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003話『同じ太陽』

 チュンチュン、チュンチュン


 鳥の鳴き声で目が覚めるなんて、元の時代であっただろうか? そんなことを考えながら、まどろみの中、うっすらと目を開ける。


 元居た暗い洞窟の中ではなく、今は木々の覆い繁る地上にいるようだ。自分が知っているのと同じ太陽が、木漏れ日を降らしている。

 寝かされているのは地面ではなく、柔らかな草の上だった。体の上にも毛布らしきものが乗っけられている。


「おはようトキ君」


 たき火の向こうで座っている、タブラが声をかけてきた。


「回復魔法を掛けておいたから、体を動かせるようになってるんじゃないか?」


 体を起こして自分の手を握ってみた、大丈夫動きそうだ。


「よく寝たなら次は食事だ。君は500年もの間何も食べてないのだからな」


 焚き火には魚らしき物が、串に刺されて焼かれているが……この世界の物を口にいれて良いものだろうか?

 心とは裏腹に、腹が鳴る。


「あれ? トキさん起きたんだね!」


 ガサガサと草を掻き分け、ラスティがどこからか帰ってきた。手にはウサギを二匹ぶら下げている。ツノがあるのが気になるが、ウサギのようだ。多分そうだ。


「お帰り、アルミラージか。良いものが捕れたね。ちゃんと食べればトキ君も元気になるさ」


 あれ、アルミラージって言うんだ……何だったっけ昔やってたゲームのRPGに出てきた気がするんだが。


「食べても平気なんですか?」

「むしろ何も食べないと死ぬと思うが?」

「それはそうですけど……」


 ラスティは手際よく、首を落とし皮を剥いでいる。身は簡単にぶつ切りにして、果実らしきものと一緒に鉄製の入れ物に放り込む。

 見た目の子供っぽさと裏腹に、こういう生活に慣れてる感じが伝わってくる。


「鍋にしましょっか、火力を上げたいから角使っていい?」

「いいんじゃないか? アルミラージごとき報告はいらんだろう」


 そう言うと、ぶつ切りのウサギの肉を入れた鍋の前に立ち、切り落としたツノを手に持つとラスティは目を閉じた。



ー人は炎を 炎は食物を 食物は人を

  産み出されるものに感謝をー


『ヘスティアファイア』



 途端に焚き火の火が大きく燃え上がった。火柱ではなく、渦を巻くようにして鍋を中心に球形を成して行く。不思議なことに鍋を掛けている木の枝は燃えず、すぐ近くの自分達も熱さを感じはしなかった。


 そして、10秒程でまた普通の焚き火に戻ったのだ。


「魔法……」


 足を溶かして貰った時には混乱していたし、火の玉も最初は真っ暗で状況が解らなかった。こんなに目の前でちゃんと魔法を見たのは初めてだ、もう言い逃れは出来ないぞ! これは完璧なファンタジーだろ?

 完全にテンションぶちあがってきた!


「凄い! 魔法だ、ラスティさん魔法使えるんですね!」


 興奮してしまった、いやするだろう? これだけで俺はこの世界に来て良かったかもしれないと思える。だって、小説や漫画でしか使えない魔法を直に見ることが出来たんだ。凄いもんは凄い!

 しかし、当のラスティの反応は冷めたものだ。


「全然スゴくないよー、このくらい当たり前だよ?」


 まぁこの世界の住人には珍しく無いものだろう。魔法使いって職業くらい、普通にありそうだしな。ラスティは謙遜しているが、きっと生まれの素養や血のにじむ鍛練によって獲得できる職業なのだろう。俺はその奇跡の技につい拝んでしまった。


「そうだよ、この世界では誰でも魔法が使える。子供でも主婦でもね」


「……いやっ! ありがたみ無いな!」


 なんてこった、職業どころか子供でも使ってた! 生まれの素養も、血がにじむ努力もないんかい!

 みんなが使える魔法って期待感失せるなぁ……とは言え、勝手に期待しただけなので……


「俺の時代には無かったものなので、驚きました」

 大人の対応をしておこう。


 しかし、世界が変わったのではなく、500年後の地球と言われてもピンと来ない。どうやっても俺が居た時代からは、科学ではなく魔法を使う選択肢は見えてこないからだ。


「誰でも使えるが、魔法媒体が必要になる。例えばそれだ」


 タブラがアゴで示したのは、ラスティの持ってるアルミラージのツノだった。ラスティがそれを地面に落として見せると、それは光の欠片になるかのように、小さく砕けて消えてしまった。


「魔法を使う際に必要なのは、魔法生物や幻獣等の体の一部だ。その中に含まれる魔力を使うことで、誰でも魔法を使うことができる」


 そう言いながらタブラは紙巻きたばこのような物を咥えて、ポケットから手のひらサイズのアイテムを出した。上部には金属のダイヤルが付いており、親指でシュッと擦ると、その先に小さな炎が灯ったのだ。

 そして、慣れた手付きでタバコに火を付けた。


それって……

「ライター?」

「そう、ライターだ。よく判ったね」


 魔法道具っぽく無さが尋常じゃない!


「焚き火の時もこの百リンライターで、火を付けるんだよ」

 ラスティも、パッとタブラからライターを奪うと、火を付けながら説明してくれる。少し響きは違うが、100円ライターと同じ用途なのだろう。


「この中にはフォルネウスという魚の鱗が100枚入っていてね、一枚使用する毎に小さな火を付けることが出来るんだ」

「鱗だからリンなのか……」


 これでも魔法の道具らしい。

「トキ君もやってみるかい?」


この世界で始めての魔法ーー

ドキドキ


シュッ!


ボーッ



……この世界の始めての魔法はむちゃんこ地味でした。

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