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『エンジェルフェザー』ようこそ既視感ファンタジーへ!  作者: T-time
第2章4節 備えよ、決戦の日に
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058話『カウントダウン』

 お察しの通りではあるのだが、魔法使いがいるとなると、話は変わってくる。


「ちょっと待てや、罪人ちゃうで!」

 ミカとアンは目隠しをさせていただいたが、関西弁……もとい、トオルは後ろ手に縛って、麻袋を被せて転がしてある。


「うまい話がある言うから乗ったんやんか、こんな扱いされるんは聞いとらんで!」

 猿ぐつわも噛ませておけばよかったか。


ー聞こえない、聞こえない

  貴方の声しか聞こえない

   貴方の声は聞こえないー

『サイレントリップ』


 ミカが魔法を唱えるとトオルは静かになった。体はバタバタ動かしているが、全く声を出さない。

 いや、魔法封じのための、喋れなくする魔法だ。


「ミカ、このままずっとサイレントリップ、かけておいていいわよ」

「それも良いかもしれないわね、アン」

「本当に仲間か、お前らは……」


「さて、すまないが、そのままの状態でいいので、俺に《フォローウィンド》使ってくれないか」

「いいですよ、エンはそちら持ちということでしたし」


 目隠しされたままだと言うのに、落ち着いているものだ。

「事前に聞いておりましたので」

「無理矢理目隠しされるよりいいわねミカ」

「トオルと一緒にいるとこういう場面は少なくはないですよねアン」


 苦労してるんだな。




ーー砂漠を越えたところで砂上船をバラし、彼らの目隠しをとる。


「これは驚きましたねアン」

「驚きました」

「どういう事や、これは」


 俺たちは慣れたもんだが、はじめてだとこういう反応になるよな。ミカの魔法の力は高く、より早くジョロモまで到着することが出来た。

 四時間掛かったかどうかという程だ。


 トオルは結んであった縄のあとを擦りながら

「まぁ手品の種は買おうと思わん、べらぼうに高そうやしな」

 といってくる。

「そうしてくれると助かる」


 代わりにミカが、袋から牙を6本出してくる

「お約束の600エンです」


 取り敢えず、早馬の代金である600エンを徴収、同じ金額でこれだけ早いのだ文句はあるまい。

 俺たちも急ぎたかったし、まさに渡りに舟という奴だ。


 無為に多用する技術ではないとは思うが、タイムイズマネーという言葉もあるように、それがお金で買えるなら安いものだ。


 取り敢えず、行く先は同じだ。

 俺たちはスタンピート防衛任務に参加するため、ギルドへと急いだ。



「八橋様、お久し振りですね」

 フジさんとは一ヶ月以上会っていなかったが、その一言以外はいつも通り作業を進めてくれた。

「スタンピート警報が出たということで、急いで戻ってきました」

「助かります、今回は規模の全容がわからず、とても強く警戒しているもので」


 通常であれば、スカウトやレンジャーが請け負い、敵の規模や構成を調べるのだが、今回はその全容が見えてこないという。余程頭の切れる指揮官がいるのだろう。

 そうなると規模だけじゃなく、練度の高い軍になっている可能性もある。とにかく用心するに越したことはなさそうだ。


「八橋様、パーティメンバーの他の方、ウノ様、ピノ様、バッシュ様、モナンヘーゼル様が参加表明しておりますね」


 聞きなれない名前がいたぞ。

「モナンヘーゼル?」

「カリン=モナンヘーゼル様ですが」

「カリンか、そういえば名字知らなかったな……」


 まだ一度しか一緒にクエストに行けていないし、ジョロモにいる間はたまにカイフォンで連絡を取っていたが、最近はオアシスにいたから通信できずにいたんだった。


「モナンヘーゼルってまさか、領主ジョロモ様の娘さんだったんですか!?」

 いきなりフィオナちゃんが大きな声を出した。

「えっ、そうなの?」

「そうですよ」

 フジさんはさも当たり前かのように返してくる。

「知らなかったのですか?」


 知らなかった。そりゃ父親が領主じゃここを離れられないわけだ。

 しかし、それをわざわざ自分から言わなかったって事は、詮索されたくなかったのだろう。

 俺も毎度地雷を踏み続ける訳にはいかない。空気を呼んで大人の対応を身に付けているのだ。


「とにかく、みんなが揃うのは良いことだ。事情はさておき、この街を守りたい気持ちは変わらないだろうしね」


 といって、差し出されたスタンピート依頼の特別認可章を受け取って、カウンターを離れた。




「ほいで、どこに配属されたんや?」

 覗き込んでくるトオルに促されて、貰ったチケットを見ると配置図が記載されていた。戦力によって振り分けられてるらしい。

「これか、東門第二陣営だな」

「かぁーっ、同じかい! 縁があるのう」


 取り敢えず共同戦線を張るのであれば、人となりを知っている人物の方が助かる。取り敢えず彼らは彼らで準備をして、戦場で会うことを約束した。



 スタンピートは近いが、すぐではない。

 見張りが昼夜交代でずっと監視しており、開戦前にはこちらも準備が整うくらいには合図を出すだろう。

 それまでは、領内で鋭気を養っておけばいいのだ。


 俺は久しぶりに、タブラから預かっている自宅に戻った。

 開戦前に準備する事もあるが、一番の目的は……


「お帰りなさいトキさん」

「お帰りなさいッス!」

「ピノ、バッシュ、元気そうだな!」


 仲間に会うのを俺は楽しみにしていた。

 気を抜くと死んでしまう世界では、少し会えないだけで、もう二度と会えないかもしれないという気持ちが高まってしまう。

 笑顔を見た瞬間、それの不安がほどけてゆくのがわかるほどだ。


「みんなただいま、ウノも久しぶりだな」

「なにか収穫はあったんですか?」

「まぁまぁな、そっちは変わりないかな」

「俺もスタンピートの偵察に出てましたが、今回は全容が見えなくてみんなピリピリしてますね」


 ウノは小規模ながらスタンピートを経験しているらしい。

 敵は隊列を組み、攻城戦を仕掛けてくるため、野生のモンスターと一緒にしてはいけないということだった。



 きたる厄災に、俺たちも生半可な気持ちで挑む訳にはいかない。

 気を引き締める必要がありそうだ。

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