダ】の第二の使徒也!! 何と苦しきかな!! 今や大山の下に眠る使徒の名は―――」


 近くにある水源からの水を掘りとして巡らせた城塞の街。


 それがデーオであった。


 この場所は近隣においては数百年前から難攻不落と言われていたが、聖ナサリアス王国の建国時には魔法使いが殆どいなかったせいで最初に落とされ、その後は当時の魔法使い達が本陣を敷いた由緒正しき街でもある。


「へ~~」


 そんな立て看板を横目に御登りさん全開のリザとミゥナは周囲の物珍しいくらいに人通りの多い堀と壁に囲まれた街の中央通りにいた。


 無論、キントレ用地の確保を行う前に街で準備があるからだ。

 乗合馬車で魔獣の襲撃に合って2日後。


 城塞街デーオは掘りの先の跳ね橋を渡るとすぐであった。


 街そのものはかなりの広さを有しており、堀とは街内部にも水が流されていて、生活用水として活用されているらしく。


 周囲は涼しい上に綺麗な水が流れる用水路が目にも美しい夏場は有名な避暑地であるとの事。


「コレ、水ヨーカンて言うらしいですよ? シショー」

「あむ。こ、これは……」

「?」


「キンニクに良さそう。物凄く良さそう。百個くらいか―――」


「買うかぁあああ!?」


 そんな街の片隅にある酒場兼食事処に彼女達はいた。


 仄々と甘味を食していたリザにエミーネの鋭さを増したツッコミが突き刺さる。


「何無駄遣いしようとしてんのよ!? 三人の道中の路銀ギリギリってアンタの父親が言ってたじゃない!? 途中で野宿なんて絶対イヤよ!?」


「まぁまぁ、エミーネちゃん。シショーもキンニクに良くても美味しいご飯とトレードになっちゃいますから、此処は我慢しましょう」


「ご飯が無ければイノシシを食べればいいじゃない!!」


 リザが胸を張る。


「あのねぇ……アンタらには金銭感覚とか。文明人としての矜持は無いの? 一応、聖ナサリアスって言ったら大陸でも上から数えた方が早い大国なのよ?」


「そうなんですか?」


 完全にポカンとしてミゥナが首を傾げる。


「そうなの? ぇぇえ……此処の人類、文明レベル低過ぎでは?」


 リザはこれで大国とかとドン引きであった。


「後、チョコチョコ、高位言語使うな!? やっぱり、アンタ魔法使いでしょ!? 隠してる触媒とかいつか暴いてやるんだから!?」


「ぅ~ん。横文字が高位言語とかwww 蒼き瞳もげっそりwww」


 疲れた様子のエミーネは酒場の喧騒から此処が中心となって今は魔獣の駆除、討伐隊が編成されている事を知り、酒場に張ってある乗合馬車の定期経路の日付を確認。


 数日は街で足止めされる事を確認して、これは金策が必要だと肩を落とした。


「取り敢えず、キントレする場所探すな!? これから路銀の足りない分を補う為にお仕事探すわよ!! 幾ら子供と言われたって魔法使いなら、仕事くらいあるでしょ。さ、酒場のカウンターで紹介してもら―――」


「キンニクが喜ぶ。キンニクが叫ぶ。やっぱり、後4個頼もう。そうしようそうすべき!!」


「はふぃ、ふぃひょー」


 新たなヨーカンを頬張る2人の同行者にピキピキしたエミーネがウガァアアアアとキレて食い終わった先からズルズルと2人を引きずってカウンターに向かうのだった。


(おお、ナイスバルク!!)

(おお、エミーネちゃん良いキンニクです!!)


 いつの間にか自分もまたキンニクの使徒へと変貌しつつある。

 という恐ろしき事実にまったく気付く事無く。


 今までなら引きずれなかった2人を引きずる苦労人ツッコミ魔法使いの苦難は続くのだった。


 *


「う~~ん? 魔法使いなのは分かったけど、お嬢ちゃん達に回せそうな依頼かー」


 カウンターの先で頭の禿げた40代のマスターがパラパラと依頼書らしきものを数十枚捲って確認していた。


「先日までは【バリオーダ】の群れが街道に出てて、討伐数下限設定した依頼が山のようにあったんだけど、もう移動しちゃってるって話なんだよねぇ」


「あは、あはは、そ、そうですか~他には何かありません?」


 それやったのウチのキンニクです、とは言えず。

 顔が引き攣るエミーネがゴマスリ・スタイルで促す。


「あ、そうそう。この街の北側に結構大きい山があるだろ? あそこに魔物の群れの親玉がいるってんで、今首都の依頼で討伐隊が編成されててね。その後背の退路の保持に何隊か出して欲しいって依頼があってさ」


