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039話『報告の結果』

 案の定、何の問題もなく敵の隠れ家まで、たどり着くことができた。


「単細胞は扱いやすいな」

「ですね」

 木からウノが降りてきた。

「で、これからどうするんです?」


 それが問題だ。

 基本は二択ーー

 ひとつは、斥候が状況を伝えて、先ほどの虐殺現場まで追加の部隊が派遣されるのを待ってアジト中に入るパターン。

 もっとも強い敵が中にいた場合、収穫が無くても撤退を余儀なくされるだろう。


 もうひとつは一旦ギルドに持ち帰り、強力なストレンジャーに助けを求める選択肢。

 しかし、こちらの勢力が整う前に、このアジトを引き払われても困る。


「悩むなぁ」

 どっちにしろ、一旦敵が出ていかないと話にならない。


 しばらく待っていると、洞窟の中からコボルトが出てきた。一匹だけだ。


 手にはコボルトの首を二つぶら下げている。



「ーーよし、急いで帰ろう」


 俺は(きびす)を返した。

 青ざめたウノ以外のメンバーは何が起こったか判らずに、あたふたしているが、二人が歩き出したので、急いで付いてくる。


「ウノ、何があったの?」

 ピノが不安そうに尋ねる。


「斥候にでてたコボルトが、殺されていたんだよ」

「ということは、俺達が後をつけた事がバレているってことさ」


 ウノは場数を踏んでいるのか、経験でそれを理解する能力があるようだ。


「でも、何も仕掛けてこなかったのはなんでなんスか?」


 確かに、追尾がバレているなら、裏をかいて取り囲んだりすることもできるはずだが。


「ガチンコが怖かったんだろ」

 ウノが吐き捨てる。

「コボルトには、俺達の戦力が把握出来ていない。むしろ一瞬で見回り部隊が殲滅された事から、手練れと思ったのかもしれない」


 だったらどうするか……

「籠城作戦なら戦えるって事だろ」

 ウノはどうしてもあいつらを根絶やしにしたかったのか、もしくはその先に、仲間の安否を示すものが無いかを確認したかったのだろう。機嫌が悪い。


「しかし、その判断を下せるとなると、ホブごときではない、もっと上の存在が仕切っている可能性もある。それが判っただけでも収穫ってことで今回の調査は終了だ」


 そう、これは討伐ではなく調査クエストなのだ。

 無駄に犠牲がでる前に報告するのがメインの仕事だ。

 相手が単なるコボルトの軍団だとは思ってなかったが、もしかしたら敵のアジトに入るのは無謀なほどの相手だったかもしれない。少し軽く考えすぎていた。


 俺達が腕利きのストレンジャーだと、過大評価されているにもかかわらず、籠城すれば凌げると思うという事は。中に相当の実力者が居るか、罠が張り巡らされて居るか、援軍が期待できるという可能性がある。


 そのどれを取っても騙し討ちが出来なくなった時点で俺達に勝ち目はない。


 急ぎ足で帰宅しながら、皆に納得してもらうと。

 そのままギルドまでたどり着いた。


 途中で「ホブコボルトの死体、拾っていかなくていいんスか?」としつこく聞かれたが。無視した。

 回収部隊が、襲われてしまったらたまったもんじゃないだろう。

 この知能がある敵なら、俺達のノロシリングに反応する可能性も捨てきれないのだ。




「早かったですね」

 ギルドではフジさんが笑顔で出迎えてくれた。


「緊急で報告があります」

「はい、お願いします」

 こちらの声色に、笑顔からキリッとした顔に切り替わった。

 報告内容は

・偵察部隊を殲滅したこと、その場所

・コボルトのアジトだと思われる場所

・コボルトの対応の詳細

 それに加えて、前回ピノウノが遭遇した地点と、俺が遭遇した地点をマッピングした地図だ。


 フジさんは、真剣な顔をして。

「とても大変な状況のようですね、ギルドマスターの認可を貰って、ランク2以上のストレンジャーで、更なる調査と殲滅のクエストを申請してみます」

「そこまでの内容ですか」


 ランクというのは、俺達ストレンジャーについてる強さの事だ。分かりやすく、レベル10になったらランクが上がる。

 一桁の俺達はランク外、ランク2ならレベル20~29の一流ストレンジャーだ。


「今回はあなた方の申し出があったので、調査をお願いしましたが、蓋を開ければただのコボルトの話ではありませんでしたね。洞窟に踏み込んでたら、帰ってこれなかったでしょう」


