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最終話.お好きに恋をなさいませ

 私が精霊さんの夢を見なくなってから一年後、大陸の半分を支配する怪物達の情勢にも変化があった。

 金剛竜ブリリアントと呼ばれるきらめく鱗を持つ竜が軍団を率いて怪物達の頂点となり、紅玉竜ルビーレッドを妻に迎えたらしい。おめでとう。

 さらに二年後。

 両殿下が話していた子爵令嬢が月を真っ二つに割り、それを金剛竜率いる怪物達が必死こいて修復するという珍事が発生する。

 子爵令嬢、とんでもない。アメリカン。

 さらにさらに二年後。

 子爵令嬢が激しい戦いの末に金剛竜ら怪物の軍をこてんぱんにぶちのめし、全力で戦えば互いに滅びると人族と怪物の間で不可侵条約が結ばれた。

 その功績により子爵令嬢は光の黒騎士の名を与えられ、怪物達に睨みをきかせる人族の守護者の一人となる。

 光なのに黒。

 光の黒騎士、謎だ。アメリカン。

 この不可侵条約のおかげで、紅玉竜は驚異ではなくなった。

 王国の悩みの種、ひとつ解決。

 そして王国に未だ現れぬ悩みの種、どんどん巨大化。

 光の黒騎士は聖女と同じ、夢の中心だった人物だからだ。


 夢の中心とはここまで強いものなのですか。

 聖女も光の黒騎士のように、超デタラメ強いのでは……? 


 と、思っていたら陛下も同じ事を思ったのだろう、宮廷からの使者が来た。


「アルバート殿下との婚約を、聖女が見初めた殿下では無い殿下との婚約に変更していただきたく……伏してお願い申し上げます」

「……は?」


 ナメとんのか、ああん?


 アルバート殿下との婚約は破棄されるとは思っていたが、残った方と婚約。

 言うなれば残りもの婚約だ。

 あまりの展開に食器をめきょっと握りつぶす事三日。

 アルバート殿下とダニエル殿下が侯爵家に転がり込んで来た。


「「すまん!」」


 両殿下、まずは土下座謝罪。

 そして互いに互いを指差し叫ぶ。


「「こいつに聖女を口説かせるから!」」

「……」


 二人とも、相手に聖女を押しつけるつもりらしい。

 聖女が超デタラメ確定でもこれはない。

 呆れる私だ。


「ダニエル! お前夢では聖女を口説きまくっていたではないか!」

「兄上こそ四割ではありませんか! 俺の二割の二倍です!」

「……どっちでもいいですわ」

「「ええっ!」」


 こんな両殿下では不安。

 私は両殿下の土下座ケンカを楽しそうに眺めるグレンに言った。


「グレン……あなた、夢と同じように聖女を口説きなさい」

「ええっ?」

「そうだグレン! お前が口説け!」

「まかせたぞグレン! 姉のエレノアは俺にまかせとけ!」

「いえ、両殿下も聖女を口説いて下さい」

「「ええっ!」」

「聖女の好みがわかりませんので」

「「えええっ!」」


 王家は両殿下を、侯爵家はグレンを鍛えて鍛えて鍛えまくる。

 さらに三年後のある夜。

 私達はとんでもないものを空に見た。



 壁の花にもなれない女!



