007話『伝説のクロノス』
暫く市役所……もとい、ストレンジャーギルドの待合室で待っていると。
「172番でお待ちのお客様、6番窓口までお越し下さい」
呼ばれた。
「お客様は新規会員ご希望という事でよろしいですか?」
「はい、そうです」
この世界の事はまだよく判らないので、言葉数は少なく、端的に応答しろとタブラに指導されている。
それでもついてきてくれるのは、信用度の問題なのか、はたまた面倒見が良いだけなのか。
「何処のご出身ですか?」
「東方の、名前の無い村でした」
「そうですか、分かりました。ではお名前をこの用紙にお願いします」
それで通るんだ……と思いながら、渡された紙には『住所不定』と書かれている。これじゃぁホームレスじゃないか。
「住所不定でもストレンジャーになれるんですか?」
「問題ありませんけど?」
俺の時代では簡単に信用はして貰えなかったんだが。受付嬢も不思議そうに答えている。背後のタブラも、いらぬ事を聞くなと、膝でこちらをつついてくる。
確かに、気になることは多いが、ここはハイハイで済ませた方が無難か。
取り敢えず漢字で名前を書くと、お姉さんに渡した。
「はい、申請書を承りました」
そう言うと、あの羽根飾りを持ってきてくれた。
「では、これを体の何処かに付けてください。守護は可視化されますか?」
「えっと、した方が良いんでしょうか?」
「気分ですね」
「え、ぇーっ……」
気分ってアンタ。
「誰にでも見えると、戦闘時に手を読まれてしまう恐れがありますから。しかし可視化していない場合、同業者には信用がなくなる場合もありますね」
そっか、戦略的に選択肢があるのか。
タブラをチラッと見ると、アゴでくいっと「やれ」と催促してくる。ここは従っておこう。
「じゃぁお願いします」
「ではこの書類をもって、8番窓口へ行ってくださいね」
「ありがとうございました」
言われるがままではあるが、てきぱきと済ませてくれて、ボロもでなくて良かった。
「では、次の方」といって受付嬢はタブラの方を見る。
そう言えばタブラはストレンジャーじゃなかったな。
「私はけっこう」
立ち上がろうとするタブラを、ラスティが引っ張る。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんもストレンジャーになろうよ」
「メリットが無い。」
きっぱり断っている。
俺もあんなイエスノーがはっきり言える人間になりたい。
しかしラスティは執拗に食い下がる。
「守護のランクアップとか、名声優待とか色々あるよー?」
「守護は戦っていれば勝手に強くなる。名声に興味はない」
そこでキラーンと、ラスティの目が光る。
「お兄ちゃん守護いるの? 居ないって言ってたよね?」
しまったという顔をしてるタブラに対してさらに加速するラスティがかじりつく。
「見たい見たい! なんで可視化してないの? 隠してるだけ?」
と、タブラの周りをぐるぐるなめ回すように見ながら付いていく。
「コホン、次のお客様がいらっしゃいますので、待合室でお話しください」
ほら怒られた。公共機関では騒がないのがルールですよ。
「とにかく、待合室に移動しようじゃないか」
そそくさと逃げてゆくタブラを、ラスティが低姿勢で追いかける。あれは獲物を狙う獣の目だ。
「僕は8番窓口に行きますね」
二人はさておき、先に用事を済ませてしまおう。
8番窓口は他の窓口より過疎っており、待ち時間はなさそうだ。
「すみません、守護の可視化お願いします」
「はーい、書類チョーダイ。ふむふむ」
実はひそかにこの時を待っていた。
そう、俺の守護はクロノス。過去の英雄たちが付けていた、伝説の守護らしいじゃないか! 期待しないわけにはいかないだろ?
これはもう、クロノスの守護を持つ男として、皆から羨望の眼差しで見られたり、一気に期待のエースとして祭り上げられたり。
後に語り継がれる冒険譚の第一章間違いな……
「はーい、終わったよー」
やる気のない受付嬢の素っ気ない声で、俺の妄想は打ち切られた。
「は?」
めちゃくちゃあっさり過ぎるだろう。こいつ、加護を見てないのか?
呆けている俺に、首を傾げながら。
「あ、終わりましたよ。お疲れっした」
「いや、俺の守護は……」
「クロノスっすねー、珍しー」
えっ? クロノスってそんなリアクションなんだ。
後ろを見ると、小さな懐中時計みたいなものが浮いている、金色で歯車をモチーフにした、綺麗な懐中時計だ。
「伝説のクロノスとかじゃないんですか?」
「確かにクロノスは超レアだけど、年イチくらいで見るしー」
そんな頻度なんだ!
「クロノスくっつけたまんま、モンスターと戦うなら珍しいですよ? 普通別のにしますもんねー」
そんな扱いなんだ!
「あ、そっか、あれだ! 旅行のアテンダントとかっしょ? 集合時間とかすぐ分かりますもんね、正解っしょ?」
ビシッと指を突きつけられて、鼻息荒く回答する。
クイズ形式ではないんだけども?
「モンスターと戦いたいんですよ」
それを聞いた受付嬢が、笑い出す前の凄い顔をしたところで席を立った。
「タブラめ嘘を付いたな! 恥ずかしい思いをしたじゃないか!」
待合室まで向かうが、落胆よりも恥ずかしさが勝っている。
英雄扱いされたがってた5分前の俺を殴りたい。
とにかく、ストレンジャーにはなれたが。
俺が行く道は間違ってないよな……?
不安がよぎる出だしになってしまった。
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