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『エンジェルフェザー』ようこそ既視感ファンタジーへ!  作者: T-time
第2章5節 ファドルスタンピート
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067話『暴虐の陥落、そして』

 膝をつくものや、後ずさり出来るもの、殆どのものは、「諦め」に飲まれ動けずにいる。


 俺は大きく息を吸い込むと。

「まだ諦めて居ないっ!」

 爆発させるかのように叫ぶ。


 沢山の生気の無い目が俺を捉える。


「諦める筈無いだろう、俺はまだやれる」


「威勢がいいな人間ヨ」


「俺の後ろに控えている仲間は、こんな窮地でも切り抜けてきた俺を見ている、俺が倒れない限り、こいつらの希望は消えない!」


「ではお前さえ倒れれバ、後の者は絶望してくれるのだナ?」

 骸骨は口に手を当てて(わら)っている。


「だが、それが出来るかな。俺は諦めが悪い」

 後ろを振り向くと、みんなと目が合う。


 彼らの目には絶望以外の光があった、希望ほど強い光ではないが、ほんのすこしの俺への『期待』か。

 だったらそれに答えてやる、ここでやるのが男ってもんだろ!


「みんなもだ! 少しで良いから俺に期待してくれ」



「……せめて希望を提示しろ」

 ダンケルクが、失笑しながら言う。

 その手は鎧を擦っている、俺が修理した部分だ。


「お前だけが、あいつらのイレギュラーだろう」

 オルタナはこっちへ寄ると、剣を構えた。

「何かあるんだろ? 一矢報いるなら、乗るぜ」


「戦いの最中に、戦い以外の事を考えるな! お前達が自分の命を棄てるのは構わん。しかし、隣の者、後ろの者、最愛の者は死ぬことを望んでいない。それを背負っていることを忘れるな!」

 ダンケルクが自分の鎧に盾を叩きつけ、ドラのような音を立てる。


「立て!!」

 もう一度。

「立てっ!!」

 もう一度


 一度(ごと)に、ついてしまった膝が上がり、逃げ出そうとした顔を振り向かせた。


「立てッ!!」

 低い唸りが、場を支配した。


 もう一度俺は息を吸う。

「俺が諦めない限り仲間は諦めない。君たちが諦めない限り、君の大切な人も諦めない。……自分が出来る事だけでいい、やれ!!」


 オォオォオォオオオオオオ!!

