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022話『別れ話は突然に』

「ところで、君は何の用があったんだい?」

 急に真顔に戻ってタブラが言う。


 当初の勢いは俺にはなく、むしろ何をしに来たんだろうといった状況になってしまっている。


「あ、そうだった、お金を返しに……」

「装備代かい?返さなくてもいいよ」


 確かに、別の道を行こうと決めた気持ちがない以上、好意に甘えても良いわけだ。でも「何しに来たんだ?」って状況が恥ずかしい、何か無かったっけ。


「あ、ギルドで褒賞金を取りに来て欲しいって」

「今、ラスティに行かせているよ」

「そうですか」


 他になんか、あったような……

「俺の新しいパーティメンバーと会って貰えませんか?」

「ふむ?しかし私にはあまり時間もないし、人に会う気分でもないな」

「え、何故ですか?」


 会わせるって言っちゃったんだけど……


「黒の魔法使いという言葉を聞いたかな?」

「タブラさんの二つ名ですよね」


「黒の魔法使いと一緒に居ると、命を落とすぞと」

「確かに巷ではそういった悪いイメージがあるようですね」

 ローズさんから聞いたのだが、本人もそう言われているのを知っているようだ。


「それだけではない、天使にも目を付けられているし、一部のバカな者達にも追われている。」


 タブラが黒の魔法使いだと分かっている状態で、一緒に行動していると、自分達まで動きづらくなるだけでなく、命を狙ってくる刺客からも迷惑をかけられるというのだ。


 錆釘(さびくぎ)の体に入ってから、錆釘が歳を取らないという噂があり、不老不死の秘術を知っているのではないかという事で狙われることもあるという。


「ずっと気になってるんですが、魔法使い、魔法使いっていうのに、大きな剣持ってるのは何でなんですか?」


 一番最初に少し振り回しているのを見たけど、呪龍討伐の時には持ってすら居なかった、あれだけ強力な魔法を使えるんだったら剣なんて要らないんじゃないだろうか?


「あの剣は特別なんだ、一人旅で連れ添った仲間だ」

 一人旅してる人間は寂しくなって武器を仲間と呼ぶのだろうか……

「もしかして、寂しいときに剣と話したりしてるんですか?」

「そうだよ」

 半分冗談だったのに。ああっ一人って悲しい。俺にはフィオナちゃんがいてよかった!

 なんて考えていると、タブラはあの剣を持ってきた。


「テツ、起きなさい」

 そういうとベルトをはずして剣を下ろしたが、剣は地面に落ちる前に、ふわっと浮き上がり。


「おいおい、良いのかよそいつに見せちまってよ」

 と話しかけてきた。


「大丈夫だ、中から見ていたんだろう?」

「まぁな」


 勝手に会話をしているが、どうそこに入って良いのか分からない。取り敢えず、剣も喋るよねこの時代なら。と勝手に納得して受け入れる事にした。


「はじめまして、八橋時彦です、テツさんというんですか?」

 人間(?)関係を築くにはまずは挨拶だ。


「おう、俺はテツよろしくな。漢字で金を失うって書くんだぜ? 漢字は分かるか?」

「分かりますよ、ちなみに俺は漢数字の8に……」

「覚えらんねーから良いわ。トキって呼ばれてんな? OKそれで行こう」


 ざっくりとした性格だなぁ。


「まさに金を失う、だな。君に掛かる高級メンテナンスオイルが馬鹿にならん」

 タブラが茶々をいれる。


「うるせぇ、俺は年代モンだぞ? お肌の手入れには金が掛かるんだ」

「あれは表面に薄く塗るものだ、君のようにガブガブ飲まれては困ってしまうよ」

 タブラがすらすらとフランクに話しているのを見て、このコンビが長い付き合いなのだと理解した。


「コンコン」

 ドアのノックが聞こえてラスティが入ってきた。


「あれ?テツさん解禁なの?」

 何やらあれこれ買い物をしてきたらしく、荷物を置きながらラスティが聞いてくる。


「秘密が多いと大変だねぇ、バラせば楽になんのになぁ」

 テツがタブラに向けて喋っている、秘密ってのは青血の一族の話の事か。


「テツ、物事にはタイミングというものがあるんだよ」

 といいながら、床に落ちたベルトを拾い上げる。


「へいへい、また封印されちゃかなわぇな」

 といって普通の剣に戻っていった。



「ラスティ、出発の準備は出来ているか?」

「あいあい、出来てますよー」

 割と大荷物の束ねると、お互いにそれを担いだ。


「新しい依頼ですか?」

 荷物の量から、ここ数日の旅行という感じではない。

 

「そうだよ、街を離れるんだ」

「へぇ、そうなんですね、いつ帰れるんですか?」

「いつかな、何カ月後か何年後か」

「は? 急に言われても何も用意してないですよ」


 俺は急いで取り敢えず剣を鞘に仕舞うと、あたふたとした。べつだん持ち物は無いんだが。


「トキ君はここに残ると良い」

「まだ外に出れるレベルじゃないしね」


 あれ? 置いていかれる?