 怪物達が必死こいてくっつけた月を背に、天を駆ける心の叫び。

 聞くところによると光の黒騎士は一年前に縁談相手の王子にトンズラされ、王から土下座謝罪されたそうだ。

 そして良縁を求めて招待状をもらった舞踏会に参加したら『怖いのでお帰り下さい』と土下座懇願されたらしい。

 天を駆ける叫びの通り、壁の花にすらなれなかったわけだ。

 人族の守護者と喝采を受けても力はデタラメ。

 彼女は人としてデタラメ過ぎたのだ。


「ね、姉さん……僕、こんなデタラメを口説かなきゃいけないの?」

「……がんばれ!」

「ええっ!」


 そして聖女も光の黒騎士同様、夢の中心。

 さすがにここまでとは思わなかったが、こんなデタラメ存在が今も誰か分からないとかさすがに困る。

 崩れ落ちる『壁の花にもなれない女!』を空を駆ける無数の光が砕いていく。

 あれは怪物の頂点である金剛竜の率いる竜達だろう。

 あんなのが落下したらさすがの怪物達もただでは済まない。

 光の黒騎士のやらかしに彼らも必死だ。


 がんばれ怪物さん。


 と、私は心でエールを送る。

 そしてさらに一年。

 天に文字を飛ばしたり輝いたり怪物達をこてんぱんにしたりとデタラメの限りを尽くした光の黒騎士も良い伴侶を見つけたらしい。

 彼女は周囲を振り回すデタラメ大恋愛と挙式の末、すっかり大人しくなった。

 相手が誰かは知らないが、月を真っ二つにしたり天に文字を描いて隕石として落とすような超絶デタラメと結婚するとはすごい人だ。

 勇気ある先達に賞賛の尽きない私である。


「出来る人には出来るのよグレン。だからあなたもきっと出来る! 姉さん信じてる!」

「ええーっ! ムリだよ出来ないよ!」

「そうだぞグレン! 俺には無理だがお前ならきっと出来る!」

「俺も応援するぜグレン! 姉のエレノアは俺にまかせろ!」

「人柱は嫌だーっ! 僕だって姉さんの方がいい!」

「「「シャクレガー!」」」


 グレンの言葉に両殿下と私が叫ぶ。


「グレン、私達は血の繋がった家族なの。私とあなたの結婚は聖女が言うところのシャクレガーなのよ」

「意味がわからないよ姉さん! アメリカンと同じくらい意味不明だよ!」

「それに私だって相当のデタラメです。なぜ私が良くて聖女がダメなのですか」

「姉さんなら信じられるからです!」

「いきなりデタラメと知り合いデタラメなら誰もが後者を選ぶだろ!」

「そうだそうだ!」

「……さらに鍛える必要が、ありそうですね」

「「「うわぁ!」」」


 そんな軟弱で王国を支えるつもりなのかヘナチョコ共め。

 と、三人をさらに鍛えて鍛えて鍛えて時は過ぎていく。

 そして……


「行くわよ、グレン」

「ま、待って姉さん!」


 夢を見なくなってから十年後、私達は王立魔法学園に入学した。

 私は十六歳、グレンは十五歳。

 夢と同じ年齢での入学だ。

 改革により平民にも門戸を開いた王立魔法学園は夢とは違い、生徒の二割が平民。

 これも両殿下と陛下が推し進めた政治改革の一環。

 貴族が世襲で支配していた特権は、少しずつ平民に開かれつつある。

 あの夢の結果だ。

 精霊さんが貴族のみならず平民にも力を与えた結果、貴族が平民を以前のように扱えなくなったのだ。

 無理に力で押さえつけようとした貴族は没落し、協力する仕組みを作った貴族は繁栄した。

 夢で没落をくり返したバルディール侯爵家は後者。

 世界の変化をいち早く感じ取った侯爵家はさまざまな規制を緩和し、権力の一部を平民に譲り渡して領政に参加させた。

 バルディール侯爵領の政治は平民より選出された代表者と侯爵家出身の者とで構成された議会で行われる。

 お父様も議会に再考を求める事はあっても拒否することはほとんど無い。

 街道の整備が、橋が、洪水が……

 私も領民の求めに応じて街道整備したり橋をかけたり治水をしたりと大忙し。

 今の私は牛や馬よりハイパワーな土木令嬢。

 悪役令嬢も遠い昔だ。


「姉さん、先月の領地収入も過去最高だったらしいよ」

「休日を返上して開墾した甲斐があったわね、グレン」


 力を上手に合わせれば栄え、力に力で対抗すれば衰える。

 私が夢から学んだ事は今に活きている。


「アルバート殿下、ダニエル殿下、おはようございます」

「エレノア、また休日返上で土木工事してたのか」

「茶会や舞踏会に誘うヒマもないな。お前は」

「やりがいがありますから」

「さすが姉さん」

「我ら王家も負けてられんな。ダニエル」

「王国議会も近々開かれる。建国より三百年、今こそ改革の時だ」


