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神様、転生する。〜300年間自堕落な神様ライフを送っていたら異世界に堕とされました〜

作者: 冬木 司

処女作です。

 

「GAME CLEAR」


 そう画面に映るのを確認し、僕はパソコンの電源を切った。


 体をほぐそうと軽く伸びをする僕の周りには、お菓子のゴミや空になった空き缶やペットボトル。そして無数のゲームが散らばっていた。


「ん······もうこんな時間か。」


 窓から入る夕暮れの光を浴びながら僕は外を眺めた。


 ここは地球ではない。


 死者たる者を管理し、新たなる生命を与える世界。

 通称【あの世】と呼ばれている。


 あの世には2つの世界に分かれている。


 天界と魔界、それぞれ悪魔と天使が生活をしている。

 魔界では、悪魔が罪を犯した者の魂を罰し、

 天界では、天使が魂だけとなった者を祝福する。


 つまり、どんな人間でも罰さえ受ければ祝福されるということ。


 また、天使や悪魔にも生まれるための条件があって、人の感情によって生まれる。


 もしも誰かが罪悪感で蝕まれているのならば、罪を与える悪魔が生まれ。

 もしも誰かが幸福で包まれているのなら、それを与えるための天使が生まれる。


 しかし僕は天使でも悪魔でもない。


 あの世の常識では魔界と天界の頂点の2名しか神を名乗るのを許されてないはずが、何故か【神】として生まれてしまった僕。


 天神の頂点である【アダム】に育てられ、今はそれぞれの世界の中間で相談役をやっている。


 僕の名前は【シャ·フール】真実から生まれた神だ。


 誰かの真実から生まれたのだが、余りよく分かっていない。しかし天使や悪魔以上に強い能力を持っているらしく、異例の自体ということで相談役となった。


「ピンポーン」


 たまに悪魔や天使の悩みや相談、いやほとんど愚痴を聞くだけの仕事。

 ひたすら自堕落に生活して300年。まさに至福の時間だった。


「どうぞ、入って下さい。」


 今日、この日までは。



 ■ ■ ■



「GAME OVER」


 そう画面に映り、私は溜息をついた。


 周りには配信用の機材と無数のゲームで、散らばっていた。ゆっくりと伸びをし、ドクター・ペッパーを飲み干す。やっぱり、3日連続徹夜の体には染み渡る。


「ん······もうこんな時間か。」


 窓の外から朝日の光が差してくる。

 不登校になって、約半年。


 事の発展は、クラスの陽キャ男子が告白してきたことだった。とある事情から男の子が苦手だった私はその告白を断った。

 しかし、その男子を狙ってる女子達の逆恨みよイジメが始まった。

 段々とエスカレートしていくイジメに私は、義両親に心配をかけないよう黙っていた。ただでさえ疎まれているからこれ以上迷惑をかけたくなかったからだ。


 そして度々学校を休むようになり、学校に行かなくなった。


 唯一の救いだったのは、配信者として一定の収入があったことだ。そのおかげで義両親は、別に引きこもりについてとやかく言うことは無くなった。


 そんなことを思い出しつつ、画面に向かって操作をする。


 全世界一億人ダウンロード超えのオープンワールドRPGゲーム【神が願う世界】通称、神願だ。


 様々な種類の天使や悪魔と契約していき、神の願いを叶えていくゲーム。基本的に、採掘、建築、冒険、農作、狩りなど、どんな分野でも楽しめるようになっている。


 そしてさっきやっていたのは、最後の神の願い。【魔王討伐】だ。

 この願いさえクリアすれば、最終エンディングへとたどり着くのだが、圧倒的な破壊力に不死身ともいえる再生力。

 そんな魔王を相手にどんなプレイヤーも倒せずにいた。


「······以上で配信を終わります。」


 そうやってパソコンの電源を切った。

 今回は何周も素材集めをして最強の装備を手に入れ、万全の状態で挑んだ。しかし負けてしまった。

 しかも後一撃で倒せたのに······悔しい。


 まぁ、考えても仕方ないか。

 席を立ち、風呂場へと向かう。

 脱衣所で服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

