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051話『みたび砂漠を越えて』

 今回のクエストだが、依頼者が死んでしまっては支払いは無いだろう。


 しかし、彼女は手元に3000エン程の羽を持っていた。

 先払いで1000エン、オアシスからの帰りに1100エンは使用したのだが、まだ1000エン程残っている。

 取り敢えずはそれを成功報酬として全員で約200エンずつ分けた。


 昔のお金の価値で2万円くらいだ。

 一週間くらい走り回って、命の危険もあって2万円は割に合わないだろうな。

 しかし、誰もフラートリスの遺体から羽をむしろうとしなかったのは、倫理的にみんなが高い場所にいると感じた。


 代わりにと言ってはなんだが、ダルトンから貝フォンを幾つか頂いた。

 養殖は続けているのだが、需要が減ってだいぶダブついているようだ。



 せっかくなので連絡網のように、順番に持つことにした。


 俺とウノ、ウノとピノ、ピノとバッシュ……といった具合だ。俺は直接ピノやウノへの連絡手段はないが。ウノやフィオナちゃんを介せば伝言できる寸法になる。こうすればカイフォンも2枚しか持たなくて済む。



 取り敢えずこれで手打ちにして、俺たちは2チームに別れた。





 フラートリスの遺体は、移動中に悪くならないよう、カーマインが凍らせた。彼女の守護はフラウだ。ランク3の守護で、俺を冷凍保存していた精霊、懐かしい。 

 フラートリスの爆炎から身を守ってくれたのは、彼女の氷の壁のお陰だったらしい。

 相性が良いスキルで助かった。



「少し提案があるんですが」


 このまま天使の遺体を荷馬車で2週間も運ぶのを考えると、何かのアクシデントに巻き込まれない保証はない。

 どうせ、移動中氷魔法を使い続ける事を考えると、いっそ砂上船で移動した方が早いし、危険も少ないだろう。


 一日だけ時間を貰って、砂上船を改造した。

 今度はちゃんとヨットのように帆を動かせるように変更しただけなんだが。


 ダルトンとカーマインには目隠しをさせていただき、砂漠の真ん中までつれていく。


「今からは絶対に目を開けないでくれ、ダルトンも商人なら、移動にイニシアチブを持てることがどれだけ大きいか分かるだろう?」


 開けるなと言っても、後ろ手に縛った上に、風でも取れないように袋を被せているのだ。

 カーマインに至ってはもっと気の毒だ。

 その状態で『フォローウインド』の魔法を使い続けて貰わなきゃいけない。


 今回は(かじ)を魔法使いに頼まないで済むので、そんな状態でも何とかなる。




 そして次に目を開けたダルトン達は、驚きを隠せなかった。一週間かかる道のりを、半日で進んだのだ。

「ははっ、この方法を独占するだけで、億万長者だ……」

 と力なく笑っていた。


 ここで、嬉しい誤算が一つ。

 カーマインの魔法使いとしてのレベルが高かったお陰か、700エンで到着することが出来た。

 これがランクの違いなのだろう。

 あとは《魔法制御》のスキルに消費EPの削減効果もあるらしい。



 一度、ダルトンの屋敷に戻る。


 カーマインは、氷魔法を強化して、空き部屋に遺体を隠しに行った。


 残りの俺たちは、ダルトンについて彼の部屋に向かったのだが。

「なんてこった、書斎が!」


 帰ってきたダルトンは叫び声をあげた、そう言や書斎で執事と戦ったのを忘れてた。


「その机壊したのはタッセルホフだ、俺じゃぁない」

 ちゃんと責任転嫁出来るところはしておかないとな。


「あら、護衛の人、ダルトン様連れて帰ってきたの?」

 いそいそと箒や雑巾を持って、女中が走り回っている。

 きっと帰ってこない間、サボりまくっていた仕事を片付けているのだろう。



「ヤツハシ様、ダルトン様お帰りなさいませ」


 ダルトンの執事であるタッセルホフが当然のように立っている。

 おいおい、白々しいじいさんだな。主人売っといて。


「タッセル、ヤツハシさんに部屋を」

「かしこまりました旦那様」


 きれいなお辞儀をすると、タッセルは俺とフィオナちゃんをそれぞれの部屋に通してくれた。



「タッセルホフさん、少し聞いて良いかな」


 部屋の説明が終わったところで、俺は執事を呼び止めた。

 豪華な調度品のなかで、座りやすそうなソファーに腰かけてみる。


「タッセルで構いません、して、何でしょうか?」


「タッセルは、ダルトンが嫌いなのかと思ってたがそうじゃないようだ。しかし態度は主人に対するソレではないよね、どういうことなのかなと思ってね」


 タッセルは少し考えて居る。

 答えは出ていても口に出すのは躊躇(ためら)われるのか。


「失望……かなと思ったんだ」

「たしかに。それは私の主人への気持ちにぴったりですな」

 笑いながら返事をする。


「これから言うことは俺の想像なんだが、もし良かったら意見をくれ」



 ダルトンは絵に描いたような「二代目」だ。

 才覚溢れ、人望に厚かった初代とどうしても比べられてしまう。しかし、ダルトンに受け継がれたのは才能ではなく、その人格だけだった。

 では人格が良ければ人望もあるだろうというのは間違いで、そこに実績が伴わないとただの絵空事で終わってしまうのだ。


 結局、カイフォン事業もうまく行かず。

 苦肉の策で打ち出した計画も、大きすぎて全く進まず、ただ家の縮小を止められない状態に追い込まれていったのだろう。


「と、こんなところだろう」

「まったくもってその通りでございます」


 推理も当たっていたのだろうが、この執事からだったらいくらでも情報を引き出せそうな気がする。


「現状、困っている事は何かあるのかい?」


「困り事だらけですが、一番困っておるのは、オアシスの管理を外されてしまいそうな事ですな」


 思い出すと、オアシスの街は貴族の合同出資だと聞いていた、その一つがこのハウスベルグ家なのだろう。


「貴族は街の治安や、修繕、きたるスタンピート等に備えて、エンをプールしておりますが、この金を払えておらんのです。再三通告されておりまして、税金等の吸い上げで補填しているものの、もうカツカツ状態で」


 そうなると、このハウスベルグ家も、お取り潰しということになってしまうのだろう。



「この状況。俺が何とか出来ると思うんだが」



 一番弱って居るときにカードを切るのが、商売の基本だ。

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