 平日は学園、休日は土木工事。

 そんな調子で充実した学園生活を送っていたある日の事、私のもとに両殿下とグレンが血相を変えてやって来た。


「大変だエレノア!」

「やばいぞエレノア!」

「一大事だ姉さん!」

「……どうかしましたか?」


 何ですか、真っ青な顔をして……


 と、首をかしげている私に三人が叫ぶ。


「廊下を歩いていたら目の前にピンクのハンカチが落ちていたんだ!」

「食堂で席を探す女生徒が!」

「どこからともなく『学園長の部屋はどこですか?』という声が!」

「……」


 あっけにとられる私の前で、三人は再び叫ぶ。

 叫ぶのは聖女の謎の独り言、イベント名とかいう奴だ。


「あれを忘れるはずもない! 『このハンカチ、君のかい?』だ!」

「俺もだ! 『おっと、よそ見は危ないぜ』だ!」

「『悪役令嬢の弟』! 逃げるのが一瞬でも遅れたらやられていました!」

「……それ、聖女じゃないですか?」

「怨霊だ!」

「オカルトだ!」

「怖い! 姉さん助けて!」

「それで、聖女はどんな方でしたか?」

「怨霊!」

「オカルト!」

「姉さん助けて!」

「……」


 見る事すら出来ないのですか、このへなちょこトリオは……


 両殿下にグレン、恐怖のあまり聖女から目を背ける。

 光の黒騎士が超絶デタラメなので聖女がオカルト扱い。すっかり恐怖の対象だ。

 こんな調子では口説くなど論外。私が間に立たねば話が進まない。

 そして昼休み。

 昼食を終えた私は聖女と話をつけるため、初めて出会う地に向かう。


 聖女と私が初めて出会う場所は、中庭にある陽当たりの良いベンチ。

 気分が悪くなって休む聖女に『そこを譲りなさい』と言い放つのでしたね……


 私が夢を思い出しながら中庭をゆっくり歩けば、ベンチに女生徒が座っている。

 彼女との面識は無いがこの出会い、間違いない。

 聖女だ。


「こんにちは」

「はじめまして」


 私も笑顔、聖女も笑顔。

 私と聖女の出会いは、夢とはまるで違う穏やかさだ。


「バルディール侯爵家のエレノア・バルディールです」

「メアリー・スーと申します」


 私と聖女、いやメアリーは互いに頭を下げる。


「隣、よろしいですか?」

「もちろんです」


 私は隣に座り、メアリーと穏やかな中庭をしばし楽しむ。


「メアリーは聖女、ですよね?」

「はい。悪役令嬢エレノア様」

「……その肩書きはやめてください」

「では私もメアリーとお呼びください。エレノア様」

「メアリー、聖女試験に名乗り出なかったのですね」

「貴族や王家が私を利用する事が分かりきっていましたので」

「ですよねー」


 聖女、目先のエサに食い付くバカではなかった。

 だから聖女試験に出てこなかった。


「それに私が夢の先に見た世界は、エレノア様やグレン様、アルバート殿下、ダニエル殿下がきっと実現して下さいます。力だけしか取り柄のない私の出る幕ではありませんよ」

「ありがとうございます」


 そして玉の輿を狙うような女性でもなかった。

 私と同じように夢から未来を感じとり、未来を掴もうとする者だった。

 もし私達が平民を力で押さえつけていたら、メアリーが動いていただろう。

 そうなれば多くの血が流れた事は間違いない。

 私達の決断は正しかったのだ。


「御先祖様の才覚のおかげで三百年も特権を独占できたのです。そろそろ子孫である私達は御先祖様離れする時でしょう」

「さすがは悪役令嬢エレノア様。貴族の業を一人で背負っただけの事はあります」

「ですから、その肩書きはおやめください」


 私はメアリーと笑う。

 そう。

 これからは家系で身分や権力が決まる時代ではない。

 賢ければ繁栄し、愚かなら没落する。

 そこに貴族も平民もない。

 自らの才覚が自らを決める新たな時代の始まりだ。


「でも、精霊さんの世界はもっとすごいそうですよ」


 メアリーが笑って私に言う。

 精霊さん。

 私達とは違う世界で私達をゲームとして楽しんだ存在だ。

 様々な謎の言葉を残した精霊さんの世界、私もとても興味がある。

 私はメアリーに聞いてみる。


「どんなですか?」

「精霊さんの世界では数年に一度、王や領主を国民の投票で選びなおすそうです」

「王や領主を投票で決めるのですか?」

「はい。精霊さんは国家元首とか知事とか呼んでましたね」


 国民の投票で王がコロコロ変わる。すごい世界だ。


「それは……すごい世界ですね」

「国が進む方向を国民の投票で決める。これが民主主義だと」

