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2.さあ、真の聖女ならば私を倒してごらんなさい!

「うわぁ……すごいですね、姉さん」

「夢でさんざん見ましたが、本当に豪華ですね」


 ラストリンテ王国、宮廷。

 さすがは権力の頂点。夢でも豪華だと思ったが、実物も夢とそっくり同じく豪華絢爛。


「没落で貧しい暮らしに堕ちた私達には、眩しすぎますね」

「はい」


 夢で没落を経験してから侯爵家の屋敷も豪華だと思っている私とグレンに宮廷は豪華すぎて目が痛い。

 そして窓から外を見れば足場が組まれ、何かを建築しているのが見える。


「父上、あれは?」

「紅玉竜の攻撃に備えた防壁の建築だ」

「お父様、あれは?」

「魔法による防御設備の建築だ。将来有望な魔法使いが大量に現れたからな」

「将来有望な魔法使い?」

「聖女の事だ」


 宮廷、夢のおかげで建築ラッシュ。

 これ以上豪華にするつもりなのかと驚く私にお父様が言う。


「今はどの貴族も屋敷や領地の防衛に力を入れている。何もしていないのは我が侯爵家くらいだろうな」

「なぜ、なさらないのですか?」

「そんな事より没落から逃れる手段を見つける方が先だろう? 今は力を蓄えておかねばならん」


 何をしても没落するバルディール侯爵家は屋敷や領地を強くする前にするべき事がある。


 さすがお父様、ごもっともです……


 お父様の答えに感心しながら私は広い宮廷を歩き、実技試験会場の庭園に出る。

 庭園には聖女クイズを通過した数十名の聖女候補と、二人の子供が待っていた。


「来たな! 悪役令嬢!」

「お前が悪役令嬢か!」


 腕を組み、偉そうにふんぞり返るいけ好かない子供が二人。

 初対面だが二人には夢の面影がある。

 夢の中では婚約破棄と断罪されまくりの顔なじみに、私は優雅に礼をした。


「お初にお目にかかります。五割げふん三割げふんげふんアルバート殿下、ダニエル殿下」

「五割?」「三割?」

「いえ、こっちの事です」


 申し訳ございません。ついつい心の声が出てしまいました。


 私はにこやかに笑って失言をごまかすと、自己紹介を続けた。


「エレノア・バルディールでございます」

「お、お初にお目にかかります。弟のグレン・バルディールです」


 お父様の後ろにいたグレンが慌てて私の横に立ち、私に続いて礼をする。

 アルバート・ラステリント第一王子殿下は私と同じ五歳。

 ダニエル・ラステリント第二王子殿下はグレンと同じ四歳

 さすがは王国の頂点たる王家の殿下。私達が頭を下げた今でも偉そうにふんぞり返っている。

 夢での印象の悪さが影響しているのだろう。私と侯爵家に敵意マンマン。

 こんな調子では、さぞお父様は大変だった事だろう。

 私とグレンに続き頭を下げたお父様の気苦労をひしひしと感じつつ、私は頭を上げて両殿下の背後の者達を見た。


 やはり、夢で私の取り巻きだった面影のある者ばかりですわね……


 私は小さく頷き、両殿下に聞く。


「このたびは聖女選定の実技予選にお招き頂きありがとうございます。そちらの方々が聖女と名乗り出た方々ですか?」

「その通り」

「俺と兄上が作った第一回聖女問答試験をクリアした者達だ」

「第一回?」


