058話『カウントダウン』
お察しの通りではあるのだが、魔法使いがいるとなると、話は変わってくる。
「ちょっと待てや、罪人ちゃうで!」
ミカとアンは目隠しをさせていただいたが、関西弁……もとい、トオルは後ろ手に縛って、麻袋を被せて転がしてある。
「うまい話がある言うから乗ったんやんか、こんな扱いされるんは聞いとらんで!」
猿ぐつわも噛ませておけばよかったか。
ー聞こえない、聞こえない
貴方の声しか聞こえない
貴方の声は聞こえないー
『サイレントリップ』
ミカが魔法を唱えるとトオルは静かになった。体はバタバタ動かしているが、全く声を出さない。
いや、魔法封じのための、喋れなくする魔法だ。
「ミカ、このままずっとサイレントリップ、かけておいていいわよ」
「それも良いかもしれないわね、アン」
「本当に仲間か、お前らは……」
「さて、すまないが、そのままの状態でいいので、俺に《フォローウィンド》使ってくれないか」
「いいですよ、エンはそちら持ちということでしたし」
目隠しされたままだと言うのに、落ち着いているものだ。
「事前に聞いておりましたので」
「無理矢理目隠しされるよりいいわねミカ」
「トオルと一緒にいるとこういう場面は少なくはないですよねアン」
苦労してるんだな。
ーー砂漠を越えたところで砂上船をバラし、彼らの目隠しをとる。
「これは驚きましたねアン」
「驚きました」
「どういう事や、これは」
俺たちは慣れたもんだが、はじめてだとこういう反応になるよな。ミカの魔法の力は高く、より早くジョロモまで到着することが出来た。
四時間掛かったかどうかという程だ。
トオルは結んであった縄のあとを擦りながら
「まぁ手品の種は買おうと思わん、べらぼうに高そうやしな」
といってくる。
「そうしてくれると助かる」
代わりにミカが、袋から牙を6本出してくる
「お約束の600エンです」
取り敢えず、早馬の代金である600エンを徴収、同じ金額でこれだけ早いのだ文句はあるまい。
俺たちも急ぎたかったし、まさに渡りに舟という奴だ。
無為に多用する技術ではないとは思うが、タイムイズマネーという言葉もあるように、それがお金で買えるなら安いものだ。
取り敢えず、行く先は同じだ。
俺たちはスタンピート防衛任務に参加するため、ギルドへと急いだ。
「八橋様、お久し振りですね」
フジさんとは一ヶ月以上会っていなかったが、その一言以外はいつも通り作業を進めてくれた。
「スタンピート警報が出たということで、急いで戻ってきました」
「助かります、今回は規模の全容がわからず、とても強く警戒しているもので」
通常であれば、スカウトやレンジャーが請け負い、敵の規模や構成を調べるのだが、今回はその全容が見えてこないという。余程頭の切れる指揮官がいるのだろう。
そうなると規模だけじゃなく、練度の高い軍になっている可能性もある。とにかく用心するに越したことはなさそうだ。
「八橋様、パーティメンバーの他の方、ウノ様、ピノ様、バッシュ様、モナンヘーゼル様が参加表明しておりますね」
聞きなれない名前がいたぞ。
「モナンヘーゼル?」
「カリン=モナンヘーゼル様ですが」
「カリンか、そういえば名字知らなかったな……」
まだ一度しか一緒にクエストに行けていないし、ジョロモにいる間はたまにカイフォンで連絡を取っていたが、最近はオアシスにいたから通信できずにいたんだった。
「モナンヘーゼルってまさか、領主ジョロモ様の娘さんだったんですか!?」
いきなりフィオナちゃんが大きな声を出した。
「えっ、そうなの?」
「そうですよ」
フジさんはさも当たり前かのように返してくる。
「知らなかったのですか?」
知らなかった。そりゃ父親が領主じゃここを離れられないわけだ。
しかし、それをわざわざ自分から言わなかったって事は、詮索されたくなかったのだろう。
俺も毎度地雷を踏み続ける訳にはいかない。空気を呼んで大人の対応を身に付けているのだ。
「とにかく、みんなが揃うのは良いことだ。事情はさておき、この街を守りたい気持ちは変わらないだろうしね」
といって、差し出されたスタンピート依頼の特別認可章を受け取って、カウンターを離れた。
「ほいで、どこに配属されたんや?」
覗き込んでくるトオルに促されて、貰ったチケットを見ると配置図が記載されていた。戦力によって振り分けられてるらしい。
「これか、東門第二陣営だな」
「かぁーっ、同じかい! 縁があるのう」
取り敢えず共同戦線を張るのであれば、人となりを知っている人物の方が助かる。取り敢えず彼らは彼らで準備をして、戦場で会うことを約束した。
スタンピートは近いが、すぐではない。
見張りが昼夜交代でずっと監視しており、開戦前にはこちらも準備が整うくらいには合図を出すだろう。
それまでは、領内で鋭気を養っておけばいいのだ。
俺は久しぶりに、タブラから預かっている自宅に戻った。
開戦前に準備する事もあるが、一番の目的は……
「お帰りなさいトキさん」
「お帰りなさいッス!」
「ピノ、バッシュ、元気そうだな!」
仲間に会うのを俺は楽しみにしていた。
気を抜くと死んでしまう世界では、少し会えないだけで、もう二度と会えないかもしれないという気持ちが高まってしまう。
笑顔を見た瞬間、それの不安がほどけてゆくのがわかるほどだ。
「みんなただいま、ウノも久しぶりだな」
「なにか収穫はあったんですか?」
「まぁまぁな、そっちは変わりないかな」
「俺もスタンピートの偵察に出てましたが、今回は全容が見えなくてみんなピリピリしてますね」
ウノは小規模ながらスタンピートを経験しているらしい。
敵は隊列を組み、攻城戦を仕掛けてくるため、野生のモンスターと一緒にしてはいけないということだった。
きたる厄災に、俺たちも生半可な気持ちで挑む訳にはいかない。
気を引き締める必要がありそうだ。