「貴族は?」

「権利も義務も平民と同じだそうです」

「王家は?」

「ほとんどの国の王家は権力との縁が切れ、象徴になったそうです。そうなった王家は権利も義務も平民とあまり変わらないそうですよ」


 権力者を投票で選ぶ世界なら、貴族も地位を維持するのは無理だろう。

 領地を富ませることが出来ない領主をクビに出来るのだから。


「……聞こえの良い言葉に騙されてひどい目に遭いそうですね。メアリー」


 そのあたりは王も貴族も変わりませんが、数年ごとに変えるのなら『やったもん勝ちだ』と不可能な夢物語で民衆を騙す者もいるのではないでしょうか……


 と、私は思ったが現実はもっとひどかった。


「そのような世界になる過程で五十年の間に数千万人の死者を出す世界大戦を二度もやったそうですよ」

「ひどすぎる!」

「そんな調子で戦ってたら一撃で数十万人殺せる核兵器というものが使われて、こんなので戦えば皆滅びるという恐怖で世界大戦が起こらなくなったそうです」

「私達と怪物達の間に結ばれた不可侵条約のようなものですか。アメリカン」

「まったくアメリカンですね」

「ところでメアリー、アメリカンとは何なのでしょうか?」

「精霊さんの世界にある大きくてすごい国の名前だそうですよ」

「ついでにシャクレガーは?」

「近親婚であごがしゃくれた有名な家系があったそうです」

「なるほど」


 アメリカンとシャクレガーの意味がやっとわかった。アメリカン。

 そして精霊さんの世界、超とんでもない。

 さすが精霊さんだと呆れる私にメアリーは笑う。


「自らが選んだ者達の決定なら諦めもつくのではないでしょうか」

「まあ、選べない王家や貴族のはっちゃけよりは諦めがつきますね」


 政治を間違えて悲惨な目に遭うのは、どちらも同じ。

 ならば自分で選べた方が良いだろう。ダメでも自業自得だからだ。

 ラステリント王家は今のところ上手くやっているが、子孫に愚かな者が現れないとは限らない。

 いや、必ず現れ王国を危機に陥れる事だろう。

 王家とて人間。

 運命を委ねるのも責任を負わせるのも限度がある。

 皆で分けるのが優しさというものだ。


「エレノア、こんな所にいたのか」

「アルバート殿下」

「探したぞエレノア」

「姉さん」

「ダニエル殿下、そしてグレン」


 噂をすれば何とやら。

 私とメアリーの元にやってくる者がいる。

 アルバート殿下、ダニエル殿下、そしてグレンだ。


「そろそろ昼休みが終わるぞ」

「ところで、こちらの女性は?」

「姉さんの友人ですか?」


 首を傾げる三人に、メアリーが礼をする。


「先日はどうも。メアリー・スーと申します」

「先日? どこかで会ったか?」

「すまん。まったくおぼえが無い」

「僕もです。失礼ですが、どこかでお会いしましたでしょうか?」


 こんな挨拶は夢ではされなかったのだろう、三人はまた首を傾げる。

 イベント展開には超敏感なのにと私は呆れつつ、私は三人に答えた。


「……先日、皆様が目を背けて怨霊オカルト扱いした方です」

「「「聖女!」」」

「はい」

「「「いきなりデタラメ!」」」

「はい?」


 三人とも、第一印象最悪ですね……


 と、思う私の冷たい視線に気付いてか、三人がメアリーの前にひざまづく。


「聖女よ、ぜひとも我が弟ダニエルと結婚して頂きたい」

「いや、エレノアの弟であるグレンこそ貴方にふさわしい」


 アルバート殿下、ダニエル殿下を推さないで下さい。

 そしてダニエル殿下、アルバート殿下の真似をしないで下さい。


「ぼ、僕とけけけ結婚してくだひゃい!」


 えらい! よく頑張ったグレン!

 でも『ひゃい』って何よ『ひゃい』って? 姉さんとの特訓は何だったの!?


 陽光あたたかな中庭のベンチ。

 あまりの求婚にため息をつく私の隣、メアリーはベンチから立ち上がり三人に深く頭を下げた。


「申し訳ございません。お断りします」


 メアリー、三人の求婚? を断る。

 まあ今の求婚では当然ですわねと私は思っていたのだが、頭を上げたメアリーは何とも微妙な微笑みを浮かべてその理由を告げた。


「正直に申しますと……皆様には飽きました」

「わかる!」


 思わず叫ぶ私。


「百回まではときめきましたが億万も結ばれるともはや作業。何の感動もときめきもありません」

「すごくわかる!」

「私は夢と違う人生を送りたいのです。そして……ステキな恋をしたいのです」

「ものすごくよくわかる!」


 メアリー、その気持ち心の底からよく分かります!


