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032話『初級鍛冶士』

 その後俺はまだスキルの習得に悩んでいた。


 バッシュを加えたことで、依頼の幅が広がったため、ギルドからの依頼でも多少は実入りが良くなった。

 だが、それも見回りや簡単な日銭を稼ぐタイプの依頼だけだ。

 代わりに時間を作って、三人でやれる連携や、訓練に勤しんだ。

 メンバー間の連携が上手くいっていない状態で、モンスター戦闘をこなしても、回復薬や消耗品で赤字になってしまいかねない。それでは意味がないのだ。


 あとはそういう建前とは別に、実践投入できる俺の武器がまだ出来ていないもの理由ではある。


 本日の業務を終らせて、俺はフィオナちゃんを誘って、最近流行りの喫茶店に来てみた。


「フィオナちゃんはどんなスキルを取ったの?」

 流行りの喫茶店で話す内容でないのは十分承知している。


「そうですね、私は《強打》と《溜め切り》ですかね」

 フルーツを絞ったジュースを、可愛く飲みながら教えてくれたが。

 その雰囲気とは真逆の、めちゃくちゃ攻撃的なスキル編成だ、ギャップがえぐい。


 《強打》は攻撃することに集中してダメージを上げるスキルだが、回避がおろそかになり相手の攻撃を受けてしまいやすい欠点がある。

 《溜め切り》は攻撃を相手の行動の後にすることで、しっかりと構え、力を込めた一撃を出すスキルだそうだ。

 二つとも肉を切らせて骨を断つタイプのスキルといえる。


「ザ・クレイモアって感じのスキルだね」

 先のカブトとの戦いで、ビキニアーマーの防御力の高さを実感しての采配だろうか。


「トキヒコさんはどんなスキルとるの?」

「悩んでるんだよなぁ」


 スキルはメインとサブに大きく分ける事ができる。

 メインスキルは体術や必殺技などの、戦闘に直接関係するスキルで。

 サブスキルは、職業的なスキルやお金を稼ぐタイプのものが多い。


「グラップラーだったら、《組み付き》とか、《臨機応変術》とかじゃないですか?」

 確かに、戦闘を進めるためには必要なスキルだろう。


「スカウトやローグのスキルも魅力的でさ」

「ダンジョンや森の中でのクエストには必要ですもんね」

 フィオナちゃんが戦闘に全振りしている以上、サポートスキルは持っておきたい。



 サブのスキルは多岐にわたり。

 乗馬、ピアノといった習い事

 料理、掃除などの家庭的な事

 鍛冶屋、鑑定士、泥棒などの職業的なものまである。


 泥棒が職業かはこの際置いておくが。


「スキルってこれで上げれるんだよね」

 俺の手には2枚のコインが握られていて、「スキル」とEF語で書いてある。


「そうですよ、欲しいスキルを持っている人に、それを渡して教えて貰うんです」


 頭の中に選択肢が浮かんできて、ピッって押すと習得、みたいな簡単な流れを想像してたんだけど。

 改めてここは、ファンタジーでもゲーム転生でもなく、俺がいた現実世界の延長線なんだなと感じる。


「魔法もスキルで覚えるの?」

「ううん、魔法は覚える前提が揃えば、普通に使えますよ」

「そか、スキルのない普通のご家庭でも使えるんだったね」

「ライターやコンローの魔法や、ピュアリーウォーターなんかは、その場にあるものを種に使えるはずですから」


 敵にダメージを与えられるような強い魔法は、守護がレベルアップしたりしないと使えないから、それが『前提』って事なのかもしれないな。


「じゃぁ魔法使いの人とかは、スキル余っちゃうんじゃない?」

「《詠唱短縮》とか《集中》のスキルは習得が難しいから、何度も講習を受けなくちゃいけないんですよ」

「そっか、じゃぁ2枚じゃ無理なんだ」


「私なら迷わず《組み付き》と《絞め技》選びますね」

