表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/104

049話『羽が散る時』

「説明して貰おうかな」

 俺はダルトンに言い放つ。


 口から血を吹き出し、今にも息絶えそうな天使に、覆い被さるようにして抱き抱えるダルトンは、仕方なさそうに覚悟を決めた。


「……俺は、ずっと天使を研究してきた」

「ダルトン様!」

 慌てて秘書が口を挟む。


「いいんだ、この際何もかも」


 ダルトンは、フラートリスの顔を見ながら、彼と天使との関係を語り始めた。



ーーー


 ダルトンが子供の頃に、彼の父親が死んだ。

 天使に殺されてしまったのだ。

 父親は一代でハウスベルグ家を貴族にまでのしあげた名主だった。父はもともと研究者で、ハナレハサミ貝の生態から、カイフォンを発明したという偉業がある。


 ただし、人を好きすぎるあまり、天使に対立し、戦い、殺されてしまったのだ。


 ダルトンはその二の舞になるのが怖かった。


 しかし、ハナレハサミ貝の養殖も、需要が飽和して頭打ちになってきたため、上手く行かなくなってしまった。


 こうなったのも、すべて天使のせいだと、父親とはまた違った角度で、天使へ敵対心を抱いたのだ。



 結局蛙の子は蛙。

 研究者の子は研究者だった。

 ダルトンは残った私財もなげうって研究に没頭する。


 そんなおり、一人の美しい女性と出会った。

 フラートリスだ。


 彼は直ぐに声をかけ、二人は仲良くなった。

 特にダルトンの「天使」の話で二人は盛り上がった。

 天使についてなど、語ろうものなら粛清されかねないと、誰もが眉間にシワを寄せて、煙たがられていたダルトンには、この上ない理解者だった。


 フラートリスは不思議な女性で

 隔月一回に一週間程度しか、この町に居なかった。

 そのタイミングに品物を納めに来ている。

 それ以外は教えて貰えなかったが、ミステリアスな雰囲気に、逆に惹かれていった。


 今月も意気揚々と、フラートリスとの待ち合わせ場所までダルトンが(おもむ)くと、彼女がいない。

 あわてて辺りを探し回ると、街の路地で彼女を見つけた。


 誘拐紛いの、強引なナンパを軽く(ひね)った後だったのだろう。

 彼女は全身を血まみれにして、血の海に立っていたのだ。


 そのなかでも白く輝く羽根に、心を奪われると同時に、恐怖を覚えた。


「天使、だったのか!」



 フラートリスという女性。

 彼女は天使の中でも最下位に値する天使だ。

 家系は「羽拾い」と下げずまれていた。


 彼女の家は、抜け変わる天使の羽を拾い、下界の人間達に定期的に与えるしくみの一つだった。

 彼女達はスラムに住み、EH(エンジエルヘブン)の大通りなどの角に溜まった羽を拾っては、届け出て少量の金銭を貰って、その日暮らしをしていた。

 その中でも運良くフラートリスは容姿もよかったため、中級天使の宮仕えになっていた。


 といっても、部屋を掃除して、抜け落ちた羽を集めて集配所へ届けるだけで、屈辱的な日々だったことは変わりなかったのだが。


 そのうち集配所に空きができた。

 中級天使の羽を持ってくる「上客」でもあったフラートリスに、下界への運搬作業の仕事が与えられることになったのだ。


 二ヶ月に一回、地上に降りて、羽を人間に渡す。


 最初は簡単な仕事だと思った。

 わりと良い給料を貰えた。

 しかし、中級天使の屋敷に帰ると、急にクビにされてしまった、「(けが)れもの」という言葉をのしでつけられて。



 天使は、人間の世界に降りることを穢れると言う。


 大天使や力天使レベルの者が、粛正(しゅくせい)で降りるときは、みな褒め称えると言うのに、階級の無いものは、下げずまれるのだ。


 そうして、フラートリスは穢れものとしてまたスラム暮らしに戻った。


 しかし、運搬の仕事は続けていた。

 一度穢れてしまえば、何度でも同じだといわんばかりに、暗闇に落ちていったのだ。



ーーー


「こうして二人は出会った」

 ダルトンは虚ろな目で天井を見続けるフラートリスの頭を撫でながら語る。


 天使の世界も、結局人間と同じで腐っているのか。

 いや、少し違うな。

 天使の世界は「昔の人間」と同じなんだ。

 500年前は人間も似たようなものだった。


 苦境を強いられているからこそ、現代の人間は絆が強く感じられる、助け合いが身に付いている。


「甘い……わね」

 息も絶え絶えに、フラートリスが呟く。


「私は、貴方を……ゴボッ!……利用しようと、していただけ……なのよ」


「しゃべらないでくれ、頼む」


「どうせ……死ぬわ。私は……あの生活から抜け出したかっただけ……。人間の、ダルトンの、反天使思想を、報告し……貴方の首を持ち帰れば、羽拾いから抜けだせ、ゴボッ!」


「そうだとしても、私は君の事を好きになって良かった、そうでなくては私はあの時終わっていた」


 父の築いた地位と財産を食い潰し、身近な人間達にも白い目でみられて、彼にも居場所がなかったのだろう。


「お互い……利用していただけ、なのよ。私の事は忘れて。貴方の実験材料にでもして」


 そういうと、フラートリスは力無くその手を地面に落とした。

 そしてそれは二度と上がることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