 唸りが一つになる。



「良い余興ダ、もう一度君たちの絶望に歪む顔を見れるならと待っていたガ、期待以上によい顔をしてくれル。楽しみダ」



「ピノ、足元の泥水をぶっかけてやれ」

「わかりました」

『ムーヴィングリバー』


 地面から、泥水が舞い上がる。

 先程はなったウォーターカッターの水だ。

 それは舞い上がると、サイクロプス達の上に降り注いだ。


『シールド』

 リッチだけは魔法でその、泥雨を避けた。


「こけにされるのは気分が悪いナ、まさか怒らせるのが切り札なのカ?」

「いいや、ただの宣戦布告さ」


「いくぞ! 各自『やれることをやれ』!」

 オルタナの一言で、この場の者は武器を構えた。


「そんなの作戦でもなんでもないな」

 笑いながらダンケルクは《鉄壁》《ストーンキャッスル》を発動。


「では、絶望を見せてくれ」

 その言葉でサイクロプスが棍棒を持ち上げ、ダンケルク目掛けて振り下ろす。


「うぉおぉお!」

 雄叫びをあげるダンケルクは、振り下ろされた岩の塊を受け止めた。

《ストーンキャッスル》は防御力をあげる代わりに移動できない、受け止める覚悟が必要なスキルだ。

 ダンケルクは体ごと地面にめり込む。


 銀鎧の、他のメンバーも敵の攻撃を受け止める。しかしこちらは一撃で殆どの体力を消耗してしまったようだ。

「この隙に叩き込め!」


 ダンケルクの止めているサイクロプスは、もう少し彼が足止めを出来ると踏んで、あとの二体に集中攻撃をする。

 城壁から弓、戦士達は剣を振りかざして、ドンドン攻撃を入れてゆく。

 これも銀鎧が、その攻撃を受け止めてくれるから前に出れるのだ。でなければ、普通の剣士があれを食らえばひとたまりもないだろう。


 だが、どれだけ削れただろうか、桁外れの防御力と体力に、まだ底が見えない。


『ダークサイドエクスプロージョン』

 リッチが魔法をキャストした。

 リッチはランク6のモンスターだ、この場の誰も手におえる相手ではない。


 キャストされた魔法は、黒く濁った色をしている。

「闇魔法かよ!」

 オルタナが吐き捨てる。

 きっと相殺できる魔法が限られるって事なんだろう。


 魔法は加速度的に進むと、レッドローズの陣営に飛び込んでいった。

『レインボーカーテン』


 カリンが、光魔法の膜を張る。

 一瞬で破裂した黒い塊は、地面をドーナツ状に抉っている。ドーナツの中心にはレッドローズの数人が倒れていた。


「相殺までは無理でしたわ」


 それでも、カリンの魔法がなければ、彼女達は跡形もなく消えてしまったかもしれない。


「おや、光魔法とは厄介ですネ」

 リッチがこちらに顔を向ける。

「貴女から殺しておきましょうカ?」

 そう言うとカタカタと歯をならして嗤う。


「次、魔法使いはキャストしてくれ!」

 オルタナが叫ぶと、この場にいる魔法使いが各々、近くのサイクロプスに魔法を放つ。


『ウォーターカッター』

『ウィンドボム』

『サンドクラスター』

 叫び声のように色々な魔法が飛び交うが、どれもサイクロプスの奥に控えている魔法使いのプロテクションに無効化されているようだ。


「ピノはもう一度、泥水かけといてくれ」

「意味は解りませんが信じます」


 サンドクラスターとウォーターカッターでどろどろになった水をもう一度かける。

『ムービングリバー』


 魔法を打ち終えたリッチも、泥をかぶってしまった。

「つくづく、頭にくる奴だナ!」

 完全にこちらに敵意が向いている。

 これで、レッドローズのような、主戦力への攻撃をそらせるだろう。

 いま前衛に魔法を撃ち込まれたら、本当に崩れてしまう。


 そうこうしているうちに、サイクロプスは二度目の攻撃をしてきた。

 今度は上からじゃなく殴り上げる攻撃だ。

 三人の体が宙に浮く、これはもうサイクロプスの意思ではない、完全に戦略化された動きだ。


 前衛三人が、完全にぶっ飛び、俺達より後ろに転げ落ちた。


「これはヤバい、ぞ!」

 銀鎧のダンケルクが青ざめながら呟くが、立つ力が入っていない。他の二人は完全に気絶しているようだ。

 前衛が居なくなれば、そのサイクロプスの一撃は、命を奪う一撃として他のものを襲うだろう。


「ナイスタイミング! 銀鎧が邪魔だったんだ」

 俺は不敵に笑う。


「カリン、切り札を」

「わかりましたわ!」


 俺達は呪文が書かれたドラゴンの牙を取り出し、二人で手を重ねる。


『『ユピテルサンダー!!』』


 同時に発動された雷。

 青白い光が一瞬、瞬きよりも早く走り、瞬きよりも早く消えた。


 それだけだ、トロルも消えていない。

 何も変化がない?


「おい、ヤツハシとやら今のは……」

 邪魔だと言われた銀鎧は不服そうに言う。

「大丈夫だ、もう終わってる」


 その言葉通り、サイクロプスは膝を付く事もなく、そのまま地面に伏した。

 ドドーンと倒れる音と共に、リッチも地面に落ちていく。



「やったのか?」

 オルタナがサイクロプスに飛び乗り、その大剣を首に振り下ろす。

 なんの抵抗もなくそれはめり込んだ。

「死んでるぞ、サイクロプス三体とも!」


 その言葉を理解する一瞬の間を開けて。

「うぉおぉおぉお!!」

 地面が割れんばかりの歓声が辺りを包む。


 カリンはへなへなと座り込み、呆然としている。他のメンバーも似たようなものだ。


 先程、つい無礼を働いた銀鎧のダンケルクに手を伸ばす。それを掴むと勢いを付けて起き上がる。


「性質が雷である以上、電気を通しやすい銀の鎧のあなたが近くに居るときは使えなかったんですよ」

「だから邪魔だと?」

「すみません」

「いや今回は完全に良いところを持っていかれた、邪魔だと言われても仕方ないさ」

 笑って許してくれた。実直な性格そうだし、この笑顔に嘘はないだろう。


 まだ歓声鳴り止まない中。

 みなが勝利を確信している中に。


 恐怖に満ちた声が響いた。


「ひぃぃ! 死んでたホブゴブリンが立ち上がったぞ!」

 明るかった声が、不安の声にかわる。


「よくも、よくモ! コケにしてくれたナ」

 リッチの声が頭に響く!


「生きて、いたのか!」


 戦場は再び恐怖に支配されようとしていた。

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