 さっきまでこっちから距離を置いてやるって息巻いてたのに、まさかの逆パターン!?


「いいかい? さっき話したが、私たちは色々な者に追われている、君にはまだ『黒の魔法使い』の仲間は早い」


 戦力外通告かよ!


「領主からの依頼も終わっちゃったしね」


 テロリストの目的を潰したことで、依頼も終わったということなのだろうが、だったらなおのこともっと話をして、色々な事を教わりたい。

 そう思うと悲しさが込み上げてきた。


「俺はついて行けないんですね」

「うん無理だよー」

 ラスティ即答。


「その代わり君には三つ置き土産がある」

 そういうと、タブラは一枚の紙を渡してきた。

「一つ目はこの任務中に、拠点にしてくれと領主から宛がわれた家がある」


 紙を開くと地図と番地のようなものが書かれていた。


「二つ目は呪龍の褒賞金を君に譲渡する」

「銀行に貸金庫作っといたから、名前言えば貰えるよ」


「三つ目は君自身のものだが」

「俺自身?」

「君の特殊な加護、クロノスについてだ」


 タブラは昔の知り合いに、クロノスの能力について聞いてくれていたようだ。


「その男自身もクロノスを使っているのだが、いまだ正確な発動条件などは分からないらしい」


 クロノスを使いこなせる人って英雄クラスの人物じゃないんだっけ。

 そんな知り合いが居るだけで凄いことだろうに。


「しかし、仮説では、短時間だが時間を操作できるのではないかという話だ」


「過去に飛んだり、未来を見たりですか? 自分の時代に戻れたりは……」


「そこまでの力はないだろう、ほんの一瞬だ」

 無理か。


「しかしその一瞬が大事な場面は多くある、あの呪龍からの一撃が外れたのもきっとそのせいだ」


 俺は呪龍の鉤爪を鼻先に感じた瞬間を思いだし、身震いした。

 確かにあのとき、本来逃げきれる筈ではなかったが……

「まったく自覚はありませんが、制御できるんでしょうか?」


「出来ないだろうな、私の友人もいまだによく分からないと言っていたぞ」

「せめて、何か発動条件とか、発動の痕跡でもあれば」

「例えばだが。実際に過去に戻ったとして、爪に当たった未来を、当たらなかった未来に変えた時点で、私たちが認識できるのは当たらなかった未来だけだ、実証などは出来んよ」


「意識的な発動も、強化も出来るか分からないってことですか」


「クロノスを守護に持つ人間は、その使い勝手の悪さに手放したり、乗り換える者が多い。君はどうだろう、そのままずっとクロノスと共に強くなれば、何か変わるかもしれないぞ」


 俺はこのクロノスをもっと知りたいとも思う。

 出来るかぎりこのまま行ってみるとするか。


 むむむ、と考えているところに、ラスティが声を掛けてくる

「じゃぁそろそろいくね」

「また会おう」


 急だ。

 ビシッと手を上げ、感慨惜しむ間もなく二人は居なくなった。

「窓から行くんですね」



 誰も居なくなったベッドに腰かける。

 この世界で頼りにしていた二人の存在は大きすぎる。


 目標が定まり、そして走り出そうとした矢先だっただけに、なんだか力が抜けてしまった。


 この世界ではいつも出鼻をくじかれるが、今回が一番ダメージがでかい。


 しかし、彼らが目の前にいないからと、進まない理由にはならない。

 彼らに追い付けるように頑張るしかないだろう!


「よし、出来ることからだ! 取り敢えずクエストをうけ………」



 あ、やばい、忘れてた。


 急いで階段を降りると、酒場の分厚いテーブルの上にアゴを乗せ、こっちを睨んでいる緑の髪の女の子が。


「もうっ、遅いですよ!」

「ごめんなさい!」


 色々あって忘れてたとは言えないが、彼らが去ってしまった事を伝えた。


「結局待ち損でしたね」


 余計不機嫌になったかも。


「私、自棄食いしたい気分です」

「はい、何でも好きなの頼んでください」


 結局フィオナちゃんは機嫌が直るまで、豪華ランチを食べ尽くしたのだった。

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