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033話『予想外の戦闘』

ちょいグロあります。

 俺たちは街の東の森に来ていた。


 日々の連携を練り、ようやく実践レベルだと判断した俺は、ついにモンスターとの戦闘に踏み切ったのだ。

 もちろん前述した俺の切り札も、なんとか形になったのもあるのだが。

 その件に関してはまだ二人にも話していない。


 今回はギリギリ日帰りできる範囲内で、クエストを受注した。

 ここなら予想外の出来事が起こっても、何かしらの手が打てるだろう。


 今回のクエストはワイルドボアの討伐だ、周辺の農家から共同で出ている依頼で、一匹倒す毎に報酬を出してくれるシステムだ。


 とはいっても、ワイルドボアは単独行動することが多いモンスターだというのもわかっている。

 毎日のクエスト受注の間に、ギルドでモンスターの特性や生態を勉強していた。

 そのため、前衛職しか居ないうちのパーティで対応するのが一番良いモンスターとして、このワイルドボアを選んだのだ。


「うおお! やるっスよ、やってやるッス!」

 目の前で唸っているワイルドボアよりも、大きな声で叫ぶバッシュ。


 ワイルドボアは家畜化されて、食肉用に育てられているモンスターだが。

「こいつの肉は固そうだな」

 野生のボアは筋骨隆々で、皮膚もかなり固い。牽制で繰り出している俺のセスタス程度じゃダメージが入ってる気がしない。


「引き付けてください」

 フィオナちゃんが《強打》《溜め切り》の体制にはいる。


 それを見てワイルドボアが地面を蹴り、凄い勢いで突っ込んできた。


「出番ッスね!」

 カイトシールドという、体を半分ほど隠す大きさの盾で、正面から受け止めるバッシュ。

 俺にはあんな胆力もパワーも無い。

 ガイーン! という大きな音で、牙と盾がぶつかり合う。

 バッシュもその場で留まろうとするが、地面に足の後を残し、ずるずると1メートル程押し込まれる。


 俺の攻撃はダメージが出にくいのだが、なんにもしないわけにもいかんだろう

 取り敢えず目でも狙ってみるか、とパンチを繰り出した。

 しかし、ボアは本能で首を振り、俺のパンチは眼底の骨に当たって弾かれた。

 マジで役に立たんな。


「やるっス、盾殴り!」

 バッシュがもう一枚の盾で、上からボアの頭をぶっ叩いた。

 ボアは押し込むのをやめて、少し後ろに下がった、効いているのか。


「行きます――てりゃぁ!」

 溜めが終ったフィオナちゃんが、その機を逃さずに渾身の斧を振り下ろした。

 ボアは反応できずに、頭蓋骨から鼻先までを真っ二つに割られ、息絶えた。


 これがスキルの威力か。もしかしたら今の攻撃なら、カブトでも一撃でいけるかもしれない。

 もちろん、隙を生んだバッシュも凄い!

 俺はなにもしてない!


 始めてのコンビネーションで、完全勝利を掴むことが出来た。

 フィオナちゃんも、気が抜けたようにへたり込んでいる、バッシュは跳ね回って喜んでいる。


 俺も内心ではとても喜んでいる。

 魔法を使わずに倒す、それはすなわち「全額黒字」!!


 しかし、いまは大事な時、気を抜くのはまだ早い。


 いま俺たちが居るのは、野性動物のテリトリーなのだ。

 多い繁る木々の奥にボアの仲間がいるかもしれないし、死臭に誘われて、肉食モンスターが現れるかもしれない。

 ここで気を抜くのが一番危ないんだ。


 俺は辺りを見回した。

 気を付けるに越したことはないが、取り越し苦労……


「じゃない!」


 草むらから一匹のモンスターが飛び出してきた。

 顔は犬のようだが、二足歩行で飛びかかってくる!

