027話『始めての敵』
ギルドで言われたとおりに、裏手の門を出ると、馬車が何台か停まっていた。
「ギルドから門までの馬車は羽飾りを見せれば、無料で乗せていただけますわよ」
便利なことだ。この広い街を車もないのに端まで歩いていたら、それだけで半日かかってしまうだろう。
15分ほどで西門まで到着することが出来た
この街に来たときに入ってきた南門からすると、寂れているように感じる。
ここまでの道のりも中央から離れるにつれて、露天も少なくなっていた。
お陰で馬車も加速でき、早く付いたのだが。
乗ってきた馬車は、乗る者が居ないのを確認すると、さっさと戻っていってしまう。
「こっちの門はあんまり人が居ないんだな」
門の外側を見ても、ぽつんぽつんと遠くに農家らしきものが見える程度だ。
「すみません、地図の場所まで行きたいんですが」
門の管理をしている門番的な人に訪ねてみる。
「そうだなぁ、この地図だと、あっちの方に二時間くらい歩いたら、黄色の大きな屋根の家があるから、そこで聞くといいよ」
「二時間ですか」
「そうだなぁ二時間だなぁ」
うへぇ、往復四時間か。
「馬車とか出てないんですか?」
「ないねぇ、運良くそっち方面に行く馬車があれば、乗せて貰えるかもしれないけど、こっちの門から出ていく馬車は殆どないからねぇ」
やっぱり歩きのようだ。
俺は振り向きながら。
「と、言うことらしい。馬車を誰か持ってるか?」
ダメ元で聞いてみることにした。
「馬車なんて、相当レベルの高いパーティしかもってませんよ」
両手で否定の意思表示をしながらフィオナちゃんが言うが。
カリンはアゴに手を当てて
「私は持ってますけど、家出中なので持ち出せないですわね」
と言う、いや持ってるのかよ。
しかし、今は使えないなら仕方がない。
「歩けばいいのではないのですか?」
まさかのお嬢様が、当たり前のように言うところをみると、この時代ではこのくらいの徒歩は、日常茶飯事なのだろう。
-街から街を渡る
見えない私の友達よ
私の背中を押しておくれ-
「フォローウィンド」
唐突にカリンが魔法を唱えた途端、体の回りに風が纏わりつき、少しだけ体が浮き上がった。
「さっ、行きますわよ」
そういうと、文字通り風のようにカリンは、目的地の方向に進み始めた。
「あっ、待ってください。ヤツハシさんも早く」
フィオナちゃんも慣れた感じで、後ろを追いかけ始めた。
これは高速で動ける魔法なのだろう。
呪龍の夜に、タブラさんがかけてくれた魔法とは違う感じだ。
同じ移動系の魔法にも色々あるのだろう。
この魔法は、足元から強い風が吹いてきて、体が持ち上がる。体を倒した方向に、後ろからまた風で押される感じだ
10分も進んだところで、黄色の大きな屋根が見える。
魔法は本当に楽チンだ。
二時間かかるところをこんなに短縮できるのだから。
慣れている二人は早めに到着しているようだ、カリンに至っては既に依頼主に会ったのか、家の中から出てくる所だった。
「ここの畑に出てくる、カブトという昆虫モンスターを狩れば良いらしいですわ」
テキパキと指示を出す様に、リーダーシップの素質を感じる。
リーダーは俺なんだが……いや、この時代にまだ馴染んでない以上、ここは甘んじて、任せておこう。お手並み拝見ってやつだ。
「ここの畑は結構広いので、手分けして探しましょう」
というわけでそれぞれに、別れて辺りを回ることにする。
見晴らしの良い畑の方には居なさそうだったので、俺はトウモロコシやサトウキビといった、背の高い作物の畑の方を回ることにした。
テキパキしすぎて、カブトについて聞きそびれてしまったが、カブトという昆虫モンスターと聞いて最初に浮かんだのは、黒くて角のある、あの虫だ。
でもそうだったら一般人の手に負えないヤツではなく、むしろ子供達の人気者だった気がする。
しかし、ベアウルフというモンスターも昆虫的な生き物だったし、先入観を持ちすぎるのも良くないだろう。
暫くサトウキビの畑を巡回していくと、畑のなかでバキバキっと音がする。
とりあえずみんなに集まって貰うべく、青色のノロシリングを空へと打ち上げた。
それに反応したのか、バキバキっという音はこちらに近づいてくる。
サトウキビをなぎ倒して現れたその姿は、子供の憧れそのままの姿で、牛ぐらいの大きさのある昆虫だった。
間違いなくカブトだろう。
カブトの突進に合わせて、ブロードソードに手をかける。
手のひらサイズの時には、早いと思ったことはないが、それが牛ほどの大きさになるとかなりのスピードだ。
俺はタイミングを見計らい、カブトの角を剣で横に捌いた。
といっても、角を弾くというより、剣で押す反動で自分の体を横にずらす感じだ。
「よし、上手くやれてる」
この動きは連日行っていたローズさんの戦闘訓練の賜物だ。
今思い出しても吐きそうだが……
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