 フィオナちゃんって脳筋すぎる。



 折角色々と聞いたが、今後も攻撃に極振りするであろうフィオナちゃんの性格を見て、逆に攻撃はとらないようにしようと決めた。

 できる限りサブに回るのだ。



ーーというわけで、一個目のスキルを取りに来た。


 街の東の方にある森側を歩く。

 そこは職人が多く住む街で、簡単な生活用品や、武器の直しをやってくれるような工房が並んでいる。

 俺は事前リサーチで、腕の良い鍛冶屋を聞いてきていた。


 これまた表通りではなく裏手に入り込んだ店だったが、確かに雰囲気がある。

 看板には『カルボナーラ』と書いてある、これはパスタの名前ではなく、由来である『炭焼き小屋』のイメージで付いているのだろう。


「こんにちは、スキルの習得でお世話になりたいんですが」


 店は道に対して完全にオープンな作りで、前に立つだけでむわっと熱気が凄い。奥からは鍛冶屋らしく、カンカンという金属を打つ音が聞こえる。


「なんじゃ、ボウズがローズの言ってた若造か」

 なかから大きな声で話しながら、小さなおじさんが出てきた。

 慎重は120cmくらい、体格はバッシュよりもっとごつごつしている。そして白くて長い髭。ドワーフだろう。


「わしの名前はカルボじゃ、よろしくなボウズ!」

「八橋といいます、よろしくお願いします」

 俺はそういいながらスキルコインをカルボさんに渡した。


 スキル習得の代わりに渡すこのコインは、カルボさんがギルドに持っていく。そうすると、講習代金をギルドから貰える仕組みになっているそうだ。


 こうやって街の人、ギルド、ストレンジャーは、お互いに共存し合える仕組みを確立しているようだ。


 さてスキルは、このコインを渡した瞬間に習得するわけではなく、実技と座学でみっちり叩き込まれる。

 ガチのお勉強スタイルだ。


 今回習得したい科目は、《初級鍛冶士》のスキル。

 このスキルは、出先で武器の手入れや修理、鍛冶職人の基本魔法の習得、武器や鎧に対する見識が上がるといった効果がある。


「今時鍛冶スキルを覚えたいなんて言う若いもんも珍しいのう」

 といっているところをみると、あまり人気のスキルでは無いのだろう。


 実際に習い始めると、イメージで知っている鍛冶の知識が役に立ち、座学には殆ど時間を必要としなかった。

 実技も「刃物の研ぎ方」を教えて貰ったりするのだが、体を流れる魔素の関係もあってか、苦労する事無く身に付いていく。


「まぁ、コインなんぞ無くても、包丁の研ぎ方くらい、いつでも教えてやるがな」

 確かに、ここまでは一般技能レベルといえる。

 ポイントを使ってまで利用する必要はないが、ここからが本番だ。


「さぁて、お次は基礎魔法の勉強じゃ」


 この時代で、始めての魔法の勉強だ。

 一般的に誰もが使えるわけではなく前提を必要とする、特殊な魔法。

 こんなの、ローブに三角帽子のいかにも魔術師から習うと思っていたのに。一番縁が無さそうな、筋肉ムキムキオーバーオールのドワーフに習うなんて夢にも思わなかった。

 こんなの昔のゲームにもなかった展開だ。


「ライターの魔法は使えるかの?」

「100リンライターだったら使えますが」

魔法機構(アーティファクト)無しでは使ったことないか?」

「はい」


 100リンライターのように、簡単な動作だけで「魔力」「種」「詠唱」まで一体になっているものを、『魔法機構(アーティファクト)』と呼んでいる。

「魔力」の源であるフォルネウスの鱗に、火打ち石を擦って出来た火花で「種」を作って、持っているアイテムに刻まれた「詠唱」で全てを短縮してあるのだ。


 もちろんライターの魔法は、機構を使わなくても発動できるのだ。


「じゃぁ、指の先に火を付けるぞって感覚で、呪文を唱えてみろ」

「わかりました」

