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078話『馴染む』

 当然の事だが、エレベーターが開通して施設は随分便利になった。


 いままで上がり下りが大変だという理由で、最下層も半分倉庫代わりに使われていたのだが、宿泊施設の上の方を倉庫に使えるようになった。


 一週間程経つ間に、最下層を含む施設の再調査に参加させて貰った。


 俺には以前同種の遺跡を探索した経験があるということで徴用されたようだ。もちろん裏にスルジの口利きがあったのは言うまでもない。


 この施設が「シェルター」としての役割を果たす重要な機械に関していくつかの欠損があったので、それを伝えていく。


 まずは水道機能。

 これは近くの水源から水を引き込み、濾過して使用していたようなのだが。濾紙が詰まって使えたものではなかった。

 しかし、水源の水は畑に撒く、体を洗うくらいは問題ない。ポンプさえ利用できるならかなり楽に仕事が進むだろう。

 飲み水に関してだが、今は魔法の時代だ「ピュアウォーター」ですぐ飲み水に変えられる。


 換気、排煙機能については、

 大神災の際に空気の出入口が泥で埋まってしまい、地上から見つけるのは困難になっていた。

 これに関しては出来るだけ中で炎は使わない事を提言し、空気の精霊に常に酸素量等を見張って貰えるようにした。


 他には大きな機構は無かったのだがーー


「ここが制御室」


 何を思ったか、この施設の心臓部にまで俺を招き入れた。

 青いローブを着た老人は、笑顔で「さぁ、見てくれ」と。ここがどれだけ大事な場所なのかは分かっているのだろうが、古代の機構等触れたこともない人間達ばかりでは、持て余していたというのが本音なのだろう。


「ここの機構は教主様がいらっしゃった時から触っておりませんぞ」


 新人研修の時に、階級を説明してくれた老人が、笑いながらこちらの顔色を覗いてくる。


「これは雷を生成する機構です」

 どや顔で説明を始めたものの、正直困っている。


 ガソリン等の化石燃料はすぐに枯渇し、シェルターとして何年もここで暮らすには不向きだ。

 だったらどうやって電気を賄っていたんだろう。


「僕もこんな古代機構が動いているのを初めて見るから、どうやれば動くのか分からないよ」

 スルジもお手上げのようだ。


 可能性があるとすれば、バイオマス燃料とかだろうが。数百年供給がなければ動いてはいないだろう。


 新規の燃料が供給されないまま動いているとすれば、機構に関わる大事な部分にヒントはあるのだろう。


 コイル、磁石、タービン……機構は揃っている。

 足りないのは「動力」だ。

 燃料で燃やしてタービンを回す。

 水車で回転を起こて磁石を回す……


 そうか、回しさえすればいいのか。


 小さな竜巻を、タービンの回りに発生させ続ければこの発電機は動き続ける。


「私は魔法に明るくないのですが」

 そう枕を置いて、疑問を投げ掛ける。


「本人が居ないのに、精霊がここに留まり、魔法を行使し続けるというのは可能なのですか?」


 青いローブの老人は首をかしげたが、スルジは当たり前のように答えを教えてくれた。


「魔法に精通しているだけでなくて、数体の精霊達と深い絆を作らないと出来ない技だけど」

 今度はそう枕を置いてきた。

 彼よりもひとつ上の階級であるサスナーの老人に対して、ワンクッション置きたいという意図もあったのだろう。


「魔法を行使後、その魔法の効果の間、もしくは指定した魔力媒体が残っている間、一旦守護からはずしても、魔法を行使し続ける事ができるんだ」


 普通の人は、一匹の守護を鍛えることが多い世界で、力の有る精霊を何体も使役する事は殆ど無い。

 知らなくても当然だという事なのだろう。


「確か、新しい守護に付いて貰うには1時間くらい掛かるけど、外すのはすぐに出来るって……」


「おお。教主様。大事な精霊をわたくし達の為に!」

 老人は感極まるかのごとく崩れ落ちた。


「チャップマン様は大袈裟でございますな」

 スルジはそう言うと。

「ここにユニコーンの角があるんだ、もうあまり残っていないので分からないかもしれないが」


 確かに、大きめの魔法袋が機械に引っ掻けてある。

 触ると中に円柱状の固いものが入っていた。


「これであと、どのくらい持ちますか?」


 その問いに、スルジは顎に手を当てて「そうだねぇ」と少し考える。

「今三ヶ月半くらい経っているから、あと一ヶ月半くらいかな」


 ここに居るものは、この機構を扱うことも出来ないし、なぜ動いているかの理由も分からないものばかりだ。

 つまり、再びこの施設を訪れるということだ、必ず本人が。


 それまでに、教主にどれだけ接近出来るかが鍵になる。

 場合によっては暗殺。頭がすげ変われば、体制も変わる。スルジ辺りが頭になるなら、この教団は敵として認識しなくて良くなるだろう。


 しかし、以前赤ローブではお目通りすら叶わないと、シャマルがぼやいていた。


 エレベーターの功績で、取り敢えず赤のローブをいただいている。最低でも黄色、あと一歩だ。


 方法はあるが……さて。どうやるか?


 出来るだけ悪い顔をしないように考えながら、視察を終えた。




ーー

「おう、どうだった」

 スルジの部屋に戻ると当たり前のようにパイルがお茶を飲みながら待っていた。


「とても、有意義な視察だったよ。やはり知識がある人間が一人いるだけで、意味合いは変わってくるね」


「俺のストレンジャー時代の経験が役に立って良かったですよ」


 ランク4のストレンジャーともなれば、もういっぱしの冒険者だ。地位や名声とまでは行かなくても、社会的信用も大きいし、直接の依頼まで来る有名っぷりだ。

 といっても、ランク4になったばかりでこんなところに閉じ込められている俺は、そんな良い思いをしてはいないんだが。


「前に行ったときは、がらくたばっかり見せられて、しかも動くかどうかもわかんねーとか言いやがって、時間の無駄も甚だしかったぜ」


 椅子が二本足になるようにもたれ掛かって、ゆらゆらさせている。待つのも退屈だっただろうが、前回視察に行った時に馬鹿馬鹿しくなったのか、今回の視察には同行しないと、パイルはお留守番を申し出ていたのだ。


「ふふふ、今回は発見もあったし面白かったよ」

「マジか! 俺も行けば良かったか」とふて腐れている。


「お役に立てて光栄です、では」

 俺はお辞儀をして、外に出ようとするが。


「あ、ちょっとまって」とスルジに引き留められる。


「どうされましたか?」

「うんうん、取り敢えず、敬語はよしてくれよ」

「と言われましても……」


 急にどうしたのだ。


「少し相談があってね、良かったら座ってくれ」

「はぁ」

 俺が椅子を引き座るのを確認してから、お茶の入れ物を寄越しながら、スルジは話の堰を切った。


「昨日、君に隠していた本当の事を話そう、パイルにも話していない事だ」


「はぁ? 俺にも話してないことだと!?」

 当然パイルは食って掛かるが、それを手で制して。

「最後まで黙って聞いてくれ」

 いつになく真剣な眼差しに、パイルも「おう」と、椅子に座り直した。


「話は、俺たち二人の村が天使に襲われた日に遡るーー」

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