「私、何してんだろなぁ·····。」

 俯きながら、ボソッと溢れた。

 湯船に入り、お湯を顔にかける。


 きっとこのまま毎日、ゲームしてはご飯食べて寝るの繰り返し。実際それで生活できてしまう、代わり映えのない生活を過ごしていくのだろう。


「あー······刺激が足りない。」


 今、この瞬間になんでもいいから、ラノベみたいなことをして刺激を与えて欲しい。


 例えば、死神と契約して人の寿命を操って世界中を敵に回してみたり。

 例えば青い狸と破天荒な日常を過ごしてみたり、


 そして異世界に転生して、無双してみたり。


「なーんて···起きるわけないか······。」


 自虐的に少し笑い、視界がだんだんとぼやけてくる。

 ヤバい······ここにきて···睡魔が······ドクター・ペッパー···許さぬ······。



 ■ ■ ■



「誰か···誰か······助けてー!」


 悲痛な叫びをあげる少女は、高層マンションの火事に巻き込まれていた。ボウボウと燃え上がる炎は、躊躇なくビルを燃やしていく。

 瓦礫が容赦なく落ちていき、炎がより勢いを増していく。

 ほとんどの住人は、避難しており残されてるのは、あの少女だけらしい。


「誰か···誰か···あの子を助けて下さい!」


 涙ながらに、訴える母親らしき人。

 その時、ふと自身の亡き母親を思い出した。

 父親が早くに亡くなり、一人で育ててくれたことを。笑い合ったり、怒り合ったり、悲しみ合ったり、苦しかったりして、とてもじゃないけど良い思い出ばかりではなかったけど。

 確かにそこには母親の愛情はあって、それで今、僕は生きてるということを。


「おい!危ないぞ!」


 少しばかり、勇気を出したのか。何を思っていたのかもう分からないが僕はマンションに向かって走っていた。

 ただの自己満足かもしれない。ただの無謀かもしれない。

 後ろから呼び止める声が聞こえるが、もう歩みを止めることはない。

 そして炎が巻き上がるマンションに向かって···


「うわぁぁぁ······はぁはぁはぁ···。」


 意識が急激に覚醒し、目が覚める。

 なんの夢を見ていたのは覚えていないが、とても苦しくて懐かしい感じがする。こんなこと、300年間生きてきて一度もなかったのに······ん···?

 

 腕にふにゃんと柔らかいい感触が···それに異性特有の甘くて芳醇な匂いが香っている。そして誰かの寝息も···。

 もしかしてと思い、恐る恐る横を見てみる。


「······んっ········むぅ。」

 

 そこには女神がいた。

 

 サラサラとした美しい銀髪に、うすく透き通ったもち肌。整った眉に、ピッチリとしたまつ毛。

 スタイルも抜群で、プリッとした尻に、少し膨らんだ胸。そしてうすく透き通った桃色の突起に、毛が一切生えてないツルツルの局部。

 そんな可憐で、美しい少女か全裸で眠っていた。


 ···うん······きっと夢だろう。


 朝起きたら、隣に全裸の銀髪少女が眠っているなんてエロゲーやなろうじゃあるまいし。


「ん···こっちきて···。」


 寝ぼけながら僕の腕を引っ張る。


「え?」


 急に引っ張られ、抵抗が出来ず彼女の顔が目の前に来る。

 スヤスヤと気持ちよさそうに眠る彼女は一切警戒心がない。

 これって、夢だよな···だったらちょっとぐらい触っても罰は当たらないだろう、神だし。

 そして白く滑らかな肌に、ゆっくりと指を添わせていく。


「んっ······あっ···ひゃんっ···♡」

 

 頬を赤く染めながら、とても甘い声で喘いでいた。

 またその後も、白くゆっくりとしたもち肌を優しく丁寧に味わっていた。

 その度に色気のある声で喘いでいる。

 やばい······とてつもなく可愛い。

 彼女いない歴=年齢の僕(神)には、エロゲーで鍛えたとはいえ中々刺激が強い。

 

 思う存分堪能した後、頬に手をかけ唇に指をあてる。

 ぷっくりとした感触に思わず、力を込めてしまう。

 ゆっくりと近づいていきあと数センチで唇が触れ合うところまできた。

 やっぱり、何度見ても可愛いくて美しい。

 このままキスしても大丈夫かなぁ、だって夢だし······ん?···夢?

