041話『情報戦』
翌日には既に出発の準備ができていた。
といっても旅の準備ではない。まずは下地を作るための準備だ!
昨晩は、この世界の唯一の「罪」である、古代兵器に関わる案件だと知って、みんなは一旦たじろぎはしたが。俺の懸命な説得により、折れてくれた。
「ここで天使に媚を売っておけば、後々プラスになる」
とか言ったかもしれない。適当なことを言いすぎて詳細は覚えてないが。
本心としては、この時代の最先端の「科学」がどこまで進んでいるのかを、この目で見ておきたかったのもある。
また、兵器に関しても魔法で転用できるような技術があれば知りたいと思った。
そんなわけで行くことを前提に、俺の家で作戦会議を行った。
もちろん依頼者は抜きでだが。
「ところで、オアシスの街ってどこにあるんだ?」
みんなはぎょっとした目で見てくる。
周知の事実という事なのだろう。
俺は田舎から出てきたという設定なので、フィオナちゃんがしっかり教えてくれる。
「ジョロモから西に行くと大きな砂漠があるんですが、その砂漠の中にある街ですよ」
「ヤツハシさん本当に知らないんですか?」
ウノはあきれた感じで聞いてくる。
「ヤバイくらい田舎だったんスね」
「タンスネ」
「オアシスって言ったら、東方最大級の都市のひとつですよ。カイフォンの産地でも有名なんです」
フィオナちゃんだけ優しい。しみるわー。
「それで、ここからどのくらいで到着するんだ?」
「まっすぐ砂漠を突っ切ると一週間、砂漠を迂回すると二週間くらいかかっちゃいますね」
この時代の移動は基本は歩きか馬だし、魔法使いのイメージで箒にのって空を飛ぼうなんて考えたら、エンがいくらあっても足りないだろう。
砂漠を突っ切るとなると、ラクダに荷物を背負わせて移動するイメージで大体あってるらしい、もちろん馬車は牽けない。
砂漠の南側は、森が続いており、商隊のキャラバンが行く道が続いているので、馬車でも行ける。
北側は、大きな川が通っており、水路で向かうことができる。
どこを通ってもかなり時間がかかる移動になりそうだ。
こんなことなら、商隊護衛の依頼でも一緒に受けておいても良かったかもしれない。
ここで、気になったことを聞いてみる。
返答次第では、解決する方法があるかもしれない。
「砂漠ってことは、起伏が少なくって、見晴らしの良い感じの所なのかな?」
「そうですね、砂地の砂漠で、昼夜の寒暖差が激しいと聞きます。あと、荷馬車等は通れないので、商隊になると迂回路しか選択肢がないそうです」
「じゃぁ、砂漠を横断するのはなかなか困難なんだね」
「迂回路が整備されてますし、よほど急ぎの方でないと横断を決行することはないでしょうね」
ふむふむ。かなり俺が欲しい条件に近いな。
「良し、では砂漠の横断航路で行こう」
またもやみんながぎょっとした目で見てくる。
「ヤツハシさん、話聞いてました?」
「プレートアーマーで灼熱はきついッス」
「イッス」
「大丈夫だ、俺には秘策がある」
といっても非難の目が降り注ぐ。
頼りにしてくれ、俺はリーダーなんだぞ?
