005話『知るべき事』
「君は日本語を話しているね」
藪から棒な話題だとは思ったが、そういえば以前にラスティにも疑問を持たれた案件だった。
「はい、日本人ですから」
「それはこのEFでは珍しい言語なんだよ。だから君は東方の出身ということで良いだろう」
まぁ、日本は極東と呼ばれていたこともある。あながち間違いではないだろう。もともと小さな国だったのだし、他のどの国語にも属さない独特な言語だ。世界が混ざってしまったこの時代では死滅に近いのかもしれない。
「しかしEFでは、日本語だけでは会話は無理だろうな」
「困りましたね、ところでイーエフって何ですか?」
「エンジェルフロンティアの略だよ。天使の居る天界をエンジェルヘブンと言って、明確に差別化されている」
「魔法で翻訳とか、出来ないんですか?」
「一番手っ取り早いのは、ストレンジャーの登録だな」
「洞窟で聞きましたね、でもそれって?」
「ハンター、護衛、探検家、便利屋。あらゆる権限を持つ自由人という立場かな」
「お二人もストレンジャーでしたっけ?」
「私は違うが、ラスティはそうだな」
ラスティは右手の袖口に付いている羽根飾りを見せてくれた。金属のプレートの留め具に、白い羽が数枚ついている。羽は本物らしく、しなやかな弾性をもって揺れる。
「これ、ストレンジャーの登録章なんだけど、翻訳機能がついててどの地域でもお話出来るんだよ」
「あぁそれでストレンジャーなんですね、知らない場所でも活動するから……」
「ギルドで簡単に登録できるよ」
「トキ君なら試験もなく登録可能だろうな」
「試験なんてあるんですか?」
「資格を得るために『守護』を手にするのが試験だ。しかしトキ君にはその守護がもう居るからな」
ん? どういうことだ?
「守護……霊? 昔占いで見て貰ったら、落武者の霊が憑いてるって言われたことあるけど」
急に胡散臭い話しになってきたぞ、まさかのスピリチュアルピーポーなのか?
恐る恐る振り返るが、特に何も見えないわけで。
「オチムシャが判らないが、……君にはクロノスという守護が付いているよ」
その言葉を聞いたラスティが興奮して鼻息荒く詰め寄る。
「えっ!? クロノスって伝説の英雄に付いてたっていう?」
「そ……そんな、凄い守護なんですか?」
「前にクロノスを守護にした人達は、皆をまとめて天使に歯向かったレジスタンスになったり、ギルド創設のメンバーになったり、みんな英雄的な活躍をしてるんだって!」
さらに目を輝かせて、興味津々に覗き込んでくる。
「いや、でも俺にも何も見えないんですけど」
「ギルドで実体化して貰うといい」
「クロノス見てみたいです!」
か、顔が近すぎるってラスティ……
「よし、そうと決まればギルドに行こうじゃないか」
そそくさと支度を始める二人、焚き火のあとを消して、俺にかけられた毛布を使って鍋や食器をうまいことくるんだ。この人たちはこんな生活に慣れてるんだなと思う反面、ストレンジャーになった暁には俺もこんな生活になるのかと苦笑した。
1日、2日ならキャンプとも言えるが、ずっととなるとただのホームレスだろう。せめて冒険者の宿があると良いのだが……。辺りを見回すも、道の回りは木々が生い茂っていて、とても宿があるとは思えない。
特に用意する物があるわけではない俺が、そんなことを考えている間に、支度は終わったようだ。
「トキ君の装備も買わなくてはいけないな」
「すみません、お金持ってなくて」
まぁ全裸だったわけですし。あ、眼鏡も無いなそう言えば……
「いや、構わないよ。必要なものは揃えよう」
「ありがとうございます」
「初心者装備なんて1000エンもあれば揃うだろう」
「えっ!? 単位は円なんですか? しかも安っ!」
「そうだよ、100リンで1エンだ」
ん? まてよ……初心者装備は100円ライター1000個って事になるのか。ってことは!
「10万円!? 高っ!!」
助けてくれたお礼も出来ていないのに、更に10万円借金するの?
「君の時代の単位とは違ったかな?
1エンは、1エンジェルフェザー……つまり天使の羽根一枚という事さ」
なまじ響きが同じなだけに混乱してしまいそうになる。それと同時に、ふと違和感を感じる……
「待ってください、確認したいんですが。魔法を使う時も鱗や羽を使うと言ってませんでしたか?」
「そうだよ、魔法は『お金を消費して使う』んだよ」
世知辛れぇ!!
世知辛いよこの魔法世界!
「次第に慣れてゆくさ、郷に入らずんば郷に従えだよ」
「その慣用句は残ってるんですね。判りました、一人では生きていけそうにないので、暫くご厄介になります」
そう言うと彼らの後をゆっくり歩き始めた。
この時代には不安要素が多い。
だが、それ以上に心の奥底で期待も膨らむ!
「なんとかなるさ」と何処かで思ってる俺が居る
だってさ、空を見上げたら
俺が知っているあの空と一緒なんだから。
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