「じゃぁ、後に続くんじゃ」


ー燃えろ小さき炎ー

「ライター」


 俺の指先に火が灯った。


「簡単ですね」

「誰でも使える魔法じゃからな」

「でも、それじゃなんで魔法機構のライターが普及してるんですか?」

 誰でも使えるなら、わざわざ持ち歩かなくても良さそうだけど。


「アホじゃなぁ。火を付けたいなと思うときに、火を持ってるバカは居ないじゃろう。ここは鍛冶の炉もあるし、その辺に火の精霊がうろうろしとるから、問題ないがの」

「あ、そりゃぁそうか」

 魔法の万能感にごまかされるが、意外と制約は多いのだ。


「じゃが、次の魔法は割とどこでも使えるぞ」

「それは助かりますね」

「次の魔法は、《ヒートブラックスミス》と言ってな。熱のあるところだったらどこでも使える」

「日光の熱とか、火の熱とかですか?」

「体温も熱じゃろ? もちろん熱源温度が高ければ、より高温にできるぞ」

 そりゃどこでも使えて便利そうだ。


 カルボさんは奥の部屋から鉄の破片を持ってきて、それに向かって呪文を唱えた。


ー燃える炎に在るものは

  叩かれる度に強くなる

   だからお前は赤くなれー

「ヒートブラックスミス」


 鉄の破片が赤くなっていく、割と高温まで一気に上がったようだ。


「この魔法は金属を暖めることができる魔法じゃ。と言っても、鍛冶錬成する際に、この魔法だけで作ることはまず無い。炉で暖めて叩いた方がエンの消費も少なくて効率的じゃからな。」

「では、どういうときに使うんですか?」

「炉に入れた上で、熱を上乗せして早く暖めたいときや、叩いているうちに冷えるのを遅くする時に使うんじゃ」

「それは便利そうですね」

「だが、呪文が3行ある上に、かなり近づかないと使えない魔法じゃからな。ストレンジャーは見向きもせんのよ」


 呪文が3行、これはつまり発動までに3ターンの間、敵の攻撃を掻い潜らないといけないということだ。戦闘時には大幅なロスになる。その割に、金属を暖めるだけと言う使い勝手の悪いスキルだと言える。


 しかし、俺はこの魔法を取りたくてこのスキルを選んだと言っても過言ではない。


 寒冷地でプレートアーマーを暖めて、全身で寒さを凌いだり。敵に組み付いたまま、相手の鎧を熱してダメージを与えたり。

 もしかしたら捕まって手錠をかけられても、鎖を熱すれば、引きちぎったり出来るかもしれないと思ったのだ。

 使い方次第では便利な魔法だと俺は思っている。



 余談ではあるが

 この世界の魔法は、詠唱、魔法名共に、自分でカスタマイズできる。

《シールドバッシュ》を《盾殴り》とカスタマイズしたバッシュみたいに。そのスキルや魔法がイメージできるものであれば、大体いけるので


ー熱くなれ熱くなれ

  熱くなれ熱くなれ

   熱くなれよぉおぉお!ー


 みたいな呪文でも成立するのだ。


 そして「魔法名」を発音することでキャストすることができる。

 もちろんこの魔法名もカスタムできるので


 取り敢えず先程の呪文の後に「松岡修造」と叫んでみても、発動した。

 もちろん後で変更したが。



 こうして《初級鍛冶士》のスキルをマスターした。

 結局丸一日、カルボさんは仕事の手を止めて付き合ってくれた。

「ありがとうございました」

 俺は深々と礼を言った。とても有意義な時間だった。


「ボウズは覚えも早いし、好奇心が強い。教えていて楽しかったよ」

「スキル以外の話も教えていただいて助かりました」

「おう、また遊びに来い。武器のアップグレードなんかもやってるからな」


 今度お礼にお酒でも持って遊びに来よう。

 気さくなドワーフに見送られて、俺は初のスキル習得を果たしたのだった。

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