 婚約破棄やら断罪やら滅亡やらを延々繰り返した私もまったく同意見だ。

 生まれ変わっても君を愛するという口説き文句があるが、メアリーの言う通り、百回くらいが限界だろう。

 それ以上やったら作業。嫌になったら地獄だ。


「そういえば、エレノア様は王家との婚約がお決まりだそうですね」

「正しくは聖女が選ばなかった方との婚約が決まっています」

「……王家って、えげつないですね」

「王家も貴族もそんなものです」


 そう。私は貴族ですからメアリーのようには生きられません。

 結婚は権力を安定させる為の手段であり、責任なのですから……


 と、私が心で呟いているとメアリーが聞いてきた。


「エレノア様は、お嫌なのですか?」

「メアリーと同じく何の感動もありません……ですが、私は貴族ですから」

「……精霊さんの誰かが言ってました。『権力と責任はセットだ』と」

「その通りですよ、メアリー」


 権力を振るうなら結果の責任も取らねばならない。

 王家、貴族、そして平民。

 それぞれに違う権力があり、違う責任がある。

 私は貴族。責任の中には当然結婚も入っている。

 その責任を背負って生きねば周囲が困るのだ。


「なら、権力を領民に譲っていけば責任も減っていくのではないでしょうか?」

「……あ!」


 しかし私のそんな思いは、メアリーの言葉で打ち砕かれた。


「精霊さんの世界では王家や貴族が平民に権力を譲って象徴となった結果、責任からも開放されたそうです。結婚相手も自由に選べるそうですよ」

「自由に!」

「まあ、自由すぎて国民から幻滅される結婚もあるとも聞きましたが……」

「すごい!」


 権力を譲れば責任も減る。当たり前の話だ。

 権力の譲渡は責任からの開放でもあるのだ。


 なるほど。

 ならば私も侯爵令嬢だからと諦める事はないのですね……


「アルバート殿下、ダニエル殿下」

「「な、何だ?」」


 私はにっこり微笑むと、両殿下に言った。


「国王陛下にお伝え下さい。私エレノア・バルディールは王家との残りもの婚約を破棄させていただきます」

「「ええーっ!」」


 両殿下、私の婚約破棄に悲鳴。


「私もあなた方と婚約する事はありません。お互い人生を楽しみましょう」

「「「ありがとうごさいます!」」」

「……ありがとうございます?」

「「「しまった! 嬉しさのあまり本音が!」」」

「はあ?」


 そして両殿下とグレン、メアリーの婚約拒否に土下座感謝。

 そんな三人を尻目に私とメアリーは歩き出す。


「ステキな恋をしてみたいですねメアリー」

「はい。まずはステキな出会いですねエレノア様」

「待てエレノア!」

「そして聖女! お前を野放しにはできん!」

「領地での仕事はどうするのさ、姉さん!」

「これまで通り貴族として仕事はいたします。しかしそれと恋は別。両殿下もグレンも私や聖女に縛られる事はありません。お好きに恋をなさいませ」

「別に好き勝手に生きようという訳ではありません。私とエレノア様はただ、ステキな恋がしたいだけなのです」

「しかしだなエレノア!」

「話はまだ終わってないぞ!」

「姉さん! 待って姉さん!」


 なおも食い下がる三人に、私とメアリーが言う。


「……私とメアリーの恋に、何か問題が?」

「というか、私達を止められるとでもお思いで?」

「「「うわぁ!」」」


 聖女と悪役令嬢。

 王国の双璧が手を組んだのだ。誰も止められる者はいない。


「まずはメアリーと同じ夢の中心なのに伴侶を射止めた先輩を訪ねてみましょう」

「私達を恐れない方を見つける秘訣を聞きに行くのですね」


 侯爵令嬢でも悪役令嬢でもない。そして聖女でもない。

 これがエレノア・バルディールとメアリー・スーのはじまりだ。




 が、しかし……




 私とメアリーは自分の恋のハードルがやたらと高い事に、訪ねた先で思い知らされるのである。


「え? 私の夫が本気を出したら私もこてんぱんですよ?」

「「アメリカン!」」


 デタラメの夫、それ以上のデタラメ。

 恋の秘訣を聞こうと訪ねた光の黒騎士のぶっちゃけに、私とメアリーは頭を抱えてアメリカンを叫ぶのであった。



(了)

お読みくださりありがとうございました。

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光の黒騎士は『輝け! 黒の十四軍』に登場するヒロインです。

よろしければこちらもどうぞ。

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[一言] 思いきりアメリカンなお話でございました 二人が気ままな風のように自由でありますように 恋愛はまぁ そのうちなんとかなるだろう
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