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『エンジェルフェザー』ようこそ既視感ファンタジーへ!  作者: T-time
第2章5節 ファドルスタンピート
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066『出来る事をやる』

 ダンケルクは、むくりと起き上がると、高級ポーションの瓶を2本一気に開けた。驚いたが大丈夫なようだ。

 同時にほかの魔法使いが魔法をかける

『ペネトレーション』

 たしかこの魔法はポーションの効果を一段階上げる魔法だ。一気飲みされたポーションが、ダンケルクの体を癒す。


「サンキュ」

「おい、銀鎧の! 行けるか?」

「行くに決まってる、でかいのが来た、小さいのすこし流すぞ」

「いいぜ、こっちはヤツハシが全部やっつける」

「ははっ、頼もしいな」

 オルタナの声かけに、ダンケルクは急いで前線に戻っていった。


「俺に押し付けないで下さいよ」

「ローズ=ガッシュバルドの弟子の力見てみたいもんだな」

「期待は禁物ですよ、俺は出来ることしかしないんで」



 最前線は膠着(こうちゃく)状態になっていた、トロル一匹にダンケルクがかかっている以上、ほかの二人が前線を守るが、どんどん抜けてくる。

 もちろんあの二人が崩壊すれば、抜ける数は手に負えないだろう。必死で頑張ってくれている二人のためにも、後ろに抜けた敵を生かしてはおけない。


 俺はどんどん積み上がる死体を、どんどん脇に避けていった。よく考えてみれば、20人近くいる前線と俺たちを含めても、グラップラーは俺だけだ。こういった戦闘ではあまり活躍の場は無いのかもしれないな。


 だがやれる事はやっておかねば。

 とにかく死体をどかしながら、隙を見て敵を足払いで転倒させて仲間の攻撃を当てやすくしたり、ピンチの仲間がいれば、敵を一枚剥がしては殺させたりと、サポート的な立ち回りをこなしていった。


 しかし、トロルが健在な以上、この状況は続く。もしかしたらカリンに渡している魔法の使い時なのだろうか……


 その時

「ダンケルク伏せろ!」

 オルタナの叫ぶ声が響く、示し合わせたかのようにダンケルクが身を低くすると、その頭の上を火花が走る。


『エクスプロージョン!』


 炎の魔法が、レッドローズのリーダーから放たれた。

 それはトロルに当たると、白く光り、膨張した!