「こいつはコボルトか!」

 攻撃を避けながら、横腹にセスタスを一撃。

 今回はダメージが入ったようだ。


 敵は「ギャッ」と声を上げて、反対側の草むらに飛び込んでいった。


「こっちにもいます!」

 立ち上がりながら、フィオナちゃんは言った。

 そっちを見ると、赤い目玉がいくつも光っている。


「やややや、ヤバイッスよ、めっちゃいるッス!」

 草むらを掻き分けて、10数匹のコボルトが顔を出した。

「ボアを横取りに来たッスか」

「いいや、もっと悪いかもしれないぞ」


 俺たちは彼らのテリトリーで、狩りをしたのだ。

 たとえここでボアを引き渡して逃げても、追撃は免れないだろう。


「ガウガウ」

 10数匹のコボルトの奥から、少し体の大きいコボルトが出てきた。

「ホブコボルトッス、本格的にヤバイッスね」


 ホブは単に群れのボスというだけではなく

 群れのモンスターのなかでも頭ひとつ飛び抜けて強かったり、知性が高かったり、魔法を使うものもいる。

 同じモンスターだと思って掛かると痛い目を見るのだ。


 ホブの一言で、コボルトは左右に広がり、俺たちを包囲するように取り囲んだ。


「私一体ずつしか倒せません」

 焦りながら、斧を構えるフィオナちゃん。

「僕も2~3匹しか足止め出来ないッス」

 一撃に一匹倒しても、他のコボルトに一斉攻撃されてしまうだろう。


 かといって逃げても見逃してはくれないだろう。

 特に、バッシュは金属鎧なのだ、振りきるのは難しい。

 後ろから狙われるほうが恐ろしい。


「どうするッスか!」

 二人も選択肢が無いことはわかっているのだろう。


「やるしかない、か」


 ホブは不気味にニヤリと笑った。

 俺は懐から、スッと銀の筒を取りだし、ホブに向けた。


「スチルヒート!」


 ハーピィの爪に刻まれた呪文が赤く光り「バン!」と爆発音が鳴り響いた。

 その音にコボルト達はたじろぎ一歩下がったが、飛びかかるための姿勢は崩していない。ホブの次の合図を待っているのだろう。


 しかし、合図の代わりに聞こえて来たのは。「ギャウワン」悲痛なコボルトの声だ。

 ここにいる皆がそっちを振り向くと、唖然とした。


 ホブの右目の辺りに穴が開き、血が吹き出している。

 立ってはいるが既に絶命しているようだ。


 何が起こったかようやく理解したコボルト達の中に、恐怖が伝染した瞬間を、肌で感じた。

 俺はすかさず「バクチク!」と唱える。


 またもや響く、破裂音。

 その音を聞いたコボルトは脱兎のごとく逃げ出していく。



「助かったッス」

 バッシュはその場にへたり込んでしまった。

 フィオナちゃんも同様だ。

「今のは魔法なの?」

「そうだよ、俺のオリジナルの魔法だよ」


 俺はこの数日間で、簡単な機構の銃のようなものを作っていた。


 見たことの無い見えない魔法に、きっと二人は爆発音と共に、ホブの頭に穴が開いたとしか認識出来なかっただろう。

 それはきっとコボルトも同じだ。


 銃というのは、その殺傷能力だけが特徴ではない。

 その時に出る爆発音も、恐怖の対象になる。


 その音を聞いた時には、仲間の誰かが死ぬ。そう瞬時にインプットされる。

銃を知らない相手なら尚更怖いだろう。

 だからこそ、音だけのバクチクの魔法でコボルトは逃げ出したのだ。


「見た通り危険なものだし、そう何度も使えるものではないから、あまりあてにしないでくれよ」

 そういいながら、バッシュの腕を掴んで乱暴に引っぱり起こす。

 フィオナちゃんも腰が抜けているようだ。優しく起こしてあげよう。


「さぁ、回収部隊に来て貰おうか」

 俺は緑のノロシを上げた。



 今回は想定外の状況だったが、備えあれば憂い無しということだろう。

 数日の間、新しいものを作り、実験をしてきた成果だろう。

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