050話『研究の内容』
ダルトンが落ち着くまで、俺たちは近くで見張っていた。
それぞれに回復薬を飲み、怪我を治す。
フラートリスが使った炎魔法は、直撃ではないにしろ、ダルトンをかばったウノなどは、特に強い火傷を負っていた。
「天使って、一気に3つも魔法が使えるんだ」
ピノが思い出したように呟く。
俺も誤算だった。
周辺のモンスターについてはだいぶ勉強したのだが、まさか天使と戦うことになろうとは思いもしなかったからだ。
「天使は、魔法の詠唱をしません、息をするように魔法が使えるんです」
答えてくれたのは秘書の女性だった。
「私は八橋時彦、このパーティのリーダーです」
自己紹介をしながら、座り込んでいる秘書に手を差しのべた。
秘書は手を取り立ち上がり、タイトなミニスカートをパンパンっと払った。
「私の名前はカーマイン、カーマイン=マグオーダーです、ダルトン様の秘書、兼ボディガードでございます」
「カーマインさんは天使のことについてお詳しいようですが、ダルトンさんの研究についてもご存じなのですね?」
フィオナちゃんが横から割って入る。
なんだか少し睨まれたのだが、また知らぬ間にミニ地雷を踏んだのか?
「え、ええ。私は天使について研究する目的でダルトン様に、雇っていただいておりますので」
カーマインはずいっと寄ってきたフィオナちゃんにたじろぎながら答えた。
「結局研究ってどんな事を調べてるんですか?」
「それはーー」
それは研究というよりも、実験に近いものだった。
天使の世界であぶれたり堕ちてきた天使に居場所を与え、代償にその羽を貰う計画を立てていた。
ダルトンは旧世代の地下都市、つまりシェルターを所有している。そこに天使を集め、生活させるつもりだったのだ。
大胆だが、需要と供給は釣り合いそうな感じはする。フラートリスのような天使も少なくはないのだろう。
あとは、ダルトンと天使の架け橋になってくれる者が現れると良かったのだが。
そう言うとカーマインは、フラートリスを見た。
「安住を願うよりも、野心家過ぎたのね」
ため息をついて、そう話を終える。
「古代兵器の研究というのは、フラートリスの嘘だったのか……」
少し期待していた分、残念だ。
俺は腰のホルダーから、回復薬を一つ取るとカーマインに投げた。
炎から俺たちを守ってくれた時に、一番前で受けたのは彼女だ。その恩は返しておきたい。
「あ、ありがとう」
カーマインは少しばつが悪そうにそれを飲んだ。もとはと言えばそっちのいざこざに巻き込まれただけなのだ。
「トキヒコさん。女性にだけ優しくしすぎじゃないですか?」
フィオナちゃんの言葉にトゲがある。
「そんなこと無いよ」
「フィオナさん焼きもちですか?」
ウノが茶化す。
「そんなんじゃないです」
でもなんだか怒ってる。
「トキヒコさんは男の子にだけ優しくしてればいいんですよ」
焼きもちなのだろうか、もしかしたら俺にも春が訪れたのかもしれない!
「俺は男女分け隔てなく、優しいと思うぞ」
「分け隔ててくだい」
「ところでこれからどうするッスか?」
呆れたふうにバッシュが声をかけてくる。
そうだな。
「ダルトン、貴方はその亡骸をどうするつもりですか?」
ダルトンは泣き腫らした目を擦って、こちらを見た。
先ほどは分からなかった顔をいまはっきりと確認すると。俺の思っていたイメージと違っていた。
顔相占いが出来るわけではないが、何となくその人の本質は顔に出てくるものだ。
ダルトンは、みなに嫌われていると思っていたのだが、少し違うようで、「失望」されていただけのようだ。
その顔は純粋で、ナイーブな感じだった。
ナイーブとは、英語でいうと「繊細」とは訳さない。
幼稚、未熟、騙されやすい、考えが甘いといった意味だ。
まさにその言葉通り。
『要領が悪い人間』なだけで『悪い人間』ではなさそうだ。
えずきながらも、声を絞りだし言った。
「フラートリスを埋めてあげたい。他の天使に見つからないところに」
「地下都市などいかがでしょうか」
すかさずカーマインが進言する。
「その地下都市、俺も見てみたいと思ってたんだ」
すかさず俺はそれに乗る。
地下都市と言うことは、旧時代の遺物があるかもしれない。銃などのあからさまな兵器でなければ、現代人には何に使うかわからないアイテムも沢山有るだろう。
「是非見てみたい!」
俺は高揚感を押さえきれない。
また一つ、この世界での切り札を手に入れるかもしれない。
「俺は降りますよ」
ウノは呆れたようにそう言いった。
「この町でもう少し仲間の情報を集めたい、まだ可能性は捨てたくないんだ」
「お兄ちゃん行かないなら私も……」
ピノもそれに続く。
「ピノが行かないなら、行かないッス」
バッシュまで!
でも仕方ないか。
天使の亡骸を抱えて、旅をするなんて危険なのだろう。
それに、遺跡も最初にはいったものが根こそぎ必要なものを奪っていってることが多い。既知の遺跡など大抵骨折り損なのだ。
「これはあくまで俺の個人的な行動だ、無理についてこなくても良いよ」
フィオナちゃんだけはどちらに付くか迷っているようだ。
先ほどは俺に焼きもちを焼いてくれてたんだ。
もちろんこっちを選んでくれるだろうが。
「私はヤツハシさんと行きますね」
やはりこっちを選んでくれた。
これから暫くは二人パーティに戻るんだ、もしかしたら。ムフフフ……
「もしかしたら、旅先で新しい男性と出会うかもしれませんしね」
ぼそりと呟いた。
言葉の裏に(ヤツハシさんが出会う)という意味が隠されて居るなど知りようも無い。
え、どういうこと?
俺の事好きなんだよね、なぜここで他の男を探す必要が?
女心って分からん!!
彼女の脳みそが腐っている事を俺はまだ知らない。




