057『一ヶ月の報酬』
ダルトンの屋敷に戻ると、早速フィオナちゃんに連絡を取った。
「すみません、087番おねがします」
俺が作った交換手システムは順調に稼働している。
タクシー業務は『歩合制』に変えたとたん、みんなきちんと報告を始めた。まったく、現金な奴らだが分かりやすくて良い。
お陰で業績はうなぎ登りだ。
先手必勝で、ハウスベルグ以外の競合商人には「早く参加に下った順に事業を高く買い取る」と勧誘を掛けておいた。
もちろんこちらの業績を毎週記録し、先方に送る念の入れようだ。
1ヶ月で既に1社、競合相手が傘下に入った。他も時間の問題だろう。
そうそう、フィオナちゃんだが一緒に行動をしていない。彼女には探し物があるそうで、この広いオアシスを走り回って居る。
「あ、トキヒコさん、お久しぶりです」
そんなフィオナちゃんとは湖で遊んでから、わりとすぐにバラバラになってしまったので、一ヶ月近く会っていない。
「変わりないかい?」
「はい、私すごく充実しています!」
「探し物は見つかったのかな?」
「見つかりました!」
探し物が古書の類いだと聞いては居るが、内容までは教えてくれなかった、しかし、地雷解体する役のフィオナちゃんの地雷を踏むのは躊躇われたので、深くは突っ込まないでおこう。
「良かった、実はそろそろジョロモへ戻ろうと思うんだ」
「……スタンピートですか?」
一瞬で声のトーンが落ちる。
彼女にとってはいままで生まれ育った街なのだ、危機にさらされるとなると居ても立っても居られないのだろう。
「分かりました、ダルトンさんの家で合流しますね」
そういうと話を終えた。
俺はカイフォンの裏をセスタスの金属部分で擦った。ガリガリガリっと音を立てると、交換手が出る
「済みましたか?」
「はい、どうも」
お礼を言うと、そのまま貝をポケットにしまう。
交換手も俺の貝を棚に戻しただろう。
便利なシステムだが、これはこの街の中だけでしか使えない。ジョロモに帰ったら、いつも通りの使用方法になってしまう。
「落ち着いたらジョロモでも事業を展開するかな」
おれは独り言を呟きながら、ジョロモに戻る報告をするために、ダルトンの屋敷に向かった。
コンコン
「ダルトン、居るかい?」
「ああ、入ってくれ」
以前壊した彼の書斎は綺麗に修繕されていた。
机もそっくりそのまま同じように復元されている。
「そろそろ、ジョロモに戻ろうと思う」
俺は早速本題を切り出した。
「もう、か。スタンピートが近いのかい?」
俺は頷く。
「警戒警報が出ているんだ、できれば今あるだけの資金を根こそぎ俺にくれないか?」
強盗でも言わないような台詞だが。
もともとは俺が作ったお金だ。強気でいく。
「わかった」
そういうと、ダルトンは書斎の右手の本棚に向かった。
以前ここに侵入したときには気づかなかったが、ダルトンが本をひとつ取って、中に手を突っ込むと、本棚が動いた。隠し金庫だ。
「ちょっと待っててくれ」
ここまで秘密を暴露できるほど、彼には信頼されている。
ダルトンは俺が思っている以上に、誠実で真面目だった。
状況が悪いとき、真面目にどうにかしようとしたのだろうが、商才が無かったために空回りしただけだったようだ。今では俺もこのダルトンに信頼を置いている。
実際、この事業を任せると、事務的にしっかり仕事をこなしてくれるし、人望も戻ってきている。これほど適任のものはほかに居ないだろう。
時々、天使を遺跡に住まわせる話をすることはあるが、今ではないと諭している。きっとフラートリスが一人では寂しいだろうという気持ちがあるのだろう。
「そうだね、今あるのは……4万エンくらいかな」
日本円で400万!?
思ったよりある。
「これでも今月分を納めたばかりなんだ、来月までまた稼いでおくよ」
う~ん俺はまずい錬金術に手を出してしまったのかもしれない。
目立ちたくはないんだけどな。
「助かる、では4万エン貰っていこうかな」
しかし、今実験している魔法はかなり魔力の消費量が見込まれるため、このくらいは必要だろうと踏んでいる。
お金はあって越したこと無いからな。
ダルトンの屋敷に現れたフィオナちゃんは既に準備万端だった。
ローブの下にはビキニアーマーを着込んでいたし、荷物もすでに纏めて担げるようにしていた。
俺たちは早速この街を出るためにオアシスの西門へと向かった。自分でそうなるようにしたのだが、馬車を呼ぶとすぐに迎えにきた、めちゃくちゃ便利だ。
もう到着かと言うところで、聞いたことのある声。
「高いっちゅうねん!」
「こっちも商売でやってるんだ」
「なんぼかまけてくれへんか?」
ギルドで見かけた関西弁の全滅パーティが、早馬屋に文句をつけているようだ。
俺たちも早馬を借りたいのだが……
「俺はそのままの値段で良いので、先に馬を借りれないか?」
取り敢えずここでごねても仕方ないだろうに。
いつの時代にもこういうやつ居るんだよな。
「ちょっと待ってくれやあんちゃん、先入りはあかんやろ」
ちょっとでも自分が損せずに、得したいという意識が見え見えだ。
「急いでジョロモに行きたいんだ」
「お、奇遇やな! わいもジョロモ行きなんや」
行き先は一緒でも、金儲けに行くんじゃないんだが。
「おっちゃん、俺と俺の仲間と合わせて5人で借りるから安くしてくれへんか?」
「おい、数に入れるな」
「お前も仲間か?」
早馬店主に睨まれる。
「お前らに貸す馬はねぇ! 出ていけ!」
そういうと、裏で待機していたであろう屈強な男達が、俺と関西弁を摘まんで店の外に放り投げた。
こんなところでぐずぐずしている暇は無いんだがな!
「なんやケチぃなおっちゃん」
頭をカリカリ掻きながら、悪びれた様子もない。
俺はこれ以上邪魔をされたくはない。《組み付き》からの《動脈締め》を発動。
一瞬で関西弁の後ろに回ると、腕を首に回して絞めにかかった。
「な、なんや? 気に障ったんか?」
気に障ったとも。
「す、すまん、謝るから許してぇな!」
ベシペシと腕をタップして解放を望むが、関西弁が逆に気持ちを逆撫でしている。
「ミカ! 助けぇ助けぇ!」
仲間に助けを求めるが
「自業自得やないの?」
軽く流されてる、こいつはきっといつもこうなのだろうな。更に力を加える。
「アン! お前の魔法でこいつ止めんかい」
「お金が勿体ないです」
取り敢えずこのまま落としてしまおうかと思ったが。
「君は魔法使いなのか?」
アンと呼ばれた女性に質問する。
何故質問したかというと、彼女がどうみても魔法使いに見えなかったからだ。
ボンテージのようなエナメル皮で出来た衣装を着ていて、前髪パッツンの黒髪ロングヘアー。妖艶な雰囲気に「嬢王様」と呼んでしまいそうな風貌だったからだ。
「いい提案があるんだが、聞かないか?」
俺は関西弁男への手を緩めることなく提案を持ちかけた。
アンと呼ばれた魔法使いの守護、シルフを見ながら。




