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040話「フリークエスト」

 ギルドから『スタンピート注意報』が、出されてから一週間。人は減るどこか、むしろ増える一方だ。

 ギルドは大抵満席で、テーブルには誰かしら座って飲んだり、情報交換に勤しんでいる。


「スタンピートは、奴らにとって大量のお金と経験値を得るチャンスなんだよね、だから注意報が出たらどっからか湧いてくるんだわ」

 不機嫌そうにチャコさんが教えてくれた。当然カウンターは大忙しだ。この人はよく「仕事したくないわー」と口癖のように言っているから、いまの状況は不満なんだろう。


 お陰で俺達若輩ストレンジャーにも皺寄せがきている。

 レベルの高いストレンジャーも、その日の日銭を稼ぎたいから、街の回りのモンスターを狩って回ってる。

 お陰で周辺はめちゃくちゃ平和にはなるが、俺達のようなストレンジャーに討伐クエストは回ってこないのだ。


「まいったな、これが長いと数ヵ月かかるんだろ?」

 俺はため息を付きながらみんなと話している。


「そうなんですよ、だから俺達レベルのストレンジャーは周辺の街に散ったりしてやり過ごすんですけど……」

 ウノが少し申し訳なさそうに言う。


「ううん、大丈夫、ウノちゃんの仲間はきっと生きてるから、もう少し情報をまってみようよ」

 フィオナちゃんが優しくなだめる。



 あの探索のあと、ランク2のストレンジャー隊が編成されて、あのアジトに潜入したが、やっぱりもぬけの殻だったそうだ。

 中は思ったより広く、祭壇や牢屋などの施設もあったらしい。

 祭壇があるということは、ホブより上位モンスター、コボルトシャーマンがいた可能性は高い。もちろんそれをまとめる役がいた可能性もある。

 突入しなくてよかったと心から思う。


 牢屋があるということは、何かを幽閉していたということだ。そこにウノ達は望みをかけている。


「期待が薄いのはわかってるんですけど、でも生きてなくてもせめて弔いはしてあげたいのです」

 ピノもこの話になるとトーンが暗くなる。


「考えても仕方ない、やれることをやろうぜ」

 仕切り直しながら俺は、片手間に紅茶を入れている。勝手知ったる俺の家……もとい、タブラから預かっている家だ。

 いまは応接間に集まっての作戦会議をしている状態。


「しかし、ヤツハシさんには助かるッス。宿代が浮くだけでもありがたいっスよ!」


 結局、財政難のためにメンバー全員に宿を貸している状態。

 フィオナちゃんだけは、孤児院に部屋があったのだが、他の全員が一緒ならと、こっちに来てもらっている。


 宿代を節約しながらではあるが、やはり貯金は目減りしているのが現実だ。


「しかしこう、毎日毎日探索クエストばかりではじり貧だな」

 俺は辟易(へきえき)してきていた。戦闘狂というわけではないが、早く試したい戦術もあるし、新しい武器も使ってみたい。探索では実入りが少ないのも不満だ。


「それでは、フリークエストなんてどうでしょう?」

 フィオナちゃんが口を開く。

「フリークエスト?」


 確か、パーティ募集掲示板のところにあった、コルクボードのクエストだ。


「はい、ギルドで扱うには期限が長いものや設定されてないもの、もしくは敵勢力が不明で危険度の確証に欠けるもの、もしくは個人的や内密に進めて欲しい案件などがありますね」