 皆が目を伏せた一瞬で、トロルは居なくなっていた。


「遅ぇぞ、アリアン!」

「倍詠唱しなければいけなかったので」

 アリアンと呼ばれた魔法使いはレッドローズのリーダーだ。

 淡々と、次の詠唱に入る。


「よし、トロルは消えた、ダンケルク下がれ! 代わりにうちのを入れる」


 ダンケルクが一旦下がって来た。

 盾は原型をとどめぬ程曲がっていて、鎧もいくつか凹んでいる。

「危なかった、このまま1~2分時間稼ぎしてたらやばかったよ」


 だいぶ体力を削られたようだ。

「高級ポーションです」

 俺は急いでおかわりのポーションを持ってきた。

「すまんな」

 魔法で効果を上げながらがぶ飲みしている。


 前線ではダンケルクの代わりに、ウロボロスのパラディンが踏ん張っている。

ローテーションしないと、体力が持たないだろう。

「銀鎧の! 下がれ、レッドローズのパラディン、それと2陣の二枚盾行けるか!」

「うぉお、行けるッス!」


 銀鎧の前衛メンバーが全員後ろに来た。

「俺たちまだ行けますよ」

「削られてるの修復したらすぐ行ってくれ、あの2枚盾には重いぞ」

「はいっ! ダンケルクさんは大丈夫ですか?」

「鎧が曲がってな、体を圧迫してる。着替えたら行く」

「しかし、それでは防御力が下がって……」

「仕方ないだろ、これでは動けん」


「ダンケルクさん、鎧修復できますよ」

 俺は返事を聞く前から、ダンケルクの鎧の留め具を外しにかかる。

「本当か! 鍛冶スキルとは珍しいもの持っているな」

「趣味ですよ」

 俺は笑いながら、鎧の凹んだ部分を確認して金槌を取り出した。


『スチルヒート』


 凹んだ部分が赤くなったのを確認して、金槌で叩いて行く。スキル《初級鍛冶職人》がまさかのお役だちだ。ものの数分である程度の形に戻すことができた。


「助かる。この鎧でなければさっきは死んでいただろう。俺の相棒みたいなものだ」

「いえいえ、戦闘に直接参加できませんから、出来る事をやらないと」

「サポートも大事な役割さ」

 まだ熱いだろうに、すぐに鎧を止めていく。

「よし、前線に戻るかな、思ったより休みすぎた」


 ダンケルクのダメージは全て戻ったわけではないだろうが、その使命感が彼を奮い立たせる。

「オルタナ、戦況はどうだ」


 呼ばれたオルタナは、抜けてきたホブゴブリンを切り伏せてからこっちを向いた。ここの戦力で一番レベルの高いオルタナ、その表情は不安に満ち溢れている。

「戦況は……ヤベぇ……」

 と言って、また抜ける敵を切り伏せていく。

 回復のために後ろに下がった俺たちにはいまいち戦況がわからない。


「ウノ! なにか変わったことは……」

 声をかけるために上を向くが、ウノは弓も構えず棒立ちになっている。俺の声が聞こえているのかも解らない。


「くそっ」

 俺は立ち上がり全力失踪で戦場に踏み込み、《闇走り》で前線のバッシュの所まで行った。

 そこで見たものは、トロルより一回り大きい個体、目は一つしかなく、角が生えている。こいつはやばい、俺は冷や汗が頬に伝うより早く叫んだ。


「サイクロプスだ! 状況を把握しろっ! 後退して隊列を組み直せ!」


 戦況を理解していない人間は、一瞬凍りついた、逆に戦況に絶望してた人間は弾けるように動き出した。


 押されるように前線を後退させ、門の中に入ってくる敵を半円状で囲む陣形に変わった。

 雑魚の数も減らないのに、サイクロプスがゆっくりと門に向かってきていた。

「サイクロプスの後ろに、魔法使いが待機しています!」

 ウノから指示が飛ぶ。

「城門、左右に距離を取れ、サイクロプスの攻撃が届く!」


「的が大きければ、当てやすいわ」

 サイクロプスが現れたと聞いた瞬間に、レッドローズのアリアンは詠唱を始めていたようだ、その火球は既にトロルに放った比ではない。

『エクスプロージョン』

 大きな光の火花が、一瞬でサイクロプスの体へ向かって飛び、白い光に変わる。吹き飛ばされそうな爆風に足を踏ん張る。


 目を開けた俺たちが見たものは、無傷のサイクロプスだった。


「ど、どういうことなの? 4倍のエクスプロージョンよ!?」

 ショックを受けたように、座り込むアリアン。

 彼女の最大の一撃という事なのだろう。


「後衛の魔法使い、炎のプロテクションをかけた模様!」

 物見塔の上からウノが叫ぶ。

「キャスト後、更に魔法詠唱しています」


「畳み掛けろ! サーシャ」


ー白く逆巻く波のよう

  石を穿つ川のよう

   君の力を見せておくれよ

 白く逆巻く……


 詠唱を重ねている、できれば一気に倒してしまいたい所だ。


「アリアン立て! 炎対策は予想できただろうが、落ち込んでる暇はねぇぞ」

 オルタナは立ち直り、指示を再開したようだ。

「ヤツハシすまん、対策が思い付かずに一瞬堕ちてた。()()()()()()()だったな!」

「大丈夫です、それぞれが出来ることだけやれば良いんです!」


『ウォーターカッター』


 ウロボロスの魔法使い、サーシャの目の前には人間大の水の玉が出来上がっていた。

 そこから勢いよく、高圧の水が発射された!

「ぐおおぉおお!」

 水しぶきがものすごい勢いで上がるなか、サイクロプスの叫び声が聞こえる。


 みるみるうちに水球が小さくなり消えたが、サイクロプスはまだ立っている。

 左の腕から腹にかけて、大きくえぐれてはいるが、未だに立ち動き続けているのだ。


「何故! 即死級の威力のはず!」

「ダメです、今度は別の魔法使いが水の防御魔法を使いました!」

 ウノが叫ぶ。


「ははは、全属性用意してるのか?」

 門を越えるとすぐの所に待機しているダンケルクが、嘲笑(ちょうしょう)気味に呟く。


「畳み掛けろ! 魔法合戦ならこっちの方が上だ!」

「敵も、数倍に魔法を重ねています、詠唱には時間がかかるはずです、畳み掛けで……」

 高い所からウノが叫んでいたが、その言葉がふと途切れる。


「どうしたウノ!」

「サイクロプス……あと2体来ます」


 その消えんばかりの声は、全ての人間の耳に絶望と共に届いた。


「なんだ……と」

「こんなスタンピート聞いたこと無いぞ!」


 門の目の前のサイクロプスが、岩で出来たこん棒を振り上げる。

 その暴力は物見台を、門の上の橋ごと叩き壊した。


「ウノっ!」

 ウノは辛うじて塔から飛び降り、城壁に飛び移っていた。

 しかし、これで上部から戦況を確認するのが難しくなってしまう。サイクロプスがそんな細かい戦術を使うはずがない。後ろにはサイクロプス以上の脅威がいるのだ!


ー絶望ー


 その悪魔が、この場の全てを包んでいるのがわかった。

 このままではだめだ、抗え!


「抵抗は終わったかネ?」


 頭のなかに響くような声が聞こえる。

「私の完璧な暴力に、屈するがよイ」


 最初のサイクロプスは門の前に佇み

 あとの二匹を待つように堂々と待っている。


「どんな魔法も効かなイ、力で敵う筈もない最強の敵ダ、もっとお前達の悲鳴を聞かせたまえヨ」


 ついに三体のサイクロプスが門の入り口に揃った。

 後ろの2体の間に、人間大のローブを着た骸骨が浮かんでいる。

 声の主はあいつだ。


「リッチかよ、敵うものかよあんなの」


 この場所で最強の剣士オルタナさえも戦意喪失しそうだ。

 サイクロプス3体の絶望、以上の絶望がこの場を支配している。


 見えざる手に首を締め付けられるように。

 体は震えて力が入らないのに。

 心臓だけが早鐘を打っている。


 だが。

 それでも抗え。

 俺だけでも抗え!


「俺はっ、出来る事をやるだけだっ!」

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