 私が首を傾げると、二人は自慢げに答えた。


「今回で見つかるとは限らないからな。見つからなければ内容を改め、第二回、第三回と続けていく」

「そして勝者が前回勝者と対決し、最終的に残った者を真の聖女とするのだ」


 バトルロイヤルのチャンピオン聖女を、これまでのチャンピオン聖女と対決させてグランドチャンピオン聖女を聖女とする……らしい。

 今回の第一回聖女試験も実は予選という訳だ。

 まあ、聖女は紅玉竜を倒す程の力を持つ。

 しっかり勝ち抜いていく事だろう……本物の聖女が名乗り出ていれば。

 だが、しかし……私は二人に聞いてみた。


「それで、平民の方はクリアなさいましたか?」

「……いや」

「この中には、いない」


 やはり貴族は貴族、平民は平民……そう考えるのが自然ですわね。


 私は聖女候補を見渡し、そう思う。

 聖女と二人の王子との問答など盗み聞きしていればある程度わかるもの。

 カンニング可能なザルクイズ。

 あの夢に出て来た貴族の生徒ならば、盗み聞きなど誰でも出来る事だ。

 それに平民である聖女が実は貴族であるならば、貴族の生徒が実は平民の可能性だってあるだろう。

 しかし、平民は全てテストで失格。

 誰一人として通らなかった。

 数の上では圧倒的多数の平民が誰一人として貴族の生徒にならないのに、圧倒的少数の貴族が平民の聖女になる可能性は極めて低い。

 アルバート殿下もダニエル殿下もそのあたりは分かっているのだろう。歯切れ悪く答えた後、私とグレンに言い放つ。


「だからお前達、悪役令嬢侯爵家の出番という訳だ!」

「悪役令嬢に負ける程度では聖女ではないからな!」


 そして言い放った後、両殿下もお父様と同じく首を傾げて聞いてきた。


「ところでお前、なんで悪『役』なんだ?」

「『悪魔侯爵令嬢』とかじゃないのか?」

「……後ろの聖女達に聞いてみてはいかがでしょうか?」

「知らない俺達が聞いても正解がわからないではないか!」

「そうだそうだ!」


 両殿下とも、知らないなら偉そうに使わないで下さい……


 アホな会話にめまいを覚えながら、私は聖女達の前に立つ。


「この聖女試験、失格者の扱いはどのようになさるおつもりですか?」

「王立魔法学園で魔法の訓練を受けさせた後、王国魔法軍に招集される」

「聖女として名乗り出た者達は大人顔負けの強い魔力を持つ者達だ。聖女には及ばずとも王国の役に立つだろう。父上、いや陛下の許可も取ってある」


 なにしろ相手は夢。

 ウソであっても私は聖女の夢を見たのですと主張されれば他人には判断のしようがない。見た夢で相手を罰するのはムリなのだ。

 そのあたりは陛下も両殿下も承知しているらしい。

 この試験は聖女探しと魔法軍スカウトがセット。

 聖女と認められても認められなくとも一定の魔力があれば将来安泰だ。


 陛下、匙を投げた訳ではなかったのですね……


 と、感心する私に両殿下は話を続ける。


「それにこの力、夢と関係しているらしいからな」

「夢に出ている者は皆、力が備わるものらしい。聖女試験にはそういった者達を魔法軍に勧誘する目的もあるのだ。そんな者達を王国が知らぬのは損失だからな」

「つまり、罰する事は無いのですね」

「当たり前だ。国を富ませるチャンスなのだぞ」

「だから安心してこてんぱんにされてこい!」

