030話『女子会乱入』
カブトとの戦闘から数日後。
俺はこの間の戦闘について考察していた。
初戦にしては善戦したとは思うのだが、最終的にはカリンの強力な魔法ありきの勝ち戦だったと言える。
しかし、赤字を出す戦い方では続かないのは間違いない。
こういうことを相談したいと思うとき、タブラ達が居ないのは痛い。
そうなると……
見上げているのは、鉄の鋲で留められた、大きな木の扉。
皆様お察しの通り「ロッドオブヴァーミリオン」の前にいる。というより、この街にこの人以上に経験値の高い人がいるのだろうか?
ここに来るのは、戦闘訓練の時以来だ。
扉を押そうとするだけで、あの恐怖が思い出される。
しかしその扉は大きくて重い割に軽く開く。
奥からピンクのレオタードを着た大男が満面の笑みですっ飛んでくる。こんな見た目だが、入り口の扉の蝶番には油を注すのを忘れない、几帳面な性格なんだ。
「あら、トキちゃん。モンスターとの戦闘はどうだったかしら? カブトと戦ったみたいだけど、その剣じゃ苦労したんじゃないかって、心配してたところなのよ!」
何故そこまで詳細に知っている。
「パーティメンバーの活躍で何とかなりましたよ」
「そう、良かったわ、あの子以外にもお友達出来たのね」
「友達……まぁそんな感じですね」
一緒にいた時間は短かったが、今後は友達になるかもしれないな。
「そうそう、私も今日は友達が来てるの」
「オカマ仲間のですか?」
「あら失礼ね! 可愛い女の子よ」
オカマではないのか、促されてローズさんの奥を見ると。
「よっす、クロノス君じゃまいか」
ギルド受付嬢の……
「チャコさんでしたか」
「お、名前覚えてくれてるんだ、色男は違うねぇ」
いや、わりとうざく絡んでこられたんで覚えてるだけですけどね。
「私たち仲が良いのよ、今お茶会してたところなの、トキちゃんもどうぞ」
そういうと、腰をくねらせながら、テーブルに戻っていく。いつから喫茶店になったんだここは。
と思いはしたが、折角なのでお茶をいただく事にした。
ふくいくとした香りを漂わせる、ハーブティを淹れてくれた、見た目に似合わず、こだわってるなぁ。
「トキちゃんが心配で、付け焼き刃で何日か練習に付き合ってあげただけだったでしょ? そのまま実践で大ケガしてたりしないかって不安になっちゃって」
「で、今問い詰められてたんすよー」
付け焼き刃と言ってたが、なかなかの密度の練習だった。
よもや、自分よりでかいカブトムシが現れても、何の恐怖も沸かない程の恐怖を植え付けられるとは思わなかった。
「ローズさんの特訓のお陰で、冷静に対処出来ました」
感謝しているのは本心だ、大人の対応をしよう。
俺の笑顔の感謝に満足したのか、ローズさんは子供の成長を見る親のように感激しているようだ。
「でもあれっしょ、経験値は殆ど入ってないんじゃないですか?」
チャコさんの言うとおりだった。
ギルドで報酬を貰う際に、教えて貰ったのだが、自分のステータスやランク上げまでの数値を見れる機能では、今回のモンスター討伐では殆どその数値に変化がなかった。
「トキちゃんがパーティに加えていた魔法使いって、貴方よりずっとレベルが高かったんじゃないかしら?」
「そうなんでしょうね、ランク3の魔法を使ってましたから」
「ってことは、レベル30以上って事ね……それじゃ経験値は入らないわね」
この時代では体内の魔素の総量以外に、質も向上させることが出来るそうだ。それはあらゆる経験を積むことで、魔素を効率的に動かせるようになることらしく。
今回の戦闘では同ランクのモンスターを狩ったのだが。
カリンが居なければもっと苦戦し、考え、ダメージを負っての勝利になっただろう。
その経験をすることはできなかった。
つまり、高レベル冒険者についていっても、実のある経験は出来ないと言うことだ。
「ま、経験値は上がらなかったけど、貴方自身は良い経験出来たんでしょ?」
「そうですね、今回かなり勉強になりました」
「カブトみたいな固い敵だと剣にエンチャントをかけるのもいいわよ」
「スカウトとか仲間に入れたら、罠とか探知とかで、戦闘を有利に進められるんじゃないの?」