 きつく言われた。

 きっと前回の報告が、嘘だと見抜いたのだろう。

 なぜ嘘を付いたのかまではバレていないとは思うが。


「今回の調査から、この街は『スタンピート注意報』を、発令します」


 その言葉にメンバーだけでなく、ギルドでたむろしているストレンジャーもざわついた。


「スタンピート?」

 俺は()()()なので知らない言葉だ。

 俺の指南役、フィオナちゃんが教えてくれる。

「スタンピートってのはね……」


 数年に一回くらいの頻度で起こる、魔物達が徒党を組んで人間の街を襲う現象らしい。

 天災のようなものだが、被害が大きい場合もあり、ストレンジャーにはその対処が求められている。

 警戒警報レベルになると、周囲のストレンジャーが集まりはじめて、近々あるであろう決戦に備えるし、民間の方は街を出て避難する者も出てくる。

 今はまだ注意報なので、関連の調査クエストが発令されて、対策本部が置かれるという状況のようだ。


「スタンピート……ヤバいですね」

「起こった場合、近隣のストレンジャーは強制参加になりますので」

 当たり前のようにフジさんがそう言う。


「聞いてないですよ」

「今、言いました」



 とりあえず、報告の仕事は終わった。

 今回はモンスター素材が無いため、魔法を使ったピノに補充したら、殆ど残らないだろう。


「ホブコボルト、持って帰りたかったっス」

 まだ、言ってる。諦めてくれ。


「えっと、バッシュさん!」

 落ち込んでるバッシュにピノが声をかける。

「魔法撃ったあと、ホブから守ってくれてありがとうでした!」

 勢い良く()の字に折れ曲がりながらピノが頭を下げ、バッシュは顔をあげて答えた。

「一匹逃しちゃってごめんッス、まだ《ラージシールド》取れてなくて、三匹しか止められなかったんスよ」


「ううん、そんなことないです! コボルトさんの攻撃は殆ど魔法で防げましたし、戦闘ならあれくらい当たり前です!」

 やけに持ち上げている。落ち込んでいるから励ましているのかな。

「最初は盾二枚持っててヤバい人だと思ったんですけど」


 あからさまにバッシュが落ち込んだ。

 励ましたいのかどっちだ。


「ちゃんと二枚ともうまく使ってて、格好良かったです!」

 恥ずかしながら言いきると、ウノの後ろに隠れてしまった。

 バッシュは顔をあげてあからさまに元気になった。忙しい奴だな。


「ピノがこんなに喋るのはなかなかない。バッシュは気に入られたな」

 ウノが笑いながら喋る。


「よし、お疲れさん、取り敢えず仕事も終わったし、ギルドから出て飯にでもしよう。臨時パーティではあるが、おれはウノが気に入った、頼りになるし無駄がない!」

 そういってウノの肩を叩いた。

 ウノもまんざらではない様子だ。


「あ……ヤツハシさんって、()()なんですね?」

 突然顔を真っ赤にして、フィオナちゃんがモジモジし始める。

「そう、とは?」

 なんだ、何かまた地雷でも踏んだのか?


「い、いえ! 何でも無いんです」

「そうか」

 わからんが、まぁそれはいい。話の続きだ。


「それで、暫く良かったらウノ達とパーティを組みたいと思ってるんだがどうだろう?」


「はうっ! 私も賛成です!」

 いつになく食い付きのいいフィオナちゃんの援護。

 いつもと様子が違うが、地雷処理担当がこれでは収拾のしようがない。


「ありがとうございます。まだ前のメンバーの生存を諦めた訳じゃないけれど、救うためにも俺達兄妹二人だけではなにも出来ないと思っていたんです。改めて宜しくお願いします八橋さん」

「時彦でいいよ、ウノ」

「はい、トキヒコさん」


 同じレベル帯で、頼りになる仲間が増えるのはとてもありがたい。俺はウノとハグをして、親愛の気持ちを伝えた。

 ウノも驚いたようだが、軽く返してくれた。


「あれっ!? おかしくないっスか? 俺とパーティ組んだときは、男とのハグは苦手だって言ってたっスよね?」

「タッスヨネ」


 あー、猛烈なタックルだと思ったあれか。

「これは、出会いのハグじゃなく、信頼の証だからだ」


「ズルいッス、だったら俺もお願いしますッス」

「マスッス」


 低い姿勢でバッシュが突っ込んでくるのを、セスタスでかわして逃げた。信頼していない訳ではないんだが、これはどうみてもタックルだ。

 バッシュは勢い良く飛んで、ギルドの椅子に衝突、粉々に砕いた。避けなかったら俺が砕けてるって。


 破片が飛び散り、ウノに当たる、俺はとっさに

「おい、大丈夫か? 怪我はないか?」

 元はと言えば焚き付ける言い方をした俺が悪いのかもしれない、それで怪我するのは悪い。


「いえ、ご心配無くヤツハシさん」


「もうダメです……」

 今度はフィオナちゃんが、へたり込んだ。

 良く見ると鼻血が出ている、破片が当たったのか!


「大丈夫か、いまポーションを……」


「ギルド内はお静かに!」

 頭にフジさんのげんこつ……もとい、棍棒的なものを食らって、追い出されてしまった。

 しっかり、バッシュの預金から椅子の代金を取られた上でだ。



 フィオナちゃんは問題がなさそうだったので安心したが、顔が赤くなっている気がする、体調が悪いのかもしれない。

 バッシュは、ハグは出来ないわ、お金は入らないばかりか出ていくわで、落ち込んでいる。


「元気出してくださいバッシュさん」

 ピノが声をかける。

「あはは、元気っすよ」

 あからさまに空元気だが、格好いいなんて言ってくれる女の子に、慰められたら格好付けちゃうのが男の子だよな。


「キッスヨ」


「ところでピノちゃん、なんでバッシュの真似してるんだい?」

 ずっと、気になってたが、あえて今までスルーしていた。


「だってバッシュさんの語尾ヘンじゃないですか」

 楽しそうにニコニコ笑う。

 彼女のツボなのだろうが、ヘンと言われてあからさまに凹むバッシュ。忙しい奴。

 あとピノは励ましたいのか凹ませたいのかどっちだよ。


「はぁ……トキ×ウノ……」

 ボソッとなんか聞こえたぞ。


 まぁいい、ようやくみんな打ち解けてきた。

 明らかに賑やかになってきたパーティと共に

 これからどんどん色んな経験を積んでいこう。

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