「……それを聞いて安心しました」


 こてんぱんにされろ、とは言いますねダニエル殿下。

 では、思う存分バルディール侯爵家の存在を知らしめてさしあげましょう……


 私は構え、彼女達に言い放った。


「さあ、真の聖女ならば私を倒してごらんなさい!」


 まあ、皆さん聖女ではないでしょうが……


 私はこの中に聖女がいるとは思っていない。

 聖女は学園唯一の平民。

 貴族達はそれも他の要素と同じく本当とは限らないと言い張っているが、私はそう思わない。

 もし聖女が貴族ならば、真っ先に名乗り出ていると思うからだ。

 聖女であればどんな下級貴族でも一気に王国の頂点。

 紅玉竜が存在する限り地位は守られ、夢と同じように紅玉竜を討伐すれば権力も崇拝も思うがまま。

 よほどの事が無ければ変わらない貴族の序列を変える事が出来るのだ。

 貴族であればこんな超絶大チャンスを決して逃しはしない。

 平民でもこんな大チャンスは逃さないかもしれないが、数えるのも面倒臭いほど没落と断罪と滅亡を繰り返した私の印象では違う。


 聖女が勝ち取ったものは、目の前の聖女達が求めるものとは似て非なるもの。

 ゆえに私は悪役令嬢であり、夢の中心たる聖女が輝くのです……


 そう、うわべは同じでも意味が違うのだ。


「私が恐ろしければ、皆でかかってきても構いませんよ?」


 実技予選とはいえ私は侯爵令嬢。聖女候補達より序列は上だ。

 腰を落として構える私に聖女達はしばらく戸惑っていたが、やがて口々に叫ぶ。



「「「トランザム!」」」



「トランザム? そんな魔法があったか?」


 首を傾げるお父様に、私が答える。


「夢の中で聖女が編み出し名付けた魔法です。速さ、力、技、魔法などが一時的に三倍になるそうです」


 聖女はパクリとかリスペクトとか呟いていましたが……


 私の目の前で聖女達が輝き始める。

 あの輝きが続く限り聖女達の能力三倍。なかなかのデタラメだ。


「つまり能力全強化か……ところでエレノア、トランザムって何だ?」

「聖女いわくトランスアメリカンの略、だそうですよ?」

「またアメリカンか! いったいどういう意味なんだアメリカーン!?」

「さぁ?」


 聖女クイズを通過したそこらの貴族聖女達に聞いて下さい。


「言い忘れたがこの力、夢の中心に近い者ほど強くなるものらしいぞ!」

「本当にヤバくなったら俺達が助けてやるからな!」


 知っています。グレンと確認しましたから。


 両殿下の言葉は合図なのか、輝く聖女達が私に向かい突進してきた。

 私は五歳、聖女達も五歳くらい。

 それが互いに大人顔負けの魔法を使っての殴り合い。

 子供のケンカなのに超危ない。

 しかし聖女達は手加減などしないだろう。

 長年変わらない王国内の序列を変える下級貴族の大チャンスなのだから。


「「「悪役令嬢エレノア、覚悟ーっ!」」」

「……甘いですわね」


 だがしかし、しょせんは聖女のフリをした取り巻き連中。

 その程度の者達が三倍力でも聖女と対峙し続ける悪役令嬢に敵うわけなし。

 私は静かに念じた。


 分身、高速、瞬間移動、そして……手刀!


 瞬時に分身した私は殴りかかってくる全ての聖女の背後をとり、無防備な首筋に手刀を叩き込む。


 べべべべべべべちこーんっ!


