046話『確執執事』
「みっともないところをお見せしてしまって」
全くだ。
老齢の男性を後ろでに縛って、号泣させる趣味はない!
「貴方は誰なんですか?」
ピノもだいぶ回復し、落ち着いたところで、フィオナちゃんが改めて聞いてくれた。
こんなところでも彼女は距離感が近い。
「私は代々ダルトン家の執事をしている、ロバート=タッセルホフと言うものですよ、泥棒様」
「執事さんだったんですね」
フィオナちゃんは戦っていないから知らないだろうけど、この人スゴかったんだぞ。
「だったらダルトンの研究の話も知ってるんじゃないか?」
俺は腕を組んで、タッセルホフに問い詰める。
「あなた方の目的次第ですね」
「言ってくれる可能性はあるわけだ」
と言うわけで、取り敢えずフラートリスの依頼を伝えた。
「研究の事について、知っている事はあるか?」
「知っておりますが、お答えできません」
「どうしてもか?」
「ダルトン家の存続に関わる事ですので」
何かしらの違法行為をしているのは明らかだが、証拠はまだ無い。
ウノは書斎の中を隈無く探しているが、古代兵器関連の書物も、書類も見つからない。
「代わりといっちゃなんですが、天使についての伝記や、生態を書いた本が多いのが気になりますね」
天使との繋がりでもあるのか、もしくは天使に仇無そうとしているのか?
「私のお父さんはどこなの?」
フラートリスが詰め寄る、イライラした感じがする。
端正な作りの顔をしかめて、口調を荒らげている。
「私が知る限り、そのような者が囚われている話は聞いたことがありませんな」
「そんなことあるはず無い!」
必死だ。
「そんなに怒っては美人が台無しですよ」
冷静でなければ、聞き出せない情報もある。俺はフラートリスを手で制して聞く。
「執事の貴方にも言わなかったという事は?」
「それは、あり得ますな」
主従関係はしっかりしているが、当代とは上手く行っていないのかもしれない。
「では、ダルトン本人に聞こうか」
わざと口の端を曲げて嫌な感じで言うが。
「それが良いでしょうな」
と返ってきた。軽く脅したつもりだったんだが。
「上手く行ってないのかと思ったが、嫌いだろダルトンの事」
「嫌いですな」
「素直すぎだ」
「隠せとは言われておりませんので」
ふむ。
「じゃぁ、ダルトンの居場所を教えてくれないか?」
「ダルトン様は今、ジョロモの隠れ家にいらっしゃいます」
言ったよ。
そして噂通りか、ダルトンはジョロモに居たと。
安全だと思ってオアシスで情報収集しなかったが、すべて裏目に出たな。
考えもしなかった。
「ていうか、なんでジョロモにいるんスか?」
落ち着きを取り戻して、いつも通りに戻ったようだ、キレた時結構怖かったんだが? 殴られたの謝ってもらってないし。
「ダルトン様は2週間前に命を狙われたのです、それで隠れ家に行っておられるのですが。貴殿方とは関係ないようですな」
「ああ、俺たちは昨日この街に来たばかりだ、関係ないだろう」
さて、ややこしくなってきたな。
ウノに目配せすると、頭を振って戻ってきた。
「古代兵器の資料はありませんでしたね」
今までの話の流れ的に、あまり期待はしてなかったが。
「さて、最後にだが。ダルトンの居場所を教えて貰えるかな?」
「はい、机の上に地図があるはずですよ」
「本当に貴方はダルトンが嫌いなんですね」
「先代への恩がなければ出ていっておりますね」
どんだけだよ。
俺たちは、執事を縛ったまま部屋を出た。
みんなには、壁の穴に待機して貰って、俺は女中部屋に寄った。
「なんかスゴい音がしてたけど大丈夫?」
落ち着いたもんだな。
「はい、侵入者がいまして、書斎に潜り込んだようですが、追い払いましたよ」
「どうせ私たちは関係ないし、行っても怪我するだけだもん、助かるわー」
かといって無視を決め込むなんて。
ダルトンは嫌われてるなぁ……
「俺は犯人を追いかけますので、書斎で縛られているタッセルホフさんを、助けてあげてください」
「えー、タッセル様が捕まってるの? 行かなくて良かったー」
「じゃぁお願いします、では追ってきますので」
「はーい、じゃーね」
俺には妙齢の男性を縛っておく趣味はない。
追ってくることもなさそうだけどな。
取り敢えず、情報を整理してジョロモへ帰るとするか。




