024話『魅惑のビキニアーマー』
この時代に来て10日程経つが、生活で行き来するのは限られた場所が多いため、まだ全てを見て廻ったわけじゃない
この街が巨大な城壁に囲まれているのは先に語ったと思うが、その円周は大人が歩いて2日程かかるという。
南の入り口を入ってすぐが栄えており、初めてここに来たときに通った大通りがある。
東と西はわりと平坦な地形で、農作物が作られていたり、森があったりする。
またこの街は東西に一本の大きな川が横断しているのだが、この川は元々の地形をそのまま利用しているらしい。
生成された地形の川には居ない魚や、魔素の質がちがうらしく、割とポピュラーな形態だそうだ。
まだまだ見て回りたいが、探検は別の機会にしよう。
いつもの道を進み、路地を曲がって、行きつけになっているローズさんの武器屋に到着した。
いつもの重厚な扉を開けると、陳列された武器が迎えてくれる、毎度この瞬間はファンタジーに心が弾む。
「あーら、いらっしゃい、ま! 今日は女連れ?」
そしてこの声で萎む。
「初心者同士でパーティを組んだんですよ」
「あらま、妬けるわねー女の子と二人きりなんて」
「で、この子の防具を新調したいんですよ」
会話にならない場合は、無視して話を進めるといいと、タブラからアドバイスを貰っている。
「あなた、お名前は?」
「フ、フィオナ=タルトです」
大丈夫フィオナちゃん、見た目はこんな感じだけどいい人なんだよ。
「役職はなにかしら?」
「クレイモアです、武器は斧を使ってます」
ローブ姿と見た目からすると、魔法使いにしか見えないんだけどね。
「鎧を買ったのですが、そのお店はビキニアーマーしか置いてなくって……」
「あ、分かった、レッドソニアね!」
「そうです、そんな名前の防具屋でした」
有名だったのか。
「あそこの店長はビキニアーマーしか勧めないのよ。この世の女の子は全員ビキニアーマーになればいいと思ってる変態なのよ」
なんだそのイカれた思想は!
けしからんもっとやれ!
声には出せないが応援したくなったぞ。
「ちょっと見せてくれるかしら?」
「あ、っはい」
恥ずかしそうにこちらを見たが、その間にもローズさんは躊躇なくローブをはぐったので、肌の部分が露になって狼狽えている。
まじまじと見ると、出るところは出てて、引っ込むところは引っ込んだ、まさにビキニアーマーの申し子と言わざるおえない体つきで、目のやり場に困らない状況だ
俺がガン見している間に、ローズさんは鑑定を追えたらしく。
「これ、いくらで買ったの?」
と、真面目な顔で聞いた、いつも笑顔のイメージなのに、そんな顔されるとただただ怖いんですが。
「え、と、1200エンくらいだったと思います」
1200エンといえば、12万円くらいの価値だ。
ここに飾ってある全身金属鎧のものと比べても高いのに、あんなに金属部分の少ない装備にそんな金額を取るなんて……
「1200エンでこんなもの売られちゃたまんないわね」
苦虫を噛み潰すように、ローズさんも唸る。
可愛そうに、折角貯めたストレンジャーへの資金を搾り取られて。
ここは俺が大事なパーティメンバーに鎧をプレゼントしてあげなくては!
俺は肩を落とすフィオナちゃんを元気付けるために明るく声をかけた。
「悪徳業者に騙されたのは残念だけど、犬に噛まれたと思って新しい鎧を……」
「逆よ、逆!」
ローズさんが慌てて遮る。
「逆?」
「こんな良いものを1200エンで売られちゃったら、回りの店はたまったもんじゃないわよ、って話!」
んー、どういうことかな?
「ビキニアーマーは見ての通り、肌の露出が多くて実践的じゃないでしょ?」
「はい、お腹とか刺されたら怖いなぁって思ってました」
不安そうに答えるフィオナちゃん。
「でもそのビキニアーマーは透明な素材を、魔法加工されていて、肌に見える部分まで防御できるようになってるの」
「つまり、見た目はビキニなだけの、フルアーマーってことなんですか?」
「その通り。少なくともこれと同じものを作るなら、材料費だけで3000エンは掛かるでしょうね!」
俺の火ネズミアーマーより高いだと!
見た目レザーアーマーの、サービス品だけど、これも結構高級な筈なのに。
「そ……そんなに良いものなんですか?」
流石に金額を聞いてフィオナちゃんも口に手を当てて驚いている。
驚きすぎて肌を隠すのも忘れている。
あぁ、目のやり場に困らん!
「レッドソニア、あの変態オヤジめ、商売捨ててるわね」
敵対心を燃やすローズさん。
見た目だけで言うとローズさんも変態なんだけど……
レッドソニアは、どうしてもビキニアーマーを使って欲しいから、私財をなげうってでも手放せない鎧を押し付けたって事か。
変態だな! と、フィオナちゃんをガン見しながら思う。
「そんなに良いものならどうしよう……」
レッドソニアの思惑通り、手放すことに躊躇し始めた。
「同等の鎧を買うってなると、今は手持ちがないし、仕方ないからそのまま使った方が良いんじゃないかな?」
リュックに2000エン入ってるのは秘密にしておこう。
「普段はローブを着て、戦闘の時だけ脱げば良いんじゃないかしら?」
ローズさんナイスアシストです。
「それも、そうですね」
チラリとこちらを見るフィオナちゃん。
俺は曇り無きまなこで。
「戦闘時は俺も敵に集中してるから、大丈夫さ!」
ハッキリとそう答えた。本当に集中できるか分かんないけど。
「じゃぁ、このままで使っちゃおっかな」
よし! レッドソニア万歳!
取り敢えず今回は鎧の性能が分かっただけでもよしとしよう、これならモンスターとの戦闘に向かってもなんとかなりそうだ。
それから数日はギルドへ行って採取クエストを請けたり、稼いだエンでポーションを買ったりして、来るべき討伐クエストに向けて準備をした。
今更ながらフィオナちゃんには内緒で、戦闘訓練もしている。といっても、知り合いの強い人なんて、ローズさんくらいしか居ないわけで……
ただ、これがめちゃくちゃきつかった。
帰ってはすぐにベッドに倒れ込む毎日を過ごした。
そんなある日のこと。
屋敷に戻ると、二階からガチャガチャと不思議な音がする。
この鍵が無ければ、セキュリティ抜群のこの家に入れる筈ないのだが……
剣に手をかけて、ゆっくりと階段を上る。
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