009話『とりあえず、剣?』
「タブラさんこれは、何の肉なんでしょうか?」
とりあえず、昨晩もこの言葉は何度言ったことか。うさぎの親戚だとわかっていても、アルミラージを食べる機会なんてなかったし、皆は慣れていても僕の胃がびっくりしちゃうかもしれない。
今回は魚みたいだけど、弾力がある歯ごたえ。こんな魚食べたことない。
「食べて毒になるものは入っていないよ」
としか答えてくれないと逆に不安は募る。何を食べてるんだろう僕は……かと言ってお腹を壊すわけでもなく、むしろ体の調子がいいとさえ思える今朝だった。
「君のいた時代では知らないが、食べ物にも魔素は含まれていて、体にゆっくりと吸収されるから、だんだんと馴染む筈だよ」とのこと。
「ねぇねぇ、トキ君はどんなハンターになるの?」
そうそう、昨晩色々聞いて勉強したんだけど、ハンターというのはストレンジャーの分野で、モンスターや悪魔と戦う職業らしく、その種類も多様だという。
剣が得意なものは剣の腕を磨き、魔法が得意なものは魔法の腕を磨くのが基本だそうだ。
魔法使いと剣士では装備が違うから、まずは何が得意なハンターになるかを決めておかなければならないのだ。
「僕は非力だし、剣士とか前衛は難しいかな」
モンスターとガチンコで戦うのが怖いってのもあるが、剣は鍛練で強くなっていくイメージがある。なんの素養もないなら選択肢にならないと思うんだが。
「そんなことはないぞ。君は体に魔素を蓄え始めている。それは身体能力の底上げや、剣技の習得も早い筈だ」
「どういう仕組みなんですか?」
「説明するのは難しいが、こう考えると良い。
魔素は血のように体を巡っているものなのだが、剣を振る時に筋肉を伸び縮みさせるように、魔素の流れを覚えさせる事でより早く動きを習得できるんだ」
この世界の概念らしい、だんだんと慣れていかないと。
「魔法を使ってみたいと思うんですが」
「魔法なら使ってるじゃないか、ライターとか」
「いやそんなんじゃなくて、もっと派手なやつ!」
そう僕がいた時代でも、剣を持つことはなかったが、魔法を使うなんて、概念からありえない話だ!
どれにするって聞かれたら魔法使い一択だろう。
「派手な魔法は習得も大変だが、何より馬鹿みたいに金がかかるぞ?」
そう、馬鹿みたいにお金がかかるんだった。
まだ魔法のイメージが切り替わってない……
この時代では毎回出鼻をくじかれる。
ラスティも身を乗り出して
「それに、ハンターパーティーで一番死亡率が高いの、魔法使いだよ」
「えっ、まじですか?」
一番後方で安全そうなんだけど……
「魔法使いの魔法が決まれば、戦局をひっくり返せる威力がある。だったら先に潰したいと思うのは当然だろう?」
それもそうか、防具も薄そうだしなぁ。
「ところで、二人のジョブは何なんですか?」
「私は拳闘士かな、パンチとキックで戦うんだよ」
ラスティは答えながら、目に見えないほどの速さでパンチやキックを繰り出した。口で言わなくても「シュッ」と風切り音がする。
「私は魔法剣士になるのかな、職業を決めるとそれしか使えないというわけではないからね、ただの記号みたいなもんだよ」
食事を終えたタブラは、たばこを燻らせながら、答える。
「魔法の剣士って選択肢もあるんですね」
「ラスティと旅をするまでは、一人で世界を巡っていたからね。その代わり他の者より成長が遅くて、パーティーだと置いていかれる事もある。一人で戦うのじゃなければ、何かに絞った方が効率的だぞ」
うへぇ、尚更悩みそうだ……
「悩むなら剣でも持てばいいんだよ、レベルの低い敵倒しながら考えれば大丈夫!」
「とりあえず、剣と防具でも買いに行くか」
立ち上がるタブラに、ラスティもピョンと跳ねてついていく。
「ちょっ、ちょっと待ってください」
もう少し考えたかったけど、習うより慣れろって事かもしれない。どうせ槍でも剣でも弓でも、一度も持ったことがないんだ。なんでも同じだったら、とりあえず剣が分かりやすいかもしれないな。
――町を歩くと、朝も早くから露店は賑わっている。
ギルドへ向かったときは、馬車に乗っていてよく見れなかったのだけど、食べ物も果物から魚までなんでもありそうだ。それ以外にも、アクセサリーや花などの贅沢品も売っている。この町の人たちの余裕が見てとれる。
「お兄ちゃん! 鵺の尻尾の串焼きが売ってるよ!」
「騙されてはいけないぞ、あれはただの蛇の姿焼きだ」
「でも、看板にはそう書いてあるけど……」
蛇も大概だが、鵺の尻尾なんてものこの世界でもゲテモノではないのだろうか?
「あれは鵺の尻尾という店で、売ってるのは普通の蛇だ。文字がろくに読めない客を呼び込んで勘違いさせてるんだよ」
「文字が読めない方はどうしてるんてすか?」
そんな俺もまだ読めないのだけども。
「お、そうだったね。羽飾りを貸してくれないか」
「はい、いいですよ」
そういって、肩に付けていた羽根飾りをタブラに渡した。
「羽根の付け根の飾りに、レンズのようなものが付いているだろ? それを通すと魔力で翻訳してくれるよ」
確かに、留め具をよく見ると爪を引っ掻ける場所があって、そこから虫眼鏡みたいなものが現れた。
「これで覗いてごらん」といって渡される。
どんなもんだろうとレンズをかざすと、今まで記号にしか見えなかった文字が、はっきりと読めるようになっている。こりゃ便利だ!
俺たちは露店を眺めながら、ゆっくりと目的地へと足を運んだ。
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