「商隊護衛なんかのクエストはあっちに張り出されてますよ」

 ウノもてきぱきと答えてくれる。

 俺より10歳近く下じゃないだろうか、とは思うがこの時代では先輩だ。


「取り敢えずみんなで見に行ってみようか」



ーーギルドは今日も賑やかだ。

 これで『スタンピート警報』が出たりした場合は更に増えるというから驚きだ。


 俺達はまっすぐ奥にある掲示板へと向かった。


「お、商隊護衛クエストいっぱいあるッスね!」

 確かに護衛クエストが多い。


「今は入ってくるストレンジャーは多くても出ていくストレンジャーは居ないですし、街の周辺の酪農家が、避難したいんだと思います」

 ウノが冷静に分析するが、その通りだろう。


 モンスターの大群が押し寄せれば、辺りの酪農や農家の方は蹂躙(じゅうりん)されてしまうのは目に見えている。

 もしかしたら街を落とすための拠点や食料庫として、利用されてしまうかもしれないのだから。


「彼らを助けてあげたい気もするが」

「大丈夫ですヤツハシさん、いざとなったら普通に逃げていきますよ、周辺のモンスターは居ないんでなんとかなりますよ」


 俺達は保険がわりと言うわけか。

 実際、報酬も五人で分けたら雀の涙だ。

 帰りの移動も考えれば探索クエストより割りが悪い。


「だいたい、商隊護衛なんて、他の街に行きたい時についでにあれば良いなって程度でしか選ばないッスよ」


 そんなもんか、しかも行っても帰りの商隊クエストがなければ、片道分の移動は自腹だからやるだけ無駄か。


「あ、このクエストなんかどうですか?」

 フィオナちゃんが一枚の紙を指差す。


「人探し系っスね。5人で探せばすぐ見つかるんじゃないッスか?」

「だが報酬の欄が記入されていないぞ?」


 紙には依頼人の名前と、泊まっている宿と、募集期間しか入っていなかった。

「内容は、聞いてみなくちゃわかりませんね、その時に報酬も交渉するしかないんですよ」


 俺は悩んだが、他に目ぼしいクエストもない。

「しかたない、これはこれで勉強だ」


 俺はその紙をコルクボードから剥がした。

 剥がしておかないと依頼が被る恐れがあるので、こういった慣習になっている。不履行の場合や決裂した場合は、責任もって張り直しに来るのがマナーだ。


 まぁ、人を探すだけで、マイナスになることはないだろう。

 取り敢えず、その日のお金だけでも稼げればいいや。


 この時はそう軽く考えていたのだが……




 ギルドから、歩いて20分程度のところに、その宿はあった。

「店員さん、フラートリスって客は泊まってないか?」

 俺は依頼書を読みながら、宿屋の店員に話しかける。


「はい、奥の204の部屋にいらっしゃいますよ」


 ギシギシと音を立てる木の階段を、みんなで上がる。

 これでもわりと良い方の宿だ。

 金属鎧のバッシュだけ遅れて上がってきてもらったが。


 コンコンとノックすると中から返事が帰ってくる。

「どなたですか?」

 透き通るような女性の声だ。


「フリークエストを見て来ました」

「どうぞ、お入りください」


 ドアを開けて、みんなもそれに続いた。

 そして彼女の容姿を見て、俺は衝撃を受けた!


 白髪に白い肌、白いフワリとしたワンピースに、憂いのある鳶色の目。全身から光を放っているかのような印象だ。

 他の男性メンバーからもゴクリと生唾を飲む音がする。


「いててて、痛いッス!」

 ピノがバッシュのほっぺをつねっている。


 俺達も我に帰り、取り敢えず部屋の中まで入ることにする。


「アンジェリカ=フラートリスと申します、人数分の椅子がないので立ったままでお話失礼します」


「私は八橋時彦、このパーティのリーダーです」

 お互いにお辞儀をして、仕事の話を始める。


「フラートリスさん良ければお座りください、私達は構いませんので」

「ありがとうございます、今回の依頼の件ですね?」



 依頼内容はこんな感じだった。

 探して欲しいのは父親。

 貧しくも研究者として頑張っていた父は、オアシスという街の貴族の目に留まり、ようやく引き立てられた。毎月の仕送りと共に手紙が送られてくるのが、彼女の楽しみだった。

 しかし、ある手紙を最後にぱったりと音信不通になってしまう。

 その最後の手紙には「俺はこんな事のために力を貸していたんじゃない、もう耐えられない」と綴られており、研究所を逃げ出す決意等が書かれていた。


「しかし父は戻らず、捕まって居るのではないかと心配で」

 今にも消え入りそうな声で話すフラートリスについつい同情してしまう。


「話は判りました、私達はそのお父様を見つけ、可能であれば救助するところまでを依頼されているのですね?」

 ここは仕事だ、私情を挟むとろくなことはない。

 特に美女を挟むと本当にろくなことはない。


「いえ、出来れば私も同行したいのです」

「護衛しながらの依頼遂行が条件ですか」


 ここは悩みどころだ。

 見たところ彼女は一般女性、戦闘に巻き込まれるとひとたまりもない。

 しかし、相手は研究者に非人道的な扱いをする輩だ。ストレンジャー崩れの用心棒なんかが出てくる可能性も捨てきれない。


「父の顔は、私じゃないと判りません」

 カメ石の記録も無いらしく、連れていかない場合判断のしようが名前くらいしかなくなる。


「報酬次第ですよ」

 ウノがしびれを切らして声を出す。

 彼女にとって最後のカードだ。

 俺としては真偽を確かめる情報をもう少し引き出せたらと思ったのだが。


「お金なら、あります。父が毎月仕送りしてくれていたお金をできる限り貯金していたので」

 そういうと、フラートリスは奥の箱から大量の羽を引っ張り出した。

 軽く3000エンはあるだろう。

「必要であれば、ギルドにまだあります」

 必死に訴えてくる、よほど父を助けたいのだろう。


「報酬はわかった。少し相談させてくれ」

 そういうと退席し、宿の一階のテーブルで相談をした。


「報酬は充分だが、みんなの意見を聞きたい」


「お父さんを助けてあげたいッス!」

「私も、お父さん可愛そうです」

 ピノとバッシュは乗り気だ。


「俺はいまいち信用しきれませんね」

「というと?」

「逆に破格過ぎる。敵の正体も規模もわからないのに、あれだけの金額に釣り合う内容だっていうなら逆に不安でしょ」


 まったくその通りだ。

 お金が良いからと飛び付き、仲間を危険に晒すのはリーダーとして失格だ。


「依頼の価値が判っていないのでは?」

 フィオナちゃんの意見も一理ある。どっからどう見てもか弱く儚い村娘だ、ギルドを通さない仕事をポンポン頼むタイプのキャラクターではなさそうだ。


 結局、散々みんなで意見を出した結果。

 全員が俺の顔を見る。


 そりゃそうだろうな。リーダーだもんな

 俺は決断を下し、フラートリスの元に戻った。


「お待たせしました」

「受けて頂けるのでしょうか?」

「はい、しかし条件があります」

「条件ですか?」


 料金の一部を前払いで、活動資金に当てること。

 急いで探してあげたいが、まずは敵の規模の調査から。場合によっては、フラートリスは同行を拒否させてもらうという事。

 そして……


「お父上はどのような研究に従事されていたのですか?」

 これを聞かないことには判断しかねる。


「父は……古代兵器の研究をしておりました」


 メンバー達の、顔色が一瞬で変わる。

 これはまずいことに首を突っ込んでしまったかもしれない、と。

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