023話『豪邸』
「ここか……」
紙切れを片手にたどり着いたのは、この辺では割と大きな建物だった。俺は地図と住所の描いてある紙をポケットに仕舞い込んで、改めてタブラの話を思い出した。
「依頼を請けてくれる間だけでも、隠れ家に使ってくれと貰ったのだが、むしろ目立って仕方ない。鍵は窓枠に置いてあるから、探してくれ」
言われたとおり、いくつかある窓を探っていくと、本当に鍵を見つけることができた。
鍵で扉を開けると、誰も入っていない埃の香りと共に、しっかりとした木造の内装が迎えてくれた。
「わぁ!広いですね!」
隣でフィオナちゃんが感嘆の声を上げる。
結局ランチで満腹になり過ぎた二人は、すぐにクエストに出ようという気にならなかった。
その代わりにタブラから預かった家を見に行こうということになったのだ。
入り口を入ると、まっすぐに廊下と階段、左右に二つづつドアがある。
二階もあるようだし、かなり豪華な邸宅のようだ。さすがはこの街を作った、創造者の持ち物だ。
街の外の掘っ立て小屋で暮らしている人たちに、申し訳なく思えてくる。
「スゴい、スゴい、スゴイ!」
フィオナちゃんも、初めて見るくらいの豪邸らしい。ものすごくハイテンションで、あちこち部屋を開けてはスゴイ! を連発している。
逆に俺は落ち着かない。
どっちかと言えば、狭くて平気な方で、手の届くところで全部済ませてしまいたい派なのだ。
こたつなんかがあれば完璧なのだが。
その時だった。
「キャー!!」
階段奥の部屋で悲鳴が聞こえた!
「フィオナちゃん!」
危険がないか、誰も居ないのか、ちゃんと確認するべきだった。後悔するよりも先に声の聞こえた部屋に飛び込んだ。
フィオナちゃんは、へたりと座り込んで、目に涙を溜めている。
「何があった!」
回りに人影はなく、外傷も特に無さそうだが……
部屋を見回すと、ここはどうやらキッチンで、四角い竈のようなものが並んでいる。鍋や包丁といった道具も揃えてあるのだが、別段変わったところがあるようには見えない。
「……エンカ」
フィオナちゃんは虚ろな目でなにかを呟いていた。
「何があったの?」
俺は改めて、落ち着いた声で語りかけた。
「オールエンカ……」
「オール電化?」
オールエン化。
それはつまり、富の象徴とも言える産物。
お金が湯水のように使える金持ちにだけ許されるシステム。
魔力の元をセットし、使用することによって、薪で焚かなくても、魔法で火を放出し続け。井戸から水を汲まなくても、パイプへ水が送り出されるシステム。
もちろん使えば使うほど、それこそ湯水のように、どんどんエンが消費される。
風呂を一杯にするのに、80エンも掛かるというのだから驚きだ。
しかし、桶に水を汲み湯船に張り、それを暖めるための薪を集めるのは容易ではない。一般の家庭では、風呂を沸かすなんてのは一日仕事なのだ。
「すみません、取り乱してしまって」
ようやく冷静を取り戻したフィオナちゃんに、オールエン化の説明を聞きながら、領主の凄さと、そこに信頼されていたタブラの凄さを改めて思い知った。
二階は4部屋の個室になっており、家財道具とそれぞれ豪華なベッドが置いてある。
もちろん俺一人では絶対にもて余すのだが、取り敢えず一番手前の部屋に荷物を放り込んだ。
「こんな贅沢なおうちに入るの初めてです!」
いまだにキラキラした目で、装飾品などを見ている。フィオナちゃんはどんなところに住んでいるのだろう?
「フィオナちゃんって家族はいるの?」
「私は孤児院出身なんですよ」
いきなり地雷を踏んだ!
ってのが顔に出てたのか、
「割と普通ですよ?」
と、焦った様にフォローをしてくれた。
「普通なの?」
「はい、親がストレンジャーで、事故やモンスターに殺された子供は、専門の孤児院に入る仕組みがあるんですよ」
確かに、昨晩の呪龍の戦闘でも、多くの死者がでたと聞いているが、その中には子供が居るものもあったのだろう。
旦那さんが死んでしまった、あの女性の事を思い出しながら、そういった人たちの救済も、この世界にはあるのだなと思った。
「ストレンジャーの孤児院はとても待遇がよくて、読み書きや剣術、魔法の勉強もできます。街の人よりも恵まれているといっても過言ではありませんよ」
感謝するように、指を組んで話す姿は、さながらシスターのようなイメージだ。
「そういった施設も、創造者のお陰なのかな?」
「いえ、街の創造は殆ど地形だけです。家や施設は移り住んだ人や、ギルドなどが建築するそうですよ」
「ほうほう、宅地販売なんだ」
一応、俺は街などない閑村で生まれたことになっているから、フィオナちゃんも抵抗なく教えてくれて助かっている。
タブラが居なくなった今、主な情報源はフィオナちゃんに頼らざるおえないのだ。
「全国にあるストレンジャー孤児院は、有志の出資だと聞いています。でも私もどなたが出資してくれているのか知らないんです」
奇特な人も居たもんだ。
「孤児たちは15歳になったら自由に外にでて暮らして良いので、私はお金を貯めてストレンジャーになりました」
で、ビキニアーマーを買わされた、と。
時折ローブのしたから見える光景は、惜しいものがあるが、後でちゃんとした鎧を買いに連れていってあげよう。
一応呪龍の褒賞金もあるし。
「ストレンジャーの仕事で親を亡くしたのに、同じ職業を選ぶのは怖くないの?」
一見して戦いに身を置くような雰囲気にも見えないし、性格も本を読んだり裁縫をしている方が、似合いそうなイメージなんだが。
「怖くないと言えば嘘になるんですけど、私は夢のために強くなって世界に飛び出したいんです」
「ストレンジャーになって、叶えたい夢……」
命の危険よりも、叶えたい夢。
フィオナちゃんは強い意思でストレンジャーになるという。
なんだか人間的に強い存在だと尊敬の念が沸いた。
「夢の話はまた今度にしましょう、今はレベルを上げて外にでれるくらいに経験積まなくちゃ」
「そうだね、取り敢えずは防具新調しなきゃね」
俺はその他の要らないものを部屋に残すと、呪龍の褒賞金の袋を背負い袋に入れて支度を済ませた。
目指すは「ロッド=オブ=ヴァ-ミリオン」!
入り口で待っていたフィオナちゃんと合流すると、ちゃんと鍵を閉めた。
この鍵も魔法が掛かっていて、鍵を閉める事でセキュリティシステムが作動。ちょっとやそっとの攻撃魔法でもびくともしないバリア的な物が張られるらしい。安心感強いぞ。
なんだか分相応なものを頂いた気がするのだが、有効利用できるのだろうか……まぁ大は小を兼ねるというしな。
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