まだまだ勉強することは多いようだ。
「で、トキちゃんは何か聞きに来たのかしら?」
あれから考えてたことを話すことした。
剣を使っていると、いざというときにとっさの動きが出来ない事が気になっていた。
「じゃぁグラップラーが良いかもしれないわね」
「グラップラーは臨機応変なクラスだよ、殴る蹴るの攻撃だけじゃなくて、転ばせたり羽交い締めしたりして敵を無効化させるクラスなんすよ」
ラスティちゃんもこのクラスだったはずだ。
そういえば呪龍との戦闘時も、他のメンバーのために鱗を剥いだりして、有利になるような行動をしていた。
俺がピンチになった時に助けに来てくれたり、タブラの魔法が完成したのを見計らって、退却の合図を出していた。
確かに、あの動きが出来るのであれば、俺がやりたい動きが出来るかもしれない。
「剣からクラスチェンジとか必要ですか?」
ギルドの仕事には、チャコさんが詳しいだろう。
「うんにゃ、必要ないっすよ」
しかし、ヘラヘラとした表情で言われるといまいち不安が残る。
これが、フジさんだったら一発で信じただろうが、チャコさんはいい加減な感じが否めない。
「クラスチェンジは必要ないわね、剣のスキルなんかを取ってれば、無駄になっちゃうものもあるかもしれないけど、まだもってないでしょ?」
ローズさんの言葉なら信用できる。
「そういえばスキルって、どう習得すれば良いんですか?」
「そうねぇ、簡単な方法で言うと、スキルをもってる人に教えて貰うのが一般的だわ」
なんだか当たり前の話だった。
知ってる人に教えて貰うだけなのか。
剣士であれば剣のスキルしか取れないのではなく、魔法のスキルもグラップラーのスキルも取ることは可能らしい。
スキルってのは体を流れる質の良い魔素を、スキル名の発音とともに反復練習させ、その動き専用に体に覚えさせる事らしい。
それによって、瞬間的に体が勝手に動き、技を出したり、魔法の詠唱への魔力の練りが早くなったりするのだ。
同じことをずっとやっていると、何も考えなくても出来るようになるのと一緒だ。
「じゃぁ、戦闘で魔法使いじゃない人が、魔法を使う場合に必要なスキルってありますか?」
「そうね、魔法短縮を使う前衛職もいるわよ」
話しながら頬張るクッキーが焼きたてのところを見ると、これもローズさんのお手製なのだろう。
外はさくっと、中はほろほろと口のなかで溶ける。かなりのの腕前だ。
「そうねぇ、スキルを取るだけならそんなに難しくはないけど、短縮魔法を取るとなると、かなりスキルポイントがいるわよ。詠唱を一行短縮する度に、EPを倍ずつ消費しちゃうから、お金も掛かっちゃうしね」
「短縮の代わりに、使いたいスキルを、あらかじめ彫師に彫ってもらってもいいかもですね」
「彫師?」
詠唱の破棄スキルを取る代わりに、鱗や角に予め呪文を彫り込んでおいて、詠唱を短縮する方法だそうだ。
急な戦闘などで、剣士が自分にエンチャントを掛けるのに重宝しているらしい。
しかし、呪文を彫られたアイテムはその魔法以外に使えなくなるし、消費EPも軽くはならないデメリットもあるそうだ。
「それは良いことを聞きました」
俺は扱いたい魔法がいくつかあるが、魔法使いの詠唱の長さが気になっていた。とっさの対応を強化したいという俺の理念とは逆の職業だ。
かといってモンスター退治はビジネスでもある、詠唱破棄はお金が掛かりすぎる、カリンのように赤字魔法をバンバン扱う訳にはいかない。
「目眩ましや、陽動のための簡単な魔法をいつでも使えるようにしたいんです」
その言葉に火がついたのか、色々な対策を教えてくれた
「目眩ましといったらウィプスの光魔法なんか良いかもしれないわね」
「音系、風系なんかで敵の注意をそらしたり出来るかもですね」
「でも洞窟の中ではウィプス使えないわね」
「狐火とか良いんじゃないですか?」
二人は勝手に盛り上がり始めた。
俺も聞き専だったが、ちゃんと色々勉強させていただいた。
……しかしだ。
巨大なおねぇと、戦闘の話。
俺の知っている女子会ってもっとこう……まいっか。
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