036話『再び森へ』
「八橋様、ご依頼の件、反応ありましたよ」
ギルドのカウンターで、フジさんが声をかけてきてくれた。
前回のワイルドボアの退治以降、あの森に遠征に行くことはなかった。それはあのコボルトの件があったからだ。
コボルト自体の知能はあまり高くない。
しかし、ホブコボルトは彼らより長生きをしていて知能が少し高い。
そのホブコボルトがいなくなった場合、統率のなくなった残りのコボルトは、野良モンスターとして頻繁に処理される。近くにストレンジャーが通るとなりふり構わず飛び込んで、返り討ちに逢うのだ。
しかし、他のストレンジャーと話をする限り、そんな状況は聞かない。
つまり話を総合すると、あのホブはまだ中ボスで、その上のボスが束ねている集団の末端に当たっただけではないのかと推測されるのだ。
フジさんも異様な状況を感じていて、俺の依頼を承諾してくれたのだ。
もちろん、新しいボスの調査としてだが。
「それで、そのパーティとは?」
「はい、もうそろそろご予約の時間です」
今回の依頼は、そのコボルトの調査依頼だ。
俺たちのパーティは前衛のみだ、魔法使いやハンター等の後衛のパーティが助かるのだが。
「はい、もちろん後衛が基本になっているパーティに声をかけてありますよ」
「だから心読まないでください」
「心の中は分かりませんが、顔に書いてありましたので」
そういう慣用句はあるが、実際に文字がでている訳でもない筈……あまりにも的確すぎて時々鏡を見て確認したくなる。
「あ、いらっしゃいましたよ」
俺は振り返ると、そこには魔術師とアーチャーの二人の姿があった。
魔術師は少し幼い中学生くらいの女の子だろうか。アーチャーは弓を背中にかかえた少し年上の男の子だ。顔立ちが似ている気がするが兄妹だろうか?
「あの、コボルトの合同クエストに参加しに来たんですけど」
女の子がおどおどしながら声を掛けてくる。
「ああ、俺が合同パーティのリーダーだよ」
にこやかな笑顔を作り、握手を求める。
俺の爽やかなアルカイックスマイルに、女の子は少し緊張をほどくと握手をしてくれる。
筈だったが、その手を後ろのアーチャーが止める。
「馴れ合う気はない、早く森へ行くぞ」
あらら、嫌われてるなぁ。
「嫌ってくれてもいいが、仕事はきっちりお願いするよ」
アーチャーはフンっと腕を組んでそっぽを向く。
この男の子は扱いが難しそうだが、まぁとりあえずメンバーと会わせてみようか。
俺はフジさんにお礼を言って、パーティメンバーの元へと二人を連れていった。
「私、フィオナです。お二人のお名前は?」
そういえば聞いてなかったな。
「ピノ=スタールートです」
魔法使いの女の子は、こちらのパーティに女性がいるという事でまた少し緊張がほぐれたようだ笑顔さえ見せてくれる。
「ウノ=スタールートだ」
こちらはむしろさらにイライラしている気がする……
「わぁ、兄妹なんですね!」
なぜか嬉しそうにフィオナちゃんが、手を叩く。
「僕は、バッシュ=ドンゴロスっス、よろしくッス」
ゴツい手をだして白い歯が見える程に笑顔で握手を求めるが、ウノは完全に無視した。
「ピノちゃんたちは二人でストレンジャーしてるのかい?」
ウノに話しかけても仕方がなさそうだ、俺は笑顔でピノに訪ねてみた。
他の前衛との絡みがあるなら、指示を出さなくても連携の可能性はあるだろう。
しかし、そんなに軽く聞いてしまったのを後悔するほどに、ピノは顔を伏せて、話さなくなってしまった。
まずった……俺はよく地雷を踏むなぁ。
「何か事情があるの? よかったら私に話してみて」
肩に手をおき、優しい響きでフィオナちゃんが語り掛けると、ピノも顔をあげてフィオナちゃんと目を合わせる。
地雷解体能力が高いメンバーがいて助かるよ。
「俺たちのパーティメンバーは、コボルトに分断されてしまったんだ」
泣きそうになってるピノの代わりにウノが答えた。
――俺たちがホブコボルトを退治したあと、彼らもあの森でコボルトの集団に遭遇したらしい。
コボルトはホブに率いられており、統率の取れた動きで彼らを取り囲んだ。
前衛職の二人は兄妹を逃がすために必死に戦った。お陰で命からがらコボルトを撒くことができた。
しかし、森の中の合流ポイントでいくら待っても彼らは来なかったため、助けを求めてギルドへ戻ってきたとのことだった。
「俺たちもその前にホブを倒している。別の群れか、代わりのボスが来たのかもしれないね」