「「「あいたっ!」」」


 輝きを失った聖女達が庭園に倒れ込む。

 皆こてんぱん。

 勝負ありだ。

 私は構えを解き、あっけにとられたアルバート殿下とダニエル殿下に微笑んだ。


「第一回聖女試験は、全員予選落ちですね」

「見たか、娘の実力を!」

「さすがです姉さん!」


 私の勝利にお父様とグレン、大喝采。

 そして両殿下、唖然。


「あ、悪役令嬢なのに俺達よりずっと強い!」

「なんでそんなに強いんだよ!」

「夢の中心に近いほど力が強いと、両殿下もおっしゃっていたではありませんか」

「「デタラメだーっ!」」


 当たり前です。

 私は全ての夢で夢の中心たる聖女に最初から最後まで付きまとうのです。

 言うなれば十割悪役令嬢。

 結ばれても五割三割、結ばれなければ他人の両殿下とは違うのです。


「これで夢を理由に排除する者達も黙るに違いない! よくやったエレノア!」

「すごいです姉さん!」

「それではアルバート殿下、ダニエル殿下。次の聖女試験でお会いしましょう」


 バルディール侯爵家、宮廷を堂々と退場す。

 そして次の日、お父様の宮廷再就職が決定した。


「大臣の職に復帰した」

「おめでとうございます。あなた!」

「おめでとうございます。お父様」

「おめでとうございます。父上」

「ありがとう。これもエレノアや皆の努力のおかげだ」


 侯爵家の宮廷無職、終了。

 宮廷唯一の味方であった陛下も『デベソ復権!』と、お喜びらしい。

 お父様の再就職は当然であり必然。

 第一回聖女試験で誰も私を止められない事が分かったからだ。

 貴族達はてのひらクルン。排除モードからおべっかモードへと突入し、今や侯爵家は飛ぶ鳥を落とす勢いだ。


「しかし……だ。我らが没落する夢は今も変わっていない。くれぐれも増長しないように」

「「「はい」」」


 しかし侯爵家はこれまで通り。

 まだ本物の聖女が現れていないし、没落から逃れる方法もわからないからだ。

 今、どのような権力を得たとしても聖女が敵に回れば一発逆転。

 そうでなくとも何がきっかけで没落するかわからない。

 夢を見る前と同じ振る舞いを心がけようと決めた侯爵家だ。


「特にエレノア、宮廷では『侯爵家の悪魔』とか『バルディールのデタラメ令嬢』とかさんざんな陰口をたたかれているからな。くれぐれも妙な事はするなよ?」

「……誰ですか、私をそんな風に呼んでいるのは?」

「アルバート殿下とダニエル殿下だ。お前に勝てないのが悔しいらしいぞ」

「次の聖女試験で釘を刺しておきますわ」

「本当に釘を刺すなよ? くれぐれも穏便にな?」

「……」


 お父様、私を何だと思っているのですか……


 と、思う私だがお父様の心配も無理はない。

 毎日何万もの夢で経験を積んでいるとはいえ、私はまだ五歳だからだ。

 ちなみに今のラステリント王国のパワー序列は、こうだ。

 まず夢の中心である聖女。

 次に最初から最後まで聖女と対立する私。

 次に聖女と結ばれる五割殿下、三割殿下、二割のグレン。

 次に私の取り巻き連中、その他学生。

 最後がお父様のような学園外の王国貴族や王国民。

 怪物の領域から出てこない紅玉竜ルビーレッドはよくわからないが、聖女がいない今は私が王国の頂点。しかもぶっちぎりだ。

 五歳の子供が王国暫定チャンピオン。

 誰もが心配になろうってものである。


「心配ありません。もう子供ではありませんから」

「ああっ、娘が夢のせいであっという間に大人に!」

「二人の子供時代は夢と共に去ってしまったのですね。お母さん悲しい!」

「だがエレノアもグレンも愛する我が子に変わりはない。さあ父の胸に飛び込んでおいで!」

「お母さんの胸でもいいですよ。さあいらっしゃい!」

「お父様、お母様……恥ずかしいです」

「ぼ、僕も……」

「「がぁん!」」


 すみませんお父様、お母様。

 子供はいつか巣立つもの。いつまでも子供ではいられないのです。

 まあ、ちょっと早過ぎるとは思いますが。


 そんな調子で聖女候補をぶちのめしたり、没落から侯爵家を救おうとしたり、夢で聖女にケンカを売ったりグレンに口説かせたり真面目に高等魔法教育を受けたり魔法文献を研究する事一ヶ月。

