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『エンジェルフェザー』ようこそ既視感ファンタジーへ!  作者: T-time
第2章5節 ファドルスタンピート
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068『本当の決着』

 体ってのは凄いもので、必死に動いているうちは疲れを感じさせないようになっている。しかし終わった瞬間、安堵と共に疲労が押し寄せてきて。みんな力無く座り込んでしまっていた。

 まさにそんな状況での展開に、彼らの体はついていけなかった。


「陣形を組み直せ!」

 オルタナが叫ぶも、その声は半数にも届いていなかった。

 立ち上がれないものも少なくなかったのだ。


「死体がすくないネ、もう少し残っていると思ったのだガ」


 リッチはネクロマンサーの秘術も使えるのだが、こんなところで俺の死体を片付ける仕事が役に立つとは思わなかった。


「すでに南門には応援を呼んでます!」

「間に合う訳がないだろう!」

 希望と絶望が入り交じった情報が飛び交う。


 俺はその混沌の中を、リッチに向かって歩く。

 こいつだけだ。

 あとはこいつだけだ!


「こいつを殺すにはどうすれば良いんだ?」


 俺は誰にというわけではなく、声を荒らげた。

 雷の魔法は対応策が無いはず、それなのに何故こいつは生きている?


「リッチは、魔法自体に耐性があるんです、それで効きが悪かったのかもしれません」

 ウロボロスの魔法使いサーシャが、俺の後ろからついてくる。

「全属性に耐性が有るタイプか」


 生き物が死ぬギリギリの計算で発動させたのが裏目に出たな。


「それに、あいつは肉がないだろう、魔法全耐性、斬撃にも耐性がある」

 オルタナも、立ち上がってついてくる。


「なんですかそれ、無敵じゃないですか」


「無敵ではないが、弱点は少ないな」

 ダンケルクが倒れた仲間の盾を拾い、俺の前を歩き出す。


「弱点が有るんですね」

「鎖骨の間の魔石、あれさえ砕けば奴は止まる」

 見ると赤い宝石のようなものが、リッチの胸元に見える。

 あれが魔石か。

「だったら、策はあります!」


 その言葉にオルタナは爆笑した。

「あんなでっけぇ切り札の後に、その言葉が出るのがすげぇよ」

「あれ以上の策って、もう想像もつきませんね」

「まったく、君という奴は……期待させてくれるッ!」


「はは、最後の最後ですよ、それに俺一人では……」


「当たり前だろう、もう邪魔とは言わせんぞ」

 盾を構えて《チャージ》を使うダンケルク。

 リッチを取り巻く、ホブゴブリンのゾンビをなぎ払う。


「具体的にどのくらいかかるんですか?」

「道さえ開けばいつでも!」

「あっちゃぁ、それじゃお姉ちゃんがんばんなきゃね」


 サーシャが杖を構えて詠唱を始める。


「俺のでけえ剣じゃ、あんなちいせぇ的に当てるのは無理だ、また美味しいとこ譲るのは(しゃく)だが……」

 オルタナは迫り来るゾンビを潰す。

「後輩の進む道を作るのが、先輩の役割ってもんだろ!」


『ウォーターカッター』

 ゾンビの四肢が切り落とされる。


 ゾンビは痛みを感じないぶん、耐性に優れるが、動きが緩慢(かんまん)だ。

 少しずつ押し込み始めた。

 このまま削れるなら!


 リッチは動かず、呪文を唱え始める。


「呪文を発動させる前に叩くぞ!」


 オルタナの一言に、まだ動けるものが立ち上がる。城壁の上から、リッチを目掛けて矢が放たれる。

「ウノか!」

 残念ながら、矢はリッチを取り巻くゾンビに阻まれてしまったが。


「頼りになる!」

「お兄ちゃんだけに良い格好させないよ」

「ッスよ」

「私も頼りなさい!」


 皆が立ち上がってくる。

「私の事も忘れないでくださいね」

「フィオナちゃん……」


 自分の目に光が宿る気がした。


 人には俺に期待しろと言っておいて。

 俺自身が不安だった事に今さらになって気づいた。


「大丈夫だ、ありがとう。期待しているよみんな」

「さぁ、道を開けましょう!」


 俺達は一つになって、リッチを睨む。


「行くぞ!」




 徐々に戦況は好転して行った。

 しかし、リッチの詠唱は続いている。


「こんなに長い詠唱で、何が来るのかなんて……考えたくもねぇなぁ」

「詠唱が魔物語で予想がつきませんね」

 ウロボロスも一丸となって頑張ってくれている。


「だが、もうアンデットは数少ない! 届かせるぞ!」

 最前線でダンケルクが叫ぶ。


 もうすぐだ! もうすぐ!



「だいぶ減ってしまったナ、だが死体は増やせば良イ」


 リッチが(わら)う。


「詠唱が終わった!?」

 その場に緊張が走る。


「何か策が有るんじゃなかったのか?」

 オルタナが息を切らせて

「有ります、道を」

「正念場だ! 最後のチャンスを逃すんじゃねぇ、道をぶち開けろぉ!」


「希望はないヨ」

 冷たい声でリッチは言うと、魔法をキャストする。


 ゴクっと生唾を飲む音がするほど、静寂に沈む中。

 低いうなり声が、背筋をゾクリとさせる。


「はは、こいつはヤベぇ」

「サイクロプスが、起きる……のか」


「いまならまだ、間に合います!」


 何度も何度も、折れかけた心を、ただ一つの希望で繋ぎ止めている。

 そんな細い糸にぶら下がり続けた人間は残り少なかったが。


「行くぞ!」

 ダンケルクが叫び、チャージする。

「頼むぞ」

 オルタナが空いた隙間に、剣をねじ込み横に払う。


 空いた!

 俺は走り始める。


「甘いナ」

 リッチは次の魔法を唱え始めた。

 それを守るようにリッチの前にサイクロプスゾンビが立ちふさがる。


「嘘だろ」

 絶望の声がする。

 しかし呟いたのは俺じゃない。

 俺はそうは思わないからだ。


《闇走り》ッ!

 サイクロプスの足を掻い潜り、リッチに迫る。


「さようなラ、最後の希望ヨ」


 リッチから闇の玉が放たれる。

 レッドローズ全員が一撃で行動不能にされた魔法だ。

 近すぎる、これは避けれない……



ーーその時違和感を感じた、世界が一瞬だけズレて見えた気がする。

 いや世界の中で自分の存在だけがズレたのだ。

 そのせいで黒い魔力の塊が、俺の横を(かす)めた。


「魔法を撃ってくれたな! 最後のお前の動きだけが不安材料だった」

 そういうと最後の距離を走り抜いた。


「私の攻撃を避けた事は褒めよウ、だがグラップラーごときに私を倒せはしなイ」

「期待しろと言っただろ、お前も期待しろよ」


 俺は懐から銀の筒を取り出し、胸の赤い宝石に触れさせた。


『スチルヒート』ぉお!!!!


 破裂音と共に、赤い破片がキラキラと宙を舞う。


「なっ……に、魔法ごときで!」

「残念だったな、これは物理攻撃だ」


 それ以上リッチは喋らず、サイクロプスと同じように、地面に伏した。

そしてもう二度と動くことはなかった。


「終わった……」

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