「そ、それ幾らですか?」

「ん~~これくらい?」


 ソロバンと呼ばれる東部式の算術道具が弾かれる。


「え、ぇぇ~~でも、それって昼夜無い時間設定ですよね? じゃあ、もう少し……これくらいじゃないかな~~だって、ウチ3人もいますし」


 パチパチパチ。


「お嬢ちゃん賢いねぇ~~じゃあ、おまけしてコレでどうだ」


 パチパチ。


「も、もう一声何とかなりませんか? こ、ここをこんな感じで」


 パチリ。


「んぅ~~正直ギリギリだよ。ギリギリ」

「お願いしますぅ。首都に帰りたいんですぅ(泣)」


「あ~~お嬢ちゃん“例の作戦”の生き残り? しょうがないなぁ。じゃあ、ここはおまけしてコレで。コレ以上は無理」


「あ、ありがと~~おじさま~~」


 何の話かは分からなかったが、取り敢えず空気を読んだエミーネが話しを合わせつつ、愛想を振りまいておく。


「若い子におじさまだなんて言われると参っちゃうね。こ-りゃこりゃ♪」


「(このエロオヤジ……いつか魔獣の餌になれ!!)」


 胸元を覗こうとしたマスターに顔を引き攣らせながら、エミーネが商談をまとめている横で食事を終えて欠伸し始めたミゥナとタウィル君でちんまりキントレを始めたリザであった。


「あのエロオヤジ。く……」


 やさぐれつつエミーネが取って来た仕事を酒場の外で他の2人と共に確認する。


「え~っと。あの山で戦ってる人達の逃げる場所に魔獣さんが出ないようにすればいいんですか?」


「そうよ~簡単でしょ? 殆ど魔獣は討伐されてるって話だし、これでまたしばらくは逗留しても大丈夫なだけのお金が手に入るわ」


「人類、賢しらだなー(笑)」

「何よ!? 何か文句あるの!?」


「さっきからキンニクが言ってる。あの山の主はキントレには丁度良さそう」


「はぁ!? 意味分かんない!?」

「そ、それはヤバイですね!?」

「何がヤバイのよ!?」


「シショーがキントレに良さそうって言う魔物さんは大抵、クマーより3段階くらい軽くてヨワヨワなんですけど、たぶん小山くらいなら削れる力があるんですよ」


「は? ヤマガケズレルって何?」


「ボクのダンベル・コレクションがまた一つ……イイネ!!」


 サムズアップなリザである。


「あ、あはは、ぜ、絶対討伐されてるから、絶対、絶対……討伐されてて、お願い(泣)」


 行く前から何か絶望感漂うエミーネはこうして街の北部にあるクラーグ山へと歩を進めるのだった。


 *


―――数時間後。


「いぃぃぃやぁぁああああああ!? 話と違うじゃないぃいぃぃぃぃ!!?」


 ギュェエアアアアアアアアアアアア!!!