 新たな事実が発覚した。


「聖女の言葉は独り言ではなく『精霊さん』との会話という事がわかりました」

「精霊さん?」

「はい。聖女はそのように呼んでいます」


 私とグレンの言葉に首を傾げるお父様。


「精霊とは、万象に宿る精霊の事かグレン?」

「はい。時々隠れて会話している姿を目撃しています。聖女を抱き寄せても姿も見えず声も聞こえないのでおそらく聖女にしか見えない精霊なのではないかと」

「抱き寄せる……か。大人になったなぁグレン……四歳なのに」

「夢では立派な男の子だものね……お母さん、寂しいわ」


 お父様とお母様がしんみりとグレンを見る。

 グレンは顔を真っ赤にして話を続けた。


「そ、それはとにかく……この精霊さん、僕達の知らない精霊のようです」

「我らの知らぬ特殊な精霊か。話には聞いた事はあるがさすがは聖女。紅玉竜を倒すだけの事はある」

「それでグレン、何の精霊なの?」

「それが……ゲームだと」

「「ゲーム?」」


 グレンの言葉にお父様とお母様が素っ頓狂な声を上げる。

 そう、精霊さんはゲームの精霊。

 それも聞いた事も無いゲームの精霊だ。


「ゲーム? カードやサイコロや盤と駒を使って遊ぶゲームの事か?」

「そんな精霊、聞いた事もありませんわ」

「いえ、駒取りとかカードといったものではなく、ええと……VRドリームインターフェース……でしたっけ、グレン?」

「聖女はVRドリームインターフェース『エクソダス』だと」

「「VR?」」


 お父様とお母様がまた素っ頓狂な声を上げる。


「そしてあの夢は精霊さんが王国をゲームにして遊んでいるものだ、と」

「聖女は恋愛育成ゲームと言ってました」

「「恋愛育成ゲーム?」」


 お父様とお母様がまたまた以下略。

 私とグレンの言葉を聞いたお父様が、今日も頭を抱えた。


「ぬぅおおおVR! そして恋愛育成ゲーム! また謎の言葉が!」

「ちなみにお父様、アメリカンは今も謎です」

「アメリカーン!」


 頭を抱えたままお父様が叫ぶ。


 お父様、アメリカン好きですね。


 しかしお父様、さすがは侯爵家の当主。

 いつまでも頭を抱えたままではない。落ち着け、落ち着けと呟きながら頭を腕から解放した。


「……頭を抱えていてもはじまらん。我らの知るゲームにたとえてみよう」

「あなた、物語にたとえた方がわかりやすいかもしれませんわ」


 そんなお父様にお母様がアイデアを出してくる。


「物語? 精霊さんはゲームと言っているのだぞ?」

「夢ですから盤上の駒取りやカードよりも物語にたとえた方が分かりやすいではありませんか。『この作者、なぜ主人公にこんな選択させたのかしら?』と思う時がありませんか?」

「あー、物語を読んだ後に『俺だったら幼馴染みより大富豪の娘を選ぶのに』と別の展開を夢想してしまうようなものか。なるほど、それなら物語だな」


 お母様、ナイスです。

 お父様はふむと腕を組み考え、呟いた。


「つまり精霊さんは、我らが見る夢を物語にして読み、楽しんでいる……と」

「枝葉がたくさんある物語を、ですわね」

「だから夢の始まりは同じで途中から変わっていくのか」

「ゲームですから、精霊さんが聖女に枝葉を選ばせる事で物語の道が決まっていくという訳ですね」

「それだけではないだろう。育成なのだから聖女をはじめとした皆の能力や関係により枝葉はさらに増えていくのではないか? 聖女が両殿下やグレンと結ばれても必ず紅玉竜に勝てる訳ではないからな」