 

 しかし、それにしては感触や吐息がやけにリアルな気が······


 「んっ···んぅ······ん?」

 

 どうやら目が覚めてきたようだ。

 多分、夢だと思いたいが、もしかしてリアルかもしれないのでとりあえず挨拶をしよう。


「おはよう、僕の愛しのプリンセス♡」


 そうやってイケボで決め顔の挨拶する僕は思った。

 やべぇ···ギャルゲーやりすぎた。



 ■ ■ ■



「誰か···誰か······助けてー!」


 そう叫んでも、誰も助けには来ない。玄関は炎で包まれており、外にでることはできない。


「グスッ···グスッ······うぇーん。」


 涙がこぼれ落ち、感情が恐怖に支配される。

 どうして···なんで···私が。

 パパっ、ママっ、どうして誰も返事してくれないの···もう···嫌だ···。

 炎がさらに燃え上がり、段々と呼吸がしづらくなってきた。

 だめ······もう···むり···

 段々と意識が遠のいていき、視界が暗転していく。


「お···い···大···丈······夫···か」


 誰かの声が聞こえてくるけど、もう限界だ···。


 ここは、どこだ?

 先程の場所から一転、一面真っ白の空間に来てしまった。

 さっきまでのは······過去の記憶の夢か········

 あの後、奇跡的に助かったけど結局一人になっちゃったな···。


「それにしてもここはいったい···ひゃっ♡」


 突然体をまさぐられる感覚に襲われた。


「いゃっ······あっ······あぁん···。」


 敏感な所を触れずその周りを執拗に、しかし優しく触れてくる感覚に悶てしまった。


「だめぇっ···そこは······らめぇ♡」


 何度も同じところを責められ、私の体は全身敏感になってきた。触れられるたびに気持ちよく、神経が過敏になっていき大事な所を自分で弄るようになってきた。普段するのとは段違いに気持ちいい。


「はぁ···はぁ···いゃっ······もっ···いくっ···あぁん♡」


 恍惚に喘ぎながら私は絶頂を迎えた。

 やばぁい、普段のより気持ちいい···。

 そして徐々に意識が覚醒していく。


「んっ···んぅ······ん?」


 なんだが人の呼吸の音が聞こえて、ゆっくりと眼を開ける。


「おはよう、僕の愛しのプリンセス♡」


 そこにはイケメンがいた。

 キリッとした眉に、夜空のような漆黒の美しい髪。

 そして全てを見通すような、鋭い眼。

 スタイルもよく、しっかりと割れた腹筋はなかなかEエロスがあり·······ってあれ?

 なんでこの人私の側に全裸でいるの···それに私なんだが肌寒い気が·······。


「いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 急いで大事な部分を隠し、近くにあった毛布を取り素肌を隠す。


「だ、誰ですかあなた!なんで私の部屋にいるんですか!」


 心の中から叫び、相手との距離を取る。しかしこの彼、見れば見るほど美型でかっこいいなぁ···いやっ、そうじゃなくて。

 あれっ?なんだがさっきまでのキザなセリフとは打って変わって顔が段々と赤くなっている。しかもなんかボソボソ言ってるし···。


「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」


 なんか土下座してきた。


「いや、違うんです。目の前にあなたの様な美しくて可愛い人が目の前にいて、しかもお互い裸で大事な所も隠さずに、どうかんがえても夢だと思うじゃないですかぁ〜。今まで女の子を見たのは二次元だげだったから誰かが起こした奇跡だと思ったんです。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい······。」


 心底反省してる顔でこちらを涙目の上目遣いで見る様は、さっきまでのクール王子様系ではなく、どちらかというと子犬のようなペット系に見えてきた。


「いや、そんな可愛いだったり、綺麗だなんて···そうじゃなくて、どうして私の部屋にいるんですか!」


 急に褒められて少し照れてしまったが、このイケメンが変質者なことに変わりない。


「いや、ここは僕の部屋で人間の女の子が来るなんておかしい···?」


 その時、私も彼も同じ事に気が付いたらしい。


「「ここは、どこだ?」」



 ■ ■ ■



 やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。

 彼女夢じゃなかったし、がっつり触ってしまった。

 しかも最近ハマってたギャルゲーの痛い王子様のセリフを吐いてしまった。

 とりあえず、誠心誠意謝らなきゃ。

 ···

 なんとか許してもらった···しかしここは一体何処なんだ?

