35話『危険な報酬』
ワイルドボアと、ホブコボルトの死体を回収部隊が引き取りに来た。
このまま、この森に留まってワイルドボアを探しても良いのだが、先程のコボルト軍団が弔い合戦を起こさないとも限らない。ここは一旦帰って、準備を整えてまた来ればいい。
というわけで回収部隊の荷車に乗せて貰って、街へと帰る。
ギルドに報告に戻る頃には、二人とも元気になっていた。
銃の魔法にビックリしたかもしれないが、元々なんでもありの魔法が当たり前の時代だ。不思議なことは日常茶飯事だし、ましてやその凶器が自分達の味方であるという安心感もあってか、怖がる素振りは無かった。
到着すると、早速受付へ報酬を受け取りに行く。
「レベル5のワイルドボアの討伐依頼でしたね」
カウンターではいつもの受付嬢、フジさんが対応してくれた。
俺たちは平均レベル3、少し上のモンスターを倒せば経験値も多く貯まるのだ。もちろん隠し球もあったし、負ける気はしなかったけど。
「えっ? 素材報酬にホブコボルトの素材があるのですが?」
「あ、はい。ボアの後に遭遇しまして……」
「ホブコボルトはレベル12ですよ? よく倒せましたね」
そう言いながら、フジさんは上から下までこちらを凝視してくる。
「特に怪我もないようですし、不思議です。いったいどういう魔法を使ったんですか?」
この際の魔法というのは、使う魔法の事ではなく、不可解な力という事なんだろうな。ってことはさておき、予め考えていた理由を話す。
「実は、そのホブコボルトはかなり弱っていて、身体中傷だらけだったんです」
もちろん嘘だが、銃の事がバレてはいけないので。回収部隊が来るまでに、彼らが落としていった武器で、死んだホブコボルトの体を傷だらけにしておいたのだ。
ちょっとグロいが銃で空いてしまった顔の穴は、木の杭を作ってもう一度刺し、偽装しておいた。
「ホブとなると、普通は部下のコボルトを従えている筈ですが。ホブ一匹だけの討伐なんておかしいと思ったんですが」
「もしかしたら新リーダーとの闘争で傷ついて、逃げ出してきた奴だったのかもしれませんね」
「確かに……そう考えるのが妥当ですね」
我ながら良い嘘を思い付いたものだ。
わりとシャープなアゴに手を当てて考えるフジさんも、その表情を緩めて話しかけてきてくれた。
「まぁ、何にしても怪我もなく帰ってこれたのは良かったです。クエスト報酬に素材報酬を計算いたしますね」
ワイルドボアはカブトよりも下のレベルだし、今回は一匹だ。素材報酬はそう多くはないだろうが。レベル12のホブコボルトとなるとどうだろうか?
歯や目の魔法通貨だけでなく、彼らは人間などを襲い奪った宝石類を身に付ける趣味がある。ホブにはそれらもいくつか着けていたし、悪い額ではないだろう。
「お待たせしました、今回の報酬ですが
クエスト成功報酬200エン、ボアの素材150エン。
ホブコボルトの素材4000エンです」
「や、ヤバイっス!大金持ちッス!」
そこまではないが、かなり良い額だ。
「ホブコボルトはラッキーでしたね、なかなかこんなタイミングはないですよ」
「はい、ラッキーでした!」
さて
「ところで俺たちの経験値ってどのくらい入ってますか?」
「見てみましょうか」
三人とも羽飾りを外してフジさんに渡す。
受付のテーブルにそれぞれのステータスが表示される。
バッシュギルドレベル5
フィオナギルドレベル6
ヤツハシギルドレベル9
最低2レベルは上がっている、あの戦況で帰還しただけでも、経験としては多いのだろう。
フィオナちゃんは一撃でワイルドボアを倒したボーナスだろうか? そうなると俺は言わずもがなだろうが。
「一気に上がったッスね!」
「これで敬遠してたちょっと上の依頼も受けれますね!」
二人ははしゃいでいるが、俺は気がかりがあった
あまりにも上がりすぎてはいないかと。
そしてきっとフジさんも同じところに気がついている筈だ。
彼女は仕事も凄いが、人の些細な言動や行動で、相手の気持ちを読むのが上手い。
死にかけのホブを倒しても、これだけの経験値は入らないだろう。だったら何らかの方法で、五体満足のホブを倒したのではないか?
そう勘ぐられる可能性はあるだろう。
ここで、彼女と目が合えば嘘がバレかねない。気にも留めない素振りをするのが得策だろう。
「さぁ、今日はラッキーな日だ、俺の奢りで飯でも食おう」
俺はフジさんに背を向け、バッシュの肩を組んで扉に向かって歩きだした。
「わぁ、良いですね」
「うおぉ!食べるっスよ!」
乗ってくれたので自然に俺たちはギルドを後にした。
相手がフジさんでなければ疑問には思わないだろうが。
今回のは、罠を仕掛けたとか、騙し討ちしたとか、もっと辻褄の合うように喋るべきだった。
経験値が予想を上回って入っていたのが誤算だった。
まだまだこの時代の理を、ちゃんと理解できていない証拠だ。今後気をつけないと、足元を掬われるかもしれない。
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