048話『人を超越した存在』
バッシュはフラートリスよりも早く動いていた。
ダルトンへ刃物が届く前に盾がその刃を弾くと、火花が散り、高い音が響く。
「ちくしょう!」
その美しい顔から出るとは思えないほど、強い言葉で吐き捨てた。
「させるかよ」
俺は飛び込んで、フラートリスに《組付き》を発動。
しかし、町女ではあり得ない動きで組付きを外すと、部屋の端まで飛び退いた。
「こいつだ! こいつが俺の命を狙ってるんだ!」
ダルトンが叫ぶ。
「何がなんだか」
そういいつつもウノを始めパーティメンバーは、武器を取り戦闘態勢を整えた。
「やはり、この姿ではろくに動けないな」
フラートリスはそういうと、マントを外した。
白い服の背中から、さらに光るような羽根が生えてきた。
「天使だったんスか!」
「さぁて、黙ってはやらせないぞ」
俺も落ち着いてセスタスを構え直した。
「ピノ、ウォーターアーマー2倍掛けだ、バッシュ前に出てくれ」
「行くッス!」
ピノは魔法袋を二つ取り出すと、ウオーターアーマーを唱えた。
「ウノ、ダルトンの前から攻撃、フィオナちゃん最大出力」
そして俺はバッシュと同じように前に出る。
「やるぞ!」
「バカが! 天使である私に勝てると思っているのか!」
「やってみないと分かんないだろ?」
俺は先手必勝、隠し武器のミニクロスボウを放った。
矢は体の中心を狙って飛んだ。
今回は、とりあえず当たりさえすればどこでもいい。
「バカめ!『オーブームテスタ』」
キャストだけで、フラートリスの回りに丸いバリアが発動。
矢が当たった瞬間に、ヒビが入り消えた。
ウノは俺の矢の発動中に移動し、ダルトンを守る形で矢を放った。
矢はフラートリスの肩に刺さるが、大きなダメージは出ている感じがしない。
バッシュは待機している。
そのうち、フィオナちゃんの準備が整ったようだ《強打lv2》《溜め切りlv2》を発動する。
スキルを強化したお陰で、かなりの威力になっている筈だ。重さ30kgはあろうかという、斧頭がフラートリスに襲いかかる!
「バカが、『オーブームテスタ』」
またあの白いバリアが現れて、一瞬攻撃を止めると。
またすぐに消え去った。
「一度の攻撃で魔法を2回も!」
メンバーの表情が強ばった。
無詠唱で魔法を使うこともだが、一回の行動で2回の詠唱をすることなど無理だ。
「私が天使だと言うことを忘れるなよ、『フラルゴフランマ』」
フラートリスは両手を前に出し、手を合わせる。
その中に赤く光る球体が出来たと思った瞬間、破裂した!
炎系の範囲攻撃魔法!
目を覆うほどの、光りと共に、肌を焼く熱がどんどん上がるのが分かり、灼熱の炎が一瞬で回りを焼きつくす。
ガラスは吹っ飛び、ベッドは燃え上がっている。
かなりの火力だ。
「貴方達甘く見すぎよ!」
光が収まると俺たちの前に、ダルトンの秘書が居た。
「次は防げないわよ! 逃げなさい!」
「魔法を一度に三回も使うなんて」
ピノは愕然としている。
特に最後の魔法など、ちゃんと当たれば一発で終わってしまうかもしれない。
「ピノ、ウオーターカーテンだ!」
「でも、あれは3行詠唱で……」
「やれ!」
さて、まだ終われないよな。
「信じてくれ、他は同じでいい! 行くぞ!」
「逃げないのかお前達? バカだな」
俺は待機して、ウノが弓を引き絞る。
バッシュは待機、ピノは詠唱を始める、フィオナちゃんは最大火力を狙う。
「遅すぎる、遅すぎるぞバカ亀どもが!」
かぶりをふって高笑いをするフラートリス。
「ええい、本当にバカどもが!」
秘書が短刀を取り出し、飛びかかるが。
『オーブームテスタ』
またもや、バリアに弾かれてしまう。
「ウノ!」
ウノは戸惑いながらも、矢を放った。
時間差で俺もフラートリスとの距離を詰める。
「タックルとは小賢しいな『アルボスルームス』」
今度はフラートリスの足元から、白い輪郭をもった透明な壁が沸き上がる。
俺の体と、ウノの矢が弾かれた。
さっきの魔法よりも、出現時間が長いようだ。俺は弾かれて、手前に尻餅をつく形になった。
「ふふふ、無様だな。捨て身の体当たりも矢のおまけで止められてしまうとはな。後はその小娘が攻撃すれば終わりなのだろう?」
余裕綽々で、フィオナちゃんを見ている。
フィオナちゃんは蛇に睨まれた蛙のように固まっている。
「やれっフィオナッ!」
俺はこれまでに無い大きな声で激を飛ばす。
フィオナちゃんは弾かれたように、溜まった力を振り絞り一撃を放った。
『オーブームテスタ!』
先ほどと同じように、丸い卵の殻のようなバリアが発生し、こちらの最後の手である、フィオナちゃんの最大の一撃も、弾かれてしまった。
『スチルヒート』
バン! っという音と共に、フラートリスの右胸に血の花が咲く。
背中へ抜けたのだろう、右の羽根ももぎれ落ちた。
場が凍りつく。
状況を理解できたものは殆どいない。
フラートリスだけは俺の動きについて驚愕している。天使ならともかく普通の人間が、二度も動けるのかと。
「き、貴様っ……既に私に体当たりをしていた筈!」
「俺は近づいただけさ。攻撃はしてなかっただろ?」
近づいた所をバリアにぶつかっただけで、まだ攻撃した訳じゃない。余裕のある俺は、攻撃の瞬間を待っていたのだ。
「いまだ! 畳み込むぞ!」
俺の言葉で、火がついたようにパーティは動き出す!
ウノは一番に弓をつがえると、矢を放った。
まだたじろいでいるフラートリスは、その矢を左ももに受け、膝をつく。
同時に走り出したバッシュ。
「『盾殴り』ッス!」
辛うじて左腕で受け止めたフラートリス。
秘書も双剣で攻撃を繰り出す。
『オーブームテスタ!』
少し冷静を取り戻したのか、ぎりぎりで魔法が発動。
「行きます! おりゃぁぁああ」
フィオナちゃんが、とどめの一撃を放つ。
『アルボスルームス』
白い輪郭の壁が現れ、その武器を弾く。
しかし、その壁が直ぐに壊れたのを見逃さなかった。
俺は左手のミニクロスボウを掲げて、狙いをつけた。
「バカバカ言いすぎだろうバカ」
発射された矢が飛ぶ。
『アルボスルームス!』
絞り出すようにフラートリスが叫ぶ。
しかし、矢はフラートリスの喉に突き刺さる。
「ゴボッ!」
喉から血がでて、溢れている。
これでは詠唱は不可能だろう。
「片方の羽根を無くしたせいかな? 実力の半分しか出せなかったみたいだな」
俺はセスタスを構えてとどめの一撃を放とうとした。
「待ってくれ!」
その言葉は思いがけないところからだった。
「待ってくれ、殺すのは……」
それはフラートリスのターゲット。ダルトンから発せられた言葉だったのだ。




