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042話『準備万端』

 みんなは半信半疑のまま、取り敢えず砂漠の入り口まで来た。


「テッテレレッテ、テーッテテー」


 と言いながら、俺は台車積まれた荷物の中から、さらに台車を3つ程取り出した。


「今のテッテレーってなんなんスか?」



「22世紀のロボット……って言っても、知らないよな」


 むしろ今は27世紀とかだろうが、ロボットのロの字もない。


「気にしないでくれ」

 そう言いながら、台車を四台組み立て始めた。

 そして前に当たる2台の、持ち手部分に棒を取り付ける。棒には丈夫な布が張ってある。


「砂上ヨット~」

 ダミ声で完成を伝える。


 ようやく、俺の移動手段が理解できたらしい。


「フローティングボードに帆をつけて、風を受けて進む船ですか!」

 ウノも目を輝かせている。


「こいつにフォローウインドをかければ、一気に砂漠を突っ切れるぞ」


「考えたことも無かったです」

 みんな感動している。


「さぁ、もたもたしてないでさっさと乗ってくれ。ピノちゃん、一人分くらいのフォローウインドで良いからね」


 もともとフォローウインドは人を浮かせるための風の方が、進む風よりも多い。

 フローティングボードで初めから浮いている物体なら、少ない魔力で進むだろうという考えだ。

 しかしこの方法は限られた条件でしか発動しないのが問題だ。

 木々の間を抜けるほど精密な動きは出来ないし、他人に見られたら簡単に真似されるが、まだ自分のイニシアチブとして占有しておきたい技術だ。


 この砂漠を通るものが居ないこともひとつの条件だった。

 それが満たされているからこその御披露目だ。


 もちろんタダとはいかない。

 しかし、そのためにもフラートリスから前金でいくらか貰っている。あとは俺のへそくりでなんとかなるだろう。



ー風さん風さん

  ちょっとお願い

   私の背中を押してくれー

「フォローウインド」


 抵抗もなく、するすると動き始めた。

 帆の方は固定してしまったので、微調整をピノに任せる作りになったのは誤算だったが、だんだんと加速し、時速で言うと70キロくらいは出てるんじゃないかと思える。


 通常ラクダを引いて歩く場合は4キロがせいぜいだが、その約20倍で進むのだ。その日の午後には、一週間の道のりを一気に飛び越える事が出来た。この早さなら寒暖差も関係ない。


「思ったより早く着いたな」

 消費エンもわりと安くついた。

 カブトとの戦闘の際に、カリンが使ったこの魔法では500エン程度かかったといったが、今回は一人分を3時間なので、ちょうど1000エンくらいだ。


「やばいっス、マジぱないッス」

「ナイッス」

「私少し気分悪いです」

「これは革命的な発明ですよヤツハシさん!」

 フィオナちゃんは船(?)酔いしていて、可愛そうだが、総じてリーダーとしての資質は見せ付ける事が出来たと思う。

 もっと崇め讃えよ!


 いい気分だし、予定より安くすんだので、早めの夕食をみんなに振る舞った。


「やばいっスマジぱないッス」

「パナイッス」

「食べ過ぎで気分が悪いです」

「これは革命的な美味しさですよヤツハシさん!」


「さっきと賛美の言葉が変わらないんだが?」


 あれってたぶん凄いことなんだけどな……

 今のうちにパテント取っておけば大金持ち確定なんだが?

 まぁいい。喜んでるなら。

 我を讃えよ!


 と、落ち着いたところでカイフォンが鳴る。

 もともとウノピノが、持っていたカイフォンの片割れを、フラートリスに渡していたのだ。

 このカイフォン、離れすぎると使えないのが欠点で、馬車で1日程度離れてしまうともう無理だ。

 ジョロモの街なら端から端でギリギリ届くかなって程度の電波強度らしい。高いのに中途半端な性能だ。


「フラートリスです、今どちらですか?」

「もうオアシスに居ますよ」

「どんな魔法を使ったんですか? こっちは昼夜馬で走り通したというのに……」


 依頼者にはこちらのプランは話していないので、3日遅れで出たことは知らない。それでも早馬移動が最速と考えられるこの世界では、それより早いのはテレポーテーションくらいのものだろう。もちろん理論だけで実現しない魔法だが。


「万事抜かり無く」

 とお茶を濁して、依頼者の到着を待つ事にする。



 宿にお願いして、空き部屋を会議室にさせて貰い、到着した依頼者に作戦の概要を告げる。


「夜になったらダルトンの屋敷に侵入します。屋敷には地下があり、そこで秘密の実験が行われていると聞きますので、彼の悪事を露見させる証拠も見つかるはずです。もちろん貴女のお父様の居場所も聞き出さないといけません」


 即時決行にフラートリスは驚いたが、何より早く父を助けたいと、納得してくれた。


「俺とウノ、バッシュとピノで別れて侵入、後発でフラートリスさんとフィオナちゃんが入ってきてくれ」


 ウノピノは前衛あってこそ、力を発揮するタイプだ。

 フィオナちゃんなら一人で敵を倒せるし、通常武器なら鎧の防御力で緩和できる。あのビキニアーマーは見た目以上に性能が素晴らしい。


 あとは元護衛のストレンジャーから書いて貰った屋敷の内部図を元に、侵入経路を打合せして、夜を待つ。

 まだ彼らは侵入される事すら知らないだろう。

 一気に攻め落とせばなんとかなるはずだ。



 そうそう、先のホブコボルト達の戦闘で、ランクが上がったのを報告していなかった。


 俺はレベル12になり、ランクが1に上がった。

 フィオナちゃんも10になり、ランク1。

 ウノも10、ピノは10、バッシュは9だ。


 ランクは受けれるクエストが増えるだけで、戦闘に直接関係はないが、守護には大きな変化があった。


 フィオナちゃんの守護は風、ランクが上がる前までは見えなかったが、ランクが上がるとその辺の葉っぱを、小さな竜巻でくるくる回して遊んでたりする。

ウノも守護が風だが、こっちはそんなことはしていない。時折ウノの髪をフワッと撫でたりして、存在を感じるくらいだ。

守護にもそれぞれ性格があるらしい。


 ピノの守護はランクが上がる前から見えていたが、ぽよぽよした水球だったものが、少し人型に近づいた気がする。ぴ○ょんくんみたいな感じだ、言ってもわからないだろうが。


 まだレベル9のバッシュの守護に変化はない。

 小さな炎がチラチラと燃えているだけだ。


 そして俺の守護、クロノスは

 懐中時計から掛け時計みたいな形になっている。

 まだパワーアップは感じないが、取り敢えず大きくなったのは確かだ。


 それぞれスキルも追加し、より実戦的な仕様になっているが、これは追々説明するとして。



ーーそろそろ行くか。

 夜が訪れた。

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