「もしかしたらうちのメンバーも動けないだけで、どこかで生きているかもしれない!」
ウノはイライラしながら話す。
早く仲間を助けに行きたいのか……悪い奴ではないんだな。
ピノは話を聞きながら泣き始めてしまった。
それを優しくフィオナちゃんが慰めてあげている。
「よし。じゃあ急がないとな。詳細は行きながら聞けばいい」
そう言ってウノの肩をポンと叩くと、深く頷いて彼も立ち上がった。
詳細を聞くと、出現ポイントは殆ど俺達が出会った場所と変わり無かった。
まずはそこには行くのが得策だろう。
道すがら彼らの事を詳しく聞いてゆく。
彼らのステータスは
ウノはアーチャーでギルドレベル6
《鷹の目》《ハインド》《集中》のスキルを使える。
《鷹の目》は、乱戦状態の戦場で仲間を避けて、敵に狙いを絞る大事なスキルだ。
《ハインド》は、草むらや木の上に潜み、急襲を仕掛ける際に使う。
《集中》は、ターンの最後に攻撃する事で、集中力を高めて急所を狙うスキルだ。
ピノは魔法使いでギルドレベル7
魔法はまだ初級だが、スキル《詠唱短縮LV1》を持っている。
レベル1だと、詠唱が1行の魔法ならノータイムで、詠唱が2行なら1ターンで発動ができる、魔法使いに必須なスキルだ。
それに彼女の守護精霊はウインディーネ、彼女と同じくレベル7だ。同じ魔法でも、レベルの高い精霊から放たれる魔法は威力も高い。
水の精霊は攻撃魔法が少ない印象だが、仲間に水の膜を張りダメージを軽減したり、回復したりといった魔法が得意なはずだ。
このメンバーでなら、この間出会ったコボルトの軍団程度ならなんとかなるだろう。
水の防御魔法で通常コボルトの攻撃を軽減しながら、俺とウノでコボルトを減らし、バッシュがフィオナちゃんを守って、最後に斧でホブへと攻撃する。
これが必勝パターンかな。
取り敢えず。
「ピノちゃん、君のダメージ軽減魔法は発動が必須だ。君の呪文を教えてくれないか?」
ホブを倒したあと、レベルが上がったので、スキルコイン三枚を使って、『彫り師』のスキルを取りにいったのだ。
これで俺は自分でアイテムに呪文を刻めるし、よろず屋の店長に嫌な顔をされることはない。
もちろん他人に頼んでいれば、いずれ不信がられて銃の存在が発覚する恐れもこれで解決したのだ。
「はい
ー水の精霊ウインディーネさん
私たちを包んで その刃から守ってー
『ウォーターアーマー』
です。」
「なんだか優しい呪文だね」
「呪文って命令口調ばっかりだったからなんか嫌で」
そう言いながら、背後のふわふわ揺れる、水のかたまりのような精霊に手を伸ばすと、精霊はピノの手をくるくるっと回って飛んでいる。
彼女たちは信頼を築いているんだな。
俺は取り敢えず馬車に乗っている間に、その呪文を彫る事にした。
ウォーターアーマーは消費EPが200だが二行詠唱だ。
彫り混むなら200×2×2なのだが、彼女には《詠唱短縮》スキルがあるため、200×2の400EPで発動ができる。
ただし、それを同時に5人分だ。
対象が増えるたびに二倍しなくてはならないので、まずは前衛職の三人、次のターンで必要なら後衛に二人と分けて製作することにした。
これで、開戦と同時にキャストするだけで、前衛か後衛のどちらかに魔法の鎧を着せることができる。
しかし、まだ確実ではない。本来なら安く済ませたいところだが、この守りではすぐに破られてしまうかもしれない。
俺は念のために、更に二倍詠唱のものも彫っておくことにした。
石橋を叩いて渡る性格なのだ。
そして、16エンと32エンの素材を使って魔法を用意した。
ちなみにだが、ちょうど16エンの素材は無い。そんなときは「魔法袋」を利用するらしい。
スキル習得のために例のよろず屋に行った際に、何枚か買わされたのだが。この袋に魔法を書き込み羽を16枚入れれば、中の魔力で発動出来るらしい。
逆にドラゴンの牙に書いて発動した場合、魔力が余ってても、通貨としてはもう使えなくなるので用心しろと言われた。
この魔法袋、使い回しはできるが一枚100エンもする。高い。しかし毎回余った使い物になら無い通貨を作っても仕方ない。先行投資だ。
そうこうしているうちに森まで移動したパーティは、兄妹の仲間を探し、森のコボルトの状況を把握するため足を踏み入れるのだった。
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