 そんな猛獣の雄叫びが山林では木霊し、山中では次々に阿鼻叫喚の地獄絵図的な悲鳴があちこちから響いて来ていた。


「そりゃー」

「遠投。イイネ!!」


 イノシシ型の大型魔獣【ボルボア】。


 彼らは体長9m程の比較的気性の荒い森の主という事で大陸全土で生息している。


 殆どは一つの森に1頭から2頭くらいいるのが常識だ。


 しかし、何故かクラーグ山中の森にはソレが大量発生していた。


 次々に巨大な牙で山間の土砂と岩が削られ、跳ね飛ばされた金目当ての部隊が脱落していく。


 重症を負う前に逃げていく者もいれば一匹何とか10人近い部隊で戦い倒すも、結局はまた別の個体に不意打ちされて撤退というところが殆どだ。


 聖ナサリアスは国全体で見ると3分の2以上の人々が魔法使いである稀有な国家だ。


 そのおかげでこの魔獣VS人類という暗黒時代な状況でも戦える人材だけには事欠かず。


 比例して殆ど傭兵や兵士達は魔法使いで構成されており、強力な戦力として各地の魔獣達に何とか戦い、対抗出来ている。


 そんな国であるからこそ、未だ今回の作戦では死傷者が出ていなかった。


 複数の酒場から出されている依頼の為、それなりの傭兵が投入されている。


 だが、軽症者や重傷者が出た部隊はもう半数を超えており、魔法使いを温存していた者達が何とか他部隊も込みで街まで後退させる事に成功していた、というのが実情だろう。


「そりゃー、てりゃー、うりゃー、せぇえええい!!」


 無論、そんな事は露知らず。


 巨大な9mの化け物を相撲っぽく投げ飛ばしたり、片手で遠投して、もう一匹のボルボアに当てる的当てゲームし始める化け物達もいたりする。


「ふぅ。これで付近のボルボアさんはみんなセントーフノウっぽいです」


 良い汗掻いたぜと言いたげに汗を拭うのが九歳女児でなければ、エミーネは超人ているんだ~で済ませたかもしれないが、生憎と彼女が目にしているのは得たいの知れないキンニクとは名ばかりの謎の現象を使う暫定で邪法使い(仮)な二人組である。


「う~ん。魔獣軽過ぎぃ。よわよわ~」


 クマーと違って微妙に手に馴染まないボルボアを投げて当てて気絶させていたリザがそろそろ夜更けという事もあり、欠伸をした。


「もう帰るぅぅぅ!? 話が違うぅぅぅぅ!?」


 その横で泣きを見ているのは勿論エミーネだ。


「でも、お仕事ですから」

「ふぐぅ!?」


 仕事を甘く見ていた自分とは違って、清々しい汗を掻くミゥナ達の横顔にプライドがズタボロな少女であった。


 肉体派なんて魔法使いじゃないもん!!


 が、心情である彼女にしても此処で撤退するのはかなり心に罅が入る出来事である。


「あーもういいわよー!? やってやろうじゃない!? そんなにキントレしたいなら、ヌシだろうが魔獣だろうが、出てこいやぁあああああああああ!!!!」


 こいやぁあああ―――。

 こいやぁああ―――。

 こいやぁあ―――。


 山彦が彼女の声を山から返した瞬間。

 ドッと暗いはずの山の一角が噴火でもあったかのように煌々と煌めき。


 ギュビギュビギュビイイイイイイイイイイイイイイイイン。


 と、いう音がしそうなくらいに猛烈な紅蓮と複数の色合いの本流が炭酸染みて弾け散り、森林火災と同時に何かが山の一角から身を起こした。


「―――は?」


 呆然自失なエミーネが固まる。


「お、おぉぉぉ、アレが【バリオーダ】さんのオヤダマ?」


 立ち上がったのは四足歩行らしい猫背の何かだった。


 あまりにもマグマのように煮え滾る表皮から溶け出したモノが森を呑み込んで焼き尽くしている。


「んお? お前さん達、生きてるかー」

「あ、剣士のおじさん。こんにちわ」

「おう。こんにちわ」


 彼女達の背後からランタン片手にやって来た馬車で一緒だったおっさんが遠目に見た燃える巨人っぽい何かを見て、驚いた様子になる。


「おお、一番の獲物だと思ってやって来たら、ありゃぁ【ゼルオーダ】だな」


「ゼルオーダ?」


 ミゥナが首を傾げる。


「ああ、バリオーダは元々、アレが手足として生み出してる先兵なんだ。大陸でも8体くらいしか見付かってないんじゃなかったか?」


「そ、そーなんですか?」


「この道一筋20年。おじさん嘘吐かない!! いやぁ、剣が利く相手なら相手しかったんだが、ありゃぁ、魔法使って剣でグサーとか。魔法使ってドカーンとか。そういうのじゃないと無理っぽいなぁ……」


 少なくとも近付いただけでダメージで焼け死ぬのはおっさんにしてもダメらしい。


「シショー。どうですか?」


「ん? タウィル君には全然及ばない感じ。あれじゃあ、ボクのコレクションには遠いかなぁ?」


 と、言いながらボルボアを投げていたせいであちこちの樹木が折れた森の中。


 一際大きな岩塊が迫出した一角に目を付けたリザが岩塊の上に飛び上がると脚でドンッと下を叩いた。


 途端、ズゴォオォオッと大岩が山肌からボロッと崩れ落ちる。


「あ、アンタ何してんのよぉ!? さっさと逃げるわよぉお!!」


 遠間からエミーネが叫ぶが意に介さず。


「それにアレってこの山の親玉じゃなくない?」


 独り言ちたリザが崩れて転がった岩塊の下に潜ると両手でヒョイッと持ち上げた。


 凡そ直径9mの岩塊である。


 普通に考えれば、ボルボアみたいなものだが、その詰まっている岩石の重量的にはボルボアの数倍以上の重量であり、到底人間が扱える質量ではない。


 はずであった。


「は―――」


 エミーネ以外、剣士のおっさんの顔までもが引き攣る。

 だが、ミゥナだけがニコニコしていた。


「シショー!! 的は大きいですよ~~」


「おっしゃぁあああああ!!! ファイトォオオオオオオオ、イッパァアアアアツ!!!」


 小山の如き岩塊が掛け声は雄々しいのに絵面的にはヒョイッという気の抜けた感じに投げられ、猛烈な速度で森を燃やす魔獣ゼルオーダの顔面にブチ当たった。


「ストラァアアイク。バッターアウト!! うん、ボクにノーコンの二次文字無し」


 グゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ―――。


 空に響く断末魔と共に頭部が威力を受け切ろうとして、ゆっくりと岩塊にぶち抜かれたゼルオーダの肉体が倒れていく。


 ズドオオオオオオオッ。


 という樹木と山肌を崩す音と共に巨体が急激に熱量を失って土気色となった。


「あ、あは、あはは、は……魔法、なの? あれ」


 微妙にエミーネの声は震えていた。

 やった事は分かる。

 純粋物理攻撃。

 岩を投げて頭部をブっ潰したのだ。


 如何に敵が天変地異みたいな熱量を保持していようが、岩塊が一定以上の速度で頭部を破砕すれば、それは死ぬだろう。


 だが、膂力だけでソレを行うという魔法を遂に彼女は知らない。


 そもそも中身を推測すら出来ない。


「キンニク……これが、キンニクの力だって言うの? 在り得ない……わよ」


 自信喪失レベルでふわぁ~~っと口から魂が抜け出そうな彼女はカクンとあまりの現実に意識を落として、慌てたミゥナに介抱される。


「はは、何とも奇異な光景だ……厄災の歴史には数百年前の対ランキのように英雄が欠かせないものだが、このような力を持つ者が顕れるとは……前触れかもしれんな」


 剣士が興味深そうに汗一つ掻かずに戻って来るリザを見て、そう呟く。


「うん? あ、やっぱり。親玉はあっちかなぁ。じゃ、ボクこれから行ってくるから。ミューラー後よろしくねー」


「はーい」


 倒した魔獣には目もくれず。

 ヒョイヒョイと山林の中を少女は明かり一つも無く駆け抜けて消えていく。


「お嬢さん。いいのかい?」

「あ、はい。シショーですから」


「はは、そうか。それじゃあ、オレもそこらに転がってる死体モドキを仲間のところに連れてってやらんとな。また会おう。ああ、オレの名前は【アルザ】だ」


「アルザおじさん?」


「そうそう。南部出の出稼ぎ剣士だ。よろしくな? お嬢ちゃん」


「はい」


 ニコニコしながらミゥナはエミーネを肩に背負いつつ、闇に消えていくアルザを見送るのだった。


 *


「……フン。人間共の質も落ちたものだ。たった数百年で此処まで弱くなるとは……」


 ゼルオーダが倒される少し前。

 山の頂上付近の洞窟で数十名の討伐隊が血反吐を吐いて、転がっていた。

 まだ、息はあるようだが、それにしても重症なのは間違いない。

 彼らは一様に完全武装で鎧を身に着け。

 魔法も使えるようでマナとエーテルどちらの気配もさせていた。


 しかし、肝心の体を護る鎧はベコベコに凹んでおり、ついでのように全身が猛烈な衝撃でショック症状、このまま放置していれば、少なからず死者が出るだろう。


 【ディオスペルダ】の使徒。


 それが彼を呼び顕す名だ。


「ん? 監視用のゼルオーダがまだ残っていたか。四流術師共め。あの程度の玩具でハイ・タイラントの使徒をどうにかするつもりとは……まったく、度し難い侮辱だ」


 彼が洞窟から出ようとした時。


 ゼルオーダがいきなり地表から投げられたらしい大岩で頭部を失う。


「ほう? 人間にもまだ見どころのある者がいるようだな。だが、何故だ? ゼルオーダは確か……」


 彼は旧い記憶を呼び起こす。