 さすが広い侯爵領を統治するお父様とお母様、理解も早い。

 私とグレンは聞いているだけで話が進んでいく。

 お父様とお母様が会話しながら状況を整理することしばらく、二人は頷き私とグレンに聞いてきた。


「なるほど。だいたいの事は理解した」

「ですがまだわからない事がありますわ。エレノアにグレン、一度にたくさんの夢を見るのはなぜかしら?」


 お母様の問いに私とグレンが答えた。


「精霊さんがたくさんいるのではないでしょうか?」

「僕もそうだと思います。聖女は『この精霊さん』とか『あの精霊さん』とか呟いていましたので」

「つまり我々は毎夜何万もの精霊さんに夢で使役され、遊ばれているという訳か」

「夢とはいえ王国全てを使役する精霊が存在するなんて驚きですわ」

「我らが使役する精霊とは比べものにならない強大な力を持っているのだろう」

「恐ろしい事ですわ」


 王国、精霊さんズに遊ばれる。


 妙な精霊に目を付けられたものですね……


 と、私が思っているとお父様がニヤリと笑う。


「確かに恐ろしい……しかし、使役には対価が必要だ」


 誰かに何かをしてもらうには対価が必要。

 それは人も精霊も変わらない。


「使役する内容や規模が大きければ対価も大きくなるもの。これまで夢の中心たる聖女に近いほど魔力が強くなるのはなぜだと不思議に思っていたが、精霊さんの使役の対価と思えば納得」

「そうですわねあなた。ならばする事は一つですわ」

「だな」


 フッフッフ……

 お父様とお母様はいやらしい笑みを浮かべると、言った。


「エレノア」

「はい」

「お前、夢で聖女にちょっかいを出しまくれ」

「これまで以上につきまとい、精霊さんからガンガン対価を頂くのです。大切な夢の時間を差し出しているのですから遠慮はいりませんよ」

「は、はい……」


 得だと分かればとことんやる。

 さすが貴族、えげつない。


「そしてグレン。お前は聖女を口説きまくれ」

「え? アルバート殿下とダニエル殿下は?」

「夢の無礼など気にするな。夢だから仕方ありませんとでも言っておけば良い」

「で、ですが……」

「うちの可愛いエレノアを『侯爵家の悪魔』とか『バルディールのデタラメ令嬢』とか呼ぶ奴らに、我が侯爵家がなぜ夢で遠慮せねばならんのだ!」

「そうですよグレン。レディへの失礼を正すのが良い男というものです」


 お父様もお母様もイケイケ。

 あまりのイケイケっぷりに不安になる私とグレンだ。


「あの……お父様、没落するかもしれないから増長するなと、以前おっしゃっていませんでしたか?」

「そうですよ父上。何が没落の原因になるかわからないではありませんか」

「エレノア、グレン……夢などままならぬものだ」

「は、はあ……」

「精霊さんが私達を使役する夢ならなおさらです。そうでしょう二人とも?」

「そ、それはそうですね……」


 どれだけ回避しようとしても没落したり断罪されたりするのだから、ままならないのは本当だ。

 私とグレンの答えを聞き、お父様とお母様が口を揃えて言った。


「「なら、仕方がない!」」

「「ええーっ!」」

「道化だ! 恥を捨てて精霊さんの道化となるのだ! 他の貴族に後れを取るでないぞエレノア、そしてグレン!」

「物語に重要なのは読み手が納得する流れ、そして読み手を置いてけぼりにしない程度の意外性とインパクト! ウザいと思われない引き際も大切です。わかりましたね二人とも!」

「「うわぁ!」」


 建国より王国を支えるバルディール侯爵家、やっぱり貴族。

 面の皮の厚さ半端無い。

 しれっと子供を聖女に出してくる貴族達と同レベルだ。

 この夢、大筋は変わらないが細部はちょこちょこ変えられる。

 私は悪役令嬢、そしてグレンは結ばれる存在。

 特別な立場を最大限に利用して、私もグレンも聖女にとことんつきまとう。


「おい悪役令嬢! お前ちょっかい出し過ぎだ!」

「ゆめだからしかたありませーん(棒)」

「そしてグレン! お前口説き過ぎだ!」

「もうしわけありませーん(棒)」


 私もグレンも貴族の子供。

 五割殿下と三割殿下の苦情も夢だから仕方無いと全力スルー。

 まさにやったもん勝ちだ。


 そんなこんなで、おかしな夢を見始めて一年後……

 夢はいきなり終了した

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