「さて、移動手段はさておき、今回の依頼のスタンスについて話していこう」
少しみんなに緊張が走った。
先程言いくるめはしたが、この時代の天使の絶対的な力は、俺の想像以上なのだろう。
「大丈夫だ、俺達はむしろ、その違法者を退治する側の人間なんだ、誉められこそすれ、罰を受ける謂れはないはずだろ?」
「そうですが、その武器を使って抵抗されたりしたら、どう対処して良いか判んないですよ」
ウノが珍しく弱気だ。
確かに銃は無知なものには驚異だ。発動条件もなく、目に捉えられない早さで、魔法が飛んでくるようなものだから。
「俺も怖いが、研究しているというのと、実戦配備されているのでは大違いだ。だからこそ今回は急襲を掛けるのに意味がある」
ここで俺の話を纏めると
まず明日からこのジョロモで情報収集をする。
幸い、いまこの街はスタンピート注意報により、あちこちのストレンジャーが屯している。最大級都市というなら、その情報も沢山あるはずだ。
しかし、情報収集にはひとつ欠点がある。
相手方に「情報収集している者がいる」という情報が伝わってしまうことだ。だからこそ、こちらの街で先に情報を収集しておいて、オアシスへと向かう事が大事になってくるのだ。
「俺達が現地で情報収集を行えば、当然警戒されるだろうし、見張りまで武器を持つかもしれない」
「警戒される前に急襲するんスね!」
「その通りだ」
しかし、ウノは納得できないようだ。
「相手もバカじゃないですよ、攻めることが判ってしまったら、早馬で情報を伝えるはずです。迂回路といっても、馬で駆ければ4~5日でついてしまいます。砂漠を横断しても、先に着かなきゃ意味がない」
「だな、そこに俺の秘策があるんだよ。出発当日には話すから期待しておいてくれ」
詳細は言わなかったが、一応信用はあるみたいだ。
黙ってみんな従ってくれた。
翌日から俺達は全員でバラバラに情報収集を始めた。
猶予は3日間。
フラートリスには、早馬を雇って一足先に現地に向かって貰った。俺達が到着するのと同時くらいにフラートリスと合流できるようにだ。
商人からストレンジャー、オアシスに野菜を売っている農家にまで話を聞いて回った。
ウノは知り合いの情報屋まで当たってくれたので、ずいぶん濃い内容が手にはいった。
貴族の名前はダルトン=ハウスベルグ
オアシスの共同出資貴族の一員だ。
彼の家は、カイフォンの養殖で勢力を増した貴族だそうだ。
現代版スティーブ・○ョブズだな。
しかし、最近はその売り上げも頭打ちで、新しい事業に参入する事を考えているらしく、世界中から技術者や研究者を集めていると噂されている。
彼の邸宅はとても大きく、要塞のようになっていて、ストレンジャーの手練れを傭兵として雇っている話もあった。
次の日には、情報源の中に以前彼の下で働いていたストレンジャーがいたので、大金を握らせたら簡単に色々教えてくれた。
商売っ気の強い人間で、仕事のわりに金払いが良くないのが気に入らず、辞めてきたというのだ。
カイフォン事業の衰退は彼にとって痛手なのは間違いなさそうだ。
ストレンジャーはペラペラと屋敷の場所や、その地下に研究所があることまで話してくれた。
ダルトンの悪事の証拠を押さえるにはここを攻める以外は無いだろう。
最後に「あんなケチなやつとっちめてしまえ」と悪態をついていたところを見ると、冷遇されていたのだろうというのがうかがえる。
さて、情報は思った以上に揃った。
あとは乗り込むだけだ。
情報を集め始めて4日目の朝、俺達は旅支度をして街を出た。
5人分となると、わりと大荷物になったが、雑貨屋で買った台車が役に立った。
半日かけて歩くと、木々がまばらになりはじめ、とうとう左右に分かれ道があるだけで、まっすぐ行く道はなくなった。
「右へ行くと北の川で、左が森の迂回路ですよ」
さすがのフィオナちゃんも心配そうに見ている。
「まっすぐ、砂漠に向かおう」
そういうと、うっすらとしかない真正面の道を分け入る。
「砂漠の横断にラクダも居ないんスか?」
荷物はこの台車に乗せてあるが、動物などは連れてきていない。みんなは不安で仕方ないという風に、むしろ半ば呆れ気味についてくるが。
大丈夫だ、ここを一気に抜ける方法が俺にはあるんだから。
信用してくれ
いや、まじで。




