063話『始まりの鐘』
ついに、始まりの鐘が鳴った。
ジョロモの街には南門、西門、東門と、大きく3つの門があるのだが。その他にもいくつかの小さい出入り口も存在している。
大きな門だけ守っていても、何処から奇襲がくるか分からないため、ある程度の分散が必要になるわけだが。
俺たちのようなぺーぺ-は、最低戦力として各所に割り振られる。
「東門、戦力揃いました」
伝令が走り去っていく。
「鐘が鳴ったんは朝やのに、まだ攻めて来ぃへんな」
時計は16時を過ぎているがまだ軍勢は動かないらしい。
最初は緊張して、うろうろしていたトオルも、今では木箱を並べた上で寝転んでいる。
「こんなもんさ、だが新入り熟睡するんじゃないぞ?」
「ガハハハ!」
銀色の鎧を着こんだ頑丈そうなおっさん達が、こっちをからかって笑っている。
この門に配属された、第1陣のパーティだ。
俺たちはその後ろで援護する第2陣に選ばれた。漏れ出たモンスターを狩る役割だ。
そしてその後ろにもランクの付いていない、駆け出しストレンジャーが控えている。彼らの基本は補給だ。1陣の魔法使いが撃つ魔法のエンの補充や、弓、回服薬の補充等を担当する。
これが西門の布陣だ。
正面である南門に至っては、ランク7の化け物も待機しているらしいと噂で聞いた。ローズさんだろうなと容易に想像は付いたが。
しかし、黒衣の魔法使いの噂は聞かなかった。彼らはこの窮地に来なかったのだろうか?彼らさえいてくれたらと、淡い期待は捨てきれない。
「暗い顔するんじゃないぞ」
1陣のクルセイダーが声をかけてくれる。
「安心しろ、俺たち『銀鎧団』は、南門でも守れる鉄壁の軍団だ」
「八橋です、微力ながら奮迅します」
『銀鎧団』は装備を銀で揃えたクルセイダーの軍団だ。
構成人数は6人、その半数がクルセイダーという、少し変わった編成だが、後衛の2枚の魔法使いへ攻撃は届かせないのがウリだ。
実際大人数の戦闘でもクルセイダー一人が4体の足止めをできるため、12匹のモンスターを一気に止めることができる。完全にダムだ。
奥に控えている静かな集団は『レッドローズ』のメンバーだ。
構成員はこちらも6人。
なんと炎耐性持ちのドワーフが前衛で4人。
後衛からはどちらも炎の精霊を従える魔法使い2人。
《ファイアーサークル》と呼ばれる魔法を放ち、敵を蒸し焼きにしながら、炎耐性の高いドワーフがその内部に切り込むという斬新なスタイルのチームだ。
個性のある2組と比べると、一番安定しているのが『ウロボロス』というパーティ。
4名ではあるが、パラディンで守り、クレイモアで切り込み、2人の魔法で強化と攻撃と回復を兼ねている。
そして一番ランクが高いのも頼れる要因だ。
2陣は俺たちのパーティと、トオルのパーティだけだ。
「南門は激戦区やろな」
寝転がったままトオルが呟く。
「俺は役には立ちたいが、せいぜい西門で死なない程度に頑張りたいよ」
俺の役目はパーティメンバーを誰も死なせないことだ。
一応、ジョロモからの依頼で、各門へエスケープの達人集団である、ミケーネ商会のメンツも居るが、即死の場合や、乱戦で近づけない場合は、どうしようもない時もあるだろう。
そんな場面にならないようにも、東門で良かったと思わざるおえない。
「大丈夫だ、俺たち銀鎧が付いていれば、後ろに進む敵はいないさ」
銀色に輝くフルアーマーが頼もしい。
「俺たちにも出番くれよな、銀鎧さん」
ウロボロスのリーダーが、銀の鎧に肘をかけてよっかかる。
「攻撃は最大の防御だ、止めるより先にまっぷたつにしちまえばいいんだろ?」
彼はオルタナ、クレイモアだ。
「俺たちがうまく防げば、敵はなにも出来ない、あとは好きに料理すればいいだろう」
銀鎧のパラディン、ダンケルクも応戦している。
二人の間には、火花が見える。
「攻守一体。臨機応変に動くためにはどちらに偏っても難しくなりますよ」
拮抗状態に、つい口走ってしまう。
ダンケルクとオルタナは二人してこっちを向いた。また地雷踏んだか?
「俺たちの間に割って入るとは……」
「若さか」
「俺の目指す方向性を言っただけですよ」
二人は顔を見合わせて豪快に笑った。
「仲が良いなら喧嘩しないでくださいよ」
その時、鐘を持った早馬が走ってきた。
「敵陣営動きあり、戦闘準備!」
俺は深く息を吸い込むと、体の隅々まで酸素を取り込むように貯めてから、一気に吐き出した。
守りきる。この街も、仲間達も!
こうして人生最大の試練が幕をあけた。