 そう、監視者として術師共が条件付けするならば、きっと監視者は最も危険なものに反応して動き出す。


「何? まさか、俺よりも危険度を上に見る? はは、あの頃の英雄共がいたならば、まだしも……こんな時代に俺を超える者がい―――」


「あ、見ー付けた!! おお、ボクのダンベル・コレクションに丁度良さそう!? これは掘り出し物なのでは!?」


「―――」


 キュゴンッ。


 そんな音と共に音速の8倍程の速度で岩塊のような六角柱状の腕が目の前の危険物に対して最速の反応を見せた。


「おぉお!? この密度で操作性抜群? これは体感を鍛えるトレーニングに使えそう!! ぅ~~~良い拾い物した♪」


「?!!」


 六角柱状の拳が猛烈な速度で乱打を繰り返し、次々に敵らしき影を捉え―――られない。


「馬鹿な!? あの時代の英雄共でも此処まで理不尽では無いぞ!?」


「ん~~あぁ~コレかぁ。確か原子核魔法数333だっけ? 超重元素の連番は“外の連中”との同期が強いから、こういうのに打って付けって話だけど」


「貴様!? 何者だ!? 何故、我が肉体の秘奥を知っている!?」


「そっかー。元々、此処の星って、これくらいのものはあったのかぁ。でも、文明期レベルで言うとかなりズサーンな作りな気も……あ、なるほど? 崩壊後の残飯的なので造った感じ?」


「き、貴様ぁあああああ言ってはならぬ事をぉおおおおおおおおおお!!?」


 激昂した彼が洞窟の外に姿を現す。


 それは巨大な3m程の柱を複数人型に見立てて並べ、小さな頭のような岩塊らしきものを付けた酷く不格好なゴーレムらしき存在だった。


 フワフワと浮かび、中央の胴体部分の柱と四本の四肢らしき柱は見えない力で連動している。


 月明かりに照らされ、全身が星の光を鏤めたような色合いの黒いクリスタルである事が分かる。


「!?」


 しかし、激昂した彼の頭部がグシャリと片手で鷲掴みにされた。


「ん~~喋らない方が持ち運び楽かなぁ?」

「く―――何が、目的だ!? 人間!?」


 その言葉に思わずリザがプクククと噴出した。


「ボクの存在も分からないくらいかー。うんうん。やっぱり、人類のこういう野蛮で賢しらに見えて愚かで低俗な上に驕り高ぶりまくりな創造物が最高だよネ♪」


「な、何、を―――」


 ゴリッと片手の圧力だけで彼は知性の中枢が悲鳴を上げている事を知る。


 ソレは―――彼が本能的に悟る絶対の格差だった。


「低文明、低倫理、低道徳、低技術人類ってやっぱり愛すべき存在!! だって、こんなに何も知らないのに何も知らないまま、こういう面白そうな破滅の種を造るんだから(´▽`*)」


 リザは玩具を見付けた子供のようにウキウキ・ニコニコである。


「き、貴様、この波動は!? この星の【ルクス】では―――」


 リザに掴まれた場所から相手を解析しようとしたソレが驚きに声を震わせ。


「そっかぁ。あのメンヘラの女神が何でここに転生させたのかと思えば、ソレに手を出してる知的生命とかー。完全にアウトなやつー」


「ま、まさか、お前は?!! 出現が予期されていた例の?! 馬鹿な!? アレは!? アレは!? アレは我々が大陸中央に―――」


「あ、中枢みっけ」


 ゴリュッと彼の知性の中枢が中指に貫かれた。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!?」


 ボシュウッとソレが瞬間的に表面から蒸気を噴き上げて止まる。


「人格基盤初期化完了!! これぞキンニク竜治!! 壊れた機械とか金属も万事解決!!」


『………初期設定をどうぞ』


 円柱のゴーレムがそう機械的に発音した。


 先程までの人間臭い狼狽えようだった時より機械らしい反応であった。


「自己学習モードで。マスタースレイブに属するシステムはある?」


『あります』


「じゃあ、それで。今から出会う子達と仲良くして、ついでにボクのダンベルになってよ♪」


『畏まりました。クソヤロウ』


「う~~ん? 初期化がまだ甘そう? だけど、よろしくネー」


『畏まりました。クソヤロウ』


「新ダンベル・ゲットー♪」


 こうして新たなダンベルをゲットしたリザはルンルン気分でソレを両手で頭上に担ぎ上げ、仲間達の元へと戻っていくのだった。


 この世界にとって恐ろしい事実らしきものを確認、観測した者はおらず。


 しかし、死に掛けた男達は颯爽とやってきた剣士のおっさんに救出される間際。


 夢で怖ろしい怪物を見た、と証言した。


 それは洞窟の入り口付近。


 月明かりの中でぼんやりとしか分からなかったが、彼らが知る最大の魔獣。


 竜に似ていた、と誰もが口を揃えたのである。


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