 大きなシャングリラのベッドに高級感溢れる家具類。そして何度も見たことのある天井。まるでこれはさっきまでやってたゲームの中にいるような····?やっぱりこれって!


「「神願の世界に転生してる!」」


 僕と彼女の声が被さった。

 ふと横を見ると、先程までとは打って変わって意気揚々と満足そうな顔をして何かボゾボソと話してる。

 そしてこっちに向かってとびきりの笑顔を向けてきた。


「あの!神様か天使か誰が知りませんがありがとうございます!それと、さっきは変質者扱いしてごめんなさい!急に目の前にいて驚いただけなんです!その姿、もしかして私にスキルや祝福を授けに来たんですか!だったら私はレールガンがいいなぁー、コインを投げてかっこよくやってみたいし。いや、でもやっぱりギアスもいいなぁー、かっこいい名言言ってみたいし、でも、こういうときは······。」


 目をギラギラさせ、早口でまくし立てる姿はどこか既視感を覚える。

 だがしかし、残念なことに···。


「すごく興奮してるのは分かるが、残念ながら君を転生させたのは僕じゃない。」


「えっ?」


「僕も君と同じで転生しただけなんだよ。確かに僕は天使や悪魔に近い存在だけど、この世界に来るはずじゃないんだ。」


「どういうこと?」


「この世界は、あの世で管理しきれない許されざる魂達の行く先なんだ。例えば、何度生まれ変わっても罪を犯し続ける者だったりね。そういう者達をこの世界に墜とす、言うならば墓場なんだ。そしてその世界にいったものは2度転生が出来なくなる。基本的に神願の世界はこの世界を元にして出来ている。あの世の者達の抑止力のためのゲームとしてね、2度と転生が出来なくなるということは死ぬよりも恐ろしいことだからね。」


「あの世って?」


 僕はあの世について、そして自身の事について話した。

「······なんとなく分かった。」


「そして、何故か知らないが神である僕がこの世界に墜ちるなんて······ん?なんだこれ?」


 説明をし終わった僕の目の前に、一通の手紙が落ちてきた。

 中を開けると、とても綺麗な見慣れた字が書いてあった。とても長い文章だったため、簡略化すると、


『久しぶりー!元気してる?君の愛しの義兄だよー。こっちは毎日魂達の管理で残業が続いてて辛いよー。このままだと天に召されちゃいそーだよー。もう天にいるんだけどねぇー!···あれ···静かにこれ破ろとしないでー。

 では改めて、君が神として生まれて300年。あの世でも管理の仕方が変わり全ての魂を祝福することに決まった。つまり転生のシステムがなくなったわけだ。そういうことで君には許されざる魂達をもう一度こちらのあの世に送るため、この世界の神を任せたい。以上。

 追伸 そこにいる人間の女の子は、最後の許されざる魂だ。すでに送ってしまったので処置を頼む。』


 うん、この義兄長い間合わないと性格変わってないか···。

 とりあえず、面倒事を僕に押し付けてきたってことか。

 しかし、実際に異世界に来ると余り動揺しないもんだなぁ···。


「アダム···神···となると貴方は最初に出てくる契約の天使か悪魔···でも神って言っていたし···つまり···これが私の···チート···」


 なんだか、先程の彼女は手紙を見てからとてつもなく考え事している。

 しかし、この世界の神にされたんだからこの世界の許されざる魂達を全員あの世に送らないと帰してくれなさそうだなぁ···


「とりあえず、これから一緒に過ごしていくと思うからよろしく、僕の名前はシャ·フールだ。」


「私の名前はリル·リオス。ロシアと日本のクォーターよ。」


 そうやって固い握手を交わした。


「とりあえず何か羽織ってくれないか、色々と目に入って···」


「···きゃっ···そ、そうね、とりあえずそうしましょう。」


 近くにあったクローゼットを開ける。そこにはネットとかでよく見る冒険者の装備が一式揃っていた。

 しっかりとした素材の皮のズボンに、清潔感溢れる白のシルクシャツ、動きやすそうな茶色のブーツ。初心者冒険者みたいな雰囲気をだしていた。

 彼女の方を見ると、すでに着換え終わっていた。

 ひらりとしたミニスカート。へそがちらりと見えるミニタンクトップ。そしてその上に羽織る高級感溢れる革ジャン。そして綺麗な髪をまとめるベレー帽。とてもしっくりきて思わず見惚れてしまった。


「さて、お互い着換えたことだし···って何ボケッとしてるの、とりあえず外に行くよ!」


 そういって僕の手を彼女の小さな手で引っ張っていった。



 ■ ■ ■



 外に出ると、そこは異世界の風景そのもので周りには様々な人種が歩いていた。エルフやドワーフ、ドラゴニュートなど人種以外でも普通に生活している。まさにこれが異世界!まさにこれが自由!


「シール!見てみなよ。すごい、すごいよこの世界!」


「······」


「あれっ?シールどうしたの?」


「······」


「おーい、シール?」


「······なに?」


 なんだか周りを見て顔を強張らせている。それはどちらかというと興奮というより、恐怖に身を震わせてるようだった。


「とりあえず、この世界には冒険者ギルドっていうのがあるから行ってみよ!」


 ヲタクなゲーム配信者な私にとって、神願の世界はまるで赤子を捻るように簡単だ。


「わぁ~~、ここが冒険者ギルトか〜。」


 目の前にあるのは西洋ヨーロッパを意識させるような酒場で、看板の文字は分からないが冒険者ギルドと書かれている。これも転生サービスだろう。


「お邪魔しまーす」


「······します」


 シールと共にドアを開ける。

 大きな広間に、カウンター型のバー。樽が机のテーブルに受付嬢が多数。

 正に夢に見た刺激のある異世界生活。

 あ、あれは最初の願いをクリアしてもらえる初心者向きの盾だ!しかもパーティ編成もバランス重視、やっぱり命がかかってるとあれが一番生き残りやすいのかぁ。わぉ···あれは中盤のボスバトルをクリアするともらえるレア装備だ!きっとこの中であの人が一番強いんだろなぁ。


「リル···前」


 シールが裾を引っ張って受付が空いたことを伝えてくる。


「すみませーん、冒険者登録したいんですけど?」


「おいおい、いつからここは子供が入れるようになったんだ!」


 大柄のスキンヘッドで筋骨隆々なガラの悪い冒険者が大きな声で怒鳴り、こちらに迫ってくる。


「お前、無視してんじゃねぇよ!」


 胸倉を掴もうとしてくるが、間にシールが入り込む。


「······」


「なんだ、この糞ガキ。お前にはようがねぇんだよ!」


「シール!」


「おい、そこの姉ちゃん!そんなガキと一緒だと後悔するぜ、俺様が手取り足取り教えてやるよぉ!」


 下卑た目線でこちらを見てくる。普通の人だったらここで萎縮するんだろうが、ゲームで鍛えた私の精神には遠く及ばない。きっとこれはチュートリアルの雑魚キャラだろう。


「残念だけど、あなたタイプじゃないの。出直してくれる?」


 きっとこの後、何かしらイベントが起きるのだろう。

 周りの冒険者は何やらボソボソと話しており、何やらこちらに憐れみの目を向けてくる。

そういえば神願にはこの設定がなかったような···


「なんだと、この女!」


 そうやって拳を振るってくる。私は思わず目を閉じた。


 ■ ■ ■


 異世界転生するとは思わなかったが、人の視線が怖すぎる!300年間そんな注目されることなかったから怖い。そんな時に手を引っ張ってくれたリルかっこいい。


 ·······

 やばい···何だかめっちゃ怖い人が目の前にいる。

 よしこういう時ばガツンと言ってやる。


「なんだ、この糞ガキ。お前にはようがねえんだよ!」


 無理だった···やっぱり怖い。冒険者ってもう少し優しいイメージがしたんだけど·······て、リルに手を出そうとしてる?この野郎、今度こそ言ってやる!

 って、あれ体から怒りが溢れてきてる。


『あいつを······救ってくれ。』


 体の中から声が聞こえ、全身に力が湧き巡る。

 いや、怒りが頭の中を支配するといったほうが正しい。

 そして拳が振るわれる直前に、僕はそれを掴んだ。

 動揺が周りに伝達し、他の冒険者達もざわめきだす。

 しかし僕はビクリともさせずにそれをゆっくりと握り潰していく。


「いだあああぁぁぁぁぁぁ!」


 骨の潰れる感触が大きくなると共に、悲鳴を上げていく。

 いっそ、このまま殺してしまおうか。


「シール?」


 ふとリルの声が聞こえ我に返り、力を弱める。

 あれ、そういえば俺なんで怒ってたんだっけ?

 手を抑え、後退りする強面の冒険者。

 周りが畏怖と恐怖の目線で囲まれ、今の現状を把握する。こんな人の視線を浴びると······やばい。


「何やら、騒がしいと思ったら随分と活きがいいのがいるねぇ。」


 二階の階段から声が聞こえる。そこには赤いドレスに身を包んだ美しい女性がそこにいた。しかし僕には分かった。この人は許されざる魂だ。


「とりあえず自己紹介といこうじゃないか、私の名前はエルフィ·ロード。あんた達は?」


「シールだ。」


「リルよ。」


「なるほど、中々いい名前じゃないか。しかも腕っぷしが強くて顔も良い。あんたらどこかの貴族の出身かい?いや、そんなことは今はどうでもいい。あんだが今腕を潰したのは家のギルドでも上位冒険者なんだよ。せっかくの稼ぎ頭を再起不能にさせたんだ。あいつの代わりといっちゃぁなんだが、あんたをA級冒険者として認定しよう!」


「「えええぇぇぇ!」」


 周りから驚愕と賞賛の声で溢れる。最初に絡んでくる冒険者は大体チュートリアルの雑魚というのは本当だった。


「お待ち下さい!」


 一筋の響きある声が、ざわめきを一瞬で静めた。


「どこの馬の骨とも分からぬ野郎に、上級冒険者の称号を与えるのはどうかと思います。」


 声を上げたのは、歴戦の勇者のごとく傷が刻まれた鎧に包まれた金髪の美少女だった。


「だったらB級冒険者のレール。あんたは、あのA級のヨワスギーに勝てるとでもいうのかい?」


 なんだあいつ、名前まで雑魚認定とか可愛そうになってくるわ。


「あいつは汚いやり口でランクを上げていただけです。実力だけでいえば私の方が上です!」


 ツンとした眉がよりツンとしており見るからに怒っているのがわかる。


「それもそうだねぇ···だったらそこのシールとリルトやら、こいつと腕試しをしてやってくれ。」


 えっ······まじかよ。


「あんたが勝てると思ってんのかバーカ!」


 さっきまで黙りだったリールが相手をおちょくるようにからかう。

 おいおい、そんな簡単な挑発に乗るわけ······まじかよ、めっちゃ顔を真っ赤にして怒ってるよ。


「そこのお前ら、裏の闘技場にこい!叩きのめしてやる!」


 これもまだチュートリアルの続きかよ···。


 周りがギャラリーに囲まれ、ドラゴンボールの天下一武道会のような闘技場についた。


「今謝るなら、余り痛めつけないようにしてやる。」


 なんだが先程の空気と変わって戦闘の空気感に満ち溢れてくる。


「そういえば、リル?」


「なに、シール?」


「さっき、あんな挑発してたけどたい運動神経に自信は?」


「100メートル30秒。」


「へっ?」


「返答は無しか、では!」


 そういうや否か金髪冒険者が目の前に光の速さに近づき刀を振り回してくる。それを僕は視て避ける。上段に突き、凪払いにそして回転斬り。まるで流れるような一瞬の動きで放ってくる。

 それを全部紙一重で避けていく。一瞬の攻防が終わると剣を止め、鞘にしまう。


「ここまでやるとは······貴様、いったい何者だ?」


「神様です♡」


「よし、殺す♡」


 そういって、居合の形をとる。全身の筋肉が収縮され、力が漲る感覚が視える。


「剛性術式第三 獅子抜刀」


 荒々しく獣のような太刀筋が空を切り裂く感覚を覚える。先程の倍以上の速さで振るってくる刃が僕の首に迫ってくる。そういえば、言ってなかったけど何故神と呼ばれているのかはシンプルに、


「バキィッ」


 圧倒的に強いからだ、刃を素手で掴み砕く。

「「え!?」」


 相手と周りから驚愕の声が聞こえる。そして背後に周り首とんをする。フッと気絶して倒れ込む。


「よし···これにてシール達をA級冒険者として認めよう!」


 周りから歓声と驚愕の声が聞こえる。これから始まる僕達